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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第2部:第5章
190/199

第190話 「目標と志」

「やっぱりダメです、私では勝てませんね」


 俺の、最後の攻撃が効いたのか、澪雫が未だ自分の腕をさすっている。

 やり過ぎた感がしないでもないが。


「ごめん」

「大丈夫なのです。あまり気にしないでください」


 彼女はそう言って俺を慰めた。七星ななせが処置を行っているため、大事にはならないといいが。


 やっぱり、俺は勝ちにこだわってしまいそうだ。

 そのために怪我をさせてしまったのかと思うと、勝利したというのになぜか自分が情けなく思えてしまって仕方がない。

 どうしよう。


「ネクサスくん」

「……」

「ネクサスくんが、私を正してくれたんですよね」


 彼女の言葉が耳には入ってくるが、あまり脳の中には浸透していない。

 ああー、やっちゃったって言う後悔のほうが大きい。


 そんな俺を見かねたのか、魅烙みらくが近寄ってきた。

 その眼は厳しい。


「試合で、本気を出さない人のほうが私は軽蔑するけれど?」

「……いや、でも」

「でもじゃなくてね。相手は大丈夫って言ってるんだから気にしちゃいけないと思うけれど?」


 その言葉に、澪雫が力強く頷いているのをみて、俺はどうすればいいのかわからなくなってきた。


 やっぱりそういうものなんだろうか。


「特に、ネクサスくんはトップに君臨してるんだから、もし私達が裏切った時に相対シないといけないのは貴方なんだよ」


 ま、裏切らないけれどと魅烙。

 でも、俺には自信が完全になくなってしまった。

 どうしようかな、これからあまり考えないほうがいいんだろうけれど。


 ……モチベーションが下がった気がする。


「私のせいですよね」


 俺がそれでも思い悩んでいると、澪雫がボソリとつぶやいていた。

 その顔は今にも泣き出しそうで、俺達がそばにいるというのに、孤独感を覚えてしまう。


「私が弱いから、ネクサスくんに余計な迷惑をかけるんですよね」

「これはただ、ネクサスくんの心が弱すぎるからだと思うけれどもね」


 しかし、魅烙は強かった。

 澪雫の弱音を、反省を一蹴して、俺の責任だと決めた。


 決めつけた、なんて思わない。確かに、俺は身体に心が伴っていない。

 そのくらいのことは知っている。分かっているのだ。


「でも、親父は」

「ネクサスくんはネクストさんなの?」


 ぐっ、と。

 魅烙に言われた言葉に対して、俺は言葉が詰まる。

 俺は親父に憧れていた。強くて、仲間に優しくて、何より「自分の大切な人」を、誰でもわかる形で大切にしていた自分の父親を尊敬していたし、敬愛もしていた。


「尊敬したり、目標にしたりしてるのはいいけれど、絶対に同じような形になる必要はないと思うけれども?」


 よく考えてね、と魅烙。

 俺はそれをきいて、自分の考えが今までわかっていたのかと葛藤を始める。


 父親を目標にしていたのだろうか。ちがう、俺は父親そのものになりたかったのだ。

 能力を使いすぎても普通は死ぬ。けれど、愛する人のためにそれを超越し、現人神となった父親になりたいとおもった。


 まだまだ、自分の才能も開花し始めたばかりだけれど。


『ミラクの言うとおりだな』


 ネロが、俺だけに聞こえる声でそういう。

 その声は確かに、リースを守るために異世界で「平民」から「王」になった彼として、一番説得力のある言葉だっただろう。


『大切な人というのは、ただ大切に宝石のように扱うものじゃないぞ』


『一緒に歩んでいく人なんだ。私は「王」になることによって、一緒に歩めるようになった』


 リースは「氷」の聖女。それに平民であるネロが愛情を育むことは出来なかった。

 許可されていないのだ。しかし、今は「王」という存在になることで許されたのだという。


 俺にはよくわからない。それしか今までしてこれなかったから。

 俺にはそれが出来ないのかもしれない。父親がどんなことを考えてきたか、わからないのだから。


「ネロ、教えてくれる? 涼野冷とネクスト・アルカディアがどうしていたか」

『ああ。ゆっくり話をする』

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