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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第1章
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第19話「学園説明会1」

「……おはよ」

「おはようございます、ネクサスくん」


 朝。

 結局、同じベッドで寝るわけにも行かず、俺は床で雑魚寝した。

 目を覚ますと、ちょうどいい時間になっていたため澪雫みおを起こそうと思ったら、すでに起きていた。


「……昨日、何か寝言……言ってました?」

「おう」

「えっ」


 特に隠すことでもなかったため、俺はそのまま答えた。

 うん、俺の母親のこと。


 俺がそう伝える前に、澪雫の顔はボッと。

 まるでトマトのように赤く染まった。


「な、ななななんと!?」

「師範ーって」

「にゃっふ」


 この子も猫科か!

 とおもったら、慌てすぎた副産物のようだ。


 それにしても。

 ……寝起きの少女というのは、ここまで色気のあるものなのか?


 意識は覚醒しているものの、ごしごしと目をこする少女の姿は、何とも言い難いものを漂わせている。

 理性のトリガーをこじ開けに行くような、感覚だ。


「あ……。駄目って、昨日言ったじゃないですか」

「すまぬ」


 無意識に、俺は澪雫に手を伸ばしていたらしい。

 彼女に注意され、俺は手を引っ込める。


「ふふ、男ってやっぱり正直ですね」

「……」


 否定が出来ない!


 俺が反省していると、澪雫は立ち上がって俺をみた。

 なぜ俺が雑魚寝していたのか、疑問に思っているがそれはおまえのせいだ。


 何人畜無害をアピールしていやがる。


「なら、一緒に寝てもよかったのに」

「冗談でもそんなこと、他の人に言うなよ? 絶対勘違いされるからな?」

「はい」


 わかってます、と澪雫。

 この人、真意がつかみにくいのが面倒なんだよなぁ。


 俺に近づくのは、能力関係の話が聞けたからだけじゃないはずだ。

 魅烙みらくくらい、単純な性格だったらよかったものの。

 そうも行かない、か。


「では、私はこれで。後でまた玄関で待ってますね」

「了解」


 バタン、とドアが閉まる音がして、俺は澪雫が自分の部屋に帰っていったのを確認した。

 結局、何の目的で彼女は俺の部屋で寝たんだろう?


 考えてもわからないため、俺はあきらめて自分の準備をすることにした。

 後で考えても、問題のないことは後で考える。


 今考えなければいけないことは、ないな。

 いや、魅烙のことか。後ででいいか。

 ……魅烙は、時間が解決しなくても魅烙から解決させにかかってくる人だからな。






「おは、よう……?」

「おう、おはよう。魅烙」


 ほら、何も心配はいらなかった、だろ?

 魅烙は予想以上にびくびくしていたが、俺の反応を見て少しだけ胸をなで下ろしたようだ。


「昨日は、ごめんなさい……」

「ん、小さな事だし気にするな」


 そもそも。

 俺のせいだしな、あれ。

 なぜ魅烙が謝っているのか、疑問でもあったが少しくらいは。


「って、澪雫……さん?」

「……おはようございます」


 ごめんね、と謝って顔を上げた魅烙は、俺よりも約三歩ほど後ろに澪雫がいることを確認し、ふるえた声を発した。

 動揺しまくっている魅烙と、そんな彼女をみてほくそ笑むのを必死にこらえる澪雫。


 修羅場までカウントダウン、くるか?

 とおもったら、零璃れいりが魅烙の手綱を引いていた。


「こんなところで面倒ごとを増やしても意味ないでしょ」

「にゃー」


 指導係なのか、零璃は。

 うむ、まあ零璃なら大丈夫かな。


 女……じゃなかった。

 女だし、って言い掛けた。

 毎回間違えるの、俺もいい加減覚えないかな。


 しかし、外見って言うのは大事だな。

 零璃はちゃんと一人称も「ボク」だというのに、何で間違えるんだろう。


 やっぱり、声質、か?


「いいや、早く学園に行くぞ」

「はぁーい」

「はいっ」


 魅烙は澪雫の方をみて不満げな顔を隠さず。

 逆に澪雫は、全く魅烙のことなど気にしていない、


 うん、ぜんぜん相手されてないぞ、魅烙よ。


「うぅ」


 魅烙の立場がなくなってきた。

 恐るべし、澪雫。







「……1日目からこれか」


 王牙おうがさん、特進クラスの教室をみてあきれたような顔をした。

 特進クラスは各学年100人で、【座学の免除】というとても魅力的な特典というか、権限がある。


 実技もある程度免除。しかし、まさか初日から半分以上がいないとは。


 ちなみに洸劔こうきは来ていた。

 この人がまずはこなさそうなのに。


 後、来ているのは女子が圧倒的に多いな。

 それと、ゼニスを狙っているだろう人。


「まあ、簡単に説明を始めるぞー。俺の名前はみんなもわかっていると思うが、八神やがみ王牙おうがだ」

「せんせーって、あの【ー鬼牙龍きがりゅうー】なんですかー?」


 口を挟んで質問したのは、女子生徒の一人だ。

 突発的に、挙手もせずに発せられたため誰かは判別できない。


 王牙さん、その言葉に対してうなずく。


「そうだな。それで間違いないと思う」


 うわ、女子生徒が一気に湧き始めたな。

 王牙さん、格好はワイルドを前面に押し出していながら爽やかだから格好はいいだろうし、人気はあるんだろうな。


 結婚してるけど。

 娘もいるけど。


「で、こっちが妻の華琉はる。特進クラスは良くも悪くも特殊な人がそろっているため、特別措置として学年主任の烏導うどう輪化りんげ先生と華琉先生が副担任としてつくことになる」


 100人に対して、教師は3人体勢か。

 しかも、この学園最強と呼ばれている2人がメイン。


 特進って、上になるほど危険なんだよな?

 なのに、この学年に集中させているって事は。


 それほど、この学年はヤバいということらしい。


「1年の今の時点で、天王子序列20位とかがいるクラスだ。次いで99位、そして150位」


 この学年で3位。これが俺の今いる立ち位置か。

 ふむ。……微妙だな。


 それにしても、1年の最初の時点で2桁ナンバーの人がいるのか。

 この学園ではこう言うのが普通なのか、それともやっぱりこの学園がおかしいのか。


 1人は検討がついているけど、きっともう1人もすぐに判明するはずだ。


「20位、痕猫あとねこ刑道けいち。99位、天鵞絨てんがい洸劔こうき。150位、ネクサス・アルカディア……っとこんな感じか」


 うん、察しはついていた。


 20位の痕猫刑道は学園長の息子だ。

 99位の洸劔は理事長の息子。


 そして俺は、みんな知ってるご存じの【伝説】の息子。


「出来レースかよ」

「それは、今から説明する公式試合を観戦してからだな」


 言ったのは男子生徒。

 しかし、それを予測していたかのように王牙さんは一蹴した。


 その言葉は、まるで俺たちがそれに出場することを前提として言っているかのように。

 まあ、【頂点ゼニス】を目指したければ、参加して勝利するのが手っ取り早い方法なんだろうけど。


「今回の方式は、【混合殲滅戦】だ。基本的に2・3年の、【アライアンス】に加入している人たちが有利な方式だな」


 つまり、説明を聞く限り参加する場合、普通はどこかの【同盟アライアンス】に参加し、先輩から戦い方などを教わりながら……というのが普通らしい。


 ソロの1年は格好の標的になり、どうたらこうたら。

 まあ、知っていたけど。


 ……俺はソロかなぁ……。


「あれ。澪雫は?」

「私は涼野流のアライアンスがあるそうなので、そちらに」


 澪雫は決定。

 魅烙も決定。


 零璃は……たぶん魅烙と一緒だろうな。

 姉さんが、っていうか零璃の姉である赫良かくらさんが勧誘しない訳ないし。


 やはりソロで、自分の実力を確かめてみる、かぁ。


「死人を出さないように、ある程度の付加が身体にかかると医務室にワープされるようになっているから安心するように」


 安心できないなぁ……。

 たとえば、姉さんがまとめて1000人くらい襲ったら。


 医務室はそれだけで満杯になるからなぁ。








「ういーす」

「洸劔が99位か」

「運が良かっただけっしょ」


 相変わらずの軽い口調で、洸劔はそう答えて周りを見回した。

 今は休み時間。零璃や女子勢は女子で固まり、男子は散り散りの状態である。


 うん、零璃が女子に紛れ込んでも大丈夫なのがまことに遺憾である。


「いや、洸劔は当然の結果だろ。不死身君」

「不死身ってか、電気がないと無理だし」


 電気があれば何とかなるっていうお前が脅威なんだよ。

 と、つっこみを入れたくなる気持ちを抑えつつ、俺は相づちを打つ。


「ネクサスはソロ?」

「今のところその予定だなぁ。……入る先はあるんだろうけど」

「ほぉ。あとは異名問題?」

「それも洸劔は簡単じゃないか」


 まあね、と洸劔はイタズラっぽく舌を出した。

 環境的な意味で言えば、今彼にないものはないからなぁ。


 ちなみに洸劔は誘われているアライアンスに加入するという。

 ……まあ、妥当だろうな。


「君があの、伝説の息子か」

「んあ?」


 突然後ろから声をかけられ、振り向くとそこには背の低い男子がいた。


「ん? 誰?」

「ああ、俺の方から説明すると……」


 

 この人が、痕猫刑道だよ。

 洸劔はそういって、満面の笑みを浮かべた。

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