第189話 「風斬音」
これはあれだ、突進するからいなされるんだな。
それなら、連続で蹴りを加えてみよう。
俺は相手に殺到し、「醒力」のこもったキックを何回か浴びせる。
いや、もっと派手なことがしたいな。
左手に氷属性の力をためて、ボールを投げるような要領でパンチを繰り出す。
全くもってベクトルのむく方向性が違うと思われるが、ものは試しだ。
父親とかどうやって戦闘してたんだろう。いろんな方法は模索できるけれど、ド派手な攻撃とか流石にできないよなぁ。
母親もどうやって剣術のみで斬撃を飛ばしたんだろうか。俺には分からないや。
「っく!」
それを薙ぐようにいなして、滑るようにこちらへ接近する澪雫。
俺は一定の距離を取るように後ろへ下がり、彼女を深く観察する。
ああ、やっぱり攻撃が見えない。
剣が速い。数週間前までは見えていたのに、今では見えなくなっている。
小程度の能力弾では全く意に介していない。
こちらの攻撃の、着地点が分かっているように刃がそこへ置かれているのだ。
それならば、相手が防御不能なくらい、強大な能力弾を使わなければならない。
俺は両手を握りしめた。
手のひらから迸るように、蒼い光が漏れだす。
あまり関係はない、とにかく、目の前の相手に、澪雫にそれを叩き込む。
ビーム状に伸びた光を、澪雫は視認した瞬間左へ方向を転換する。、
ビームを照射している間、動けないと考えたのだろう。
でも、俺はそんなミスは侵さない。
相手に出来るだけ照射できるよう、後ろに下がりながら一定の間隔を保つ。
徐々に砲塔を相手へ向け、照射し続ける。
刃が鉄を削り取るような音がしている中、澪雫は構わずこちらへ突っ込んできた。
それがいいことだと全く思わない。寧ろそれが確かなる脅威になっている。
あの斬撃を、俺が止められるわけがない。
今、遠距離で攻撃しているのは接近して長居すると確実に負けるからである。
ルール違反だが、覚醒を使うか?
そんなことも頭によぎった。もともと涼野流剣術というのは能力者にたいして対抗するために母親が生み出したものだ。
こういう時、能力の弾すら弾き、また切断して無効化してしまう澪雫に、こちらが勝てる可能性はかなり低いといえるだろう。
「終わりです、ネクサスくん」
俺は見の危険を感じ、大きく上に飛び上がる。
脚が澪雫の刃を伝い、その僅かな瞬間にもう一度踏み込む。
上空に舞い上がった俺が生み出したのは、いつも使っている斧槍であった。
能力で生成させたもののため、万が一なにか、地面にめり込むような事があったとしてもすぐに破棄すればいい。
物量でねじ伏せるのもいいことだろう。
俺はそう考えたのだ。相手が量よりも質、自分を一つの、一個体の武器としてみなして突撃してくるのなら、こちらは自らが生み出した圧倒的な量から相手を叩きのめそう。
決して、普通は自分の彼女にスべきことではないだろう。
しかし、俺は勝利に拘りたかった。相手が本気で戦っているというのがわかるから。
相手が本気ならば、こちらも本物の力を見せつけるしかあるまいて。
だからこそ、俺は相手に殺到する。
脚に全醒力を注ぎこみ、右脚が白に染まる。
氷属性のものではない何かが、身体を走り抜けるのをかんじる。
澪雫はその光景を見て圧倒されたようだ。
今までのすべてが違った。
そのまま、何処までも強力なものであった。
だから、俺はそれを相手に見せる。
攻撃力が強すぎるのだろう。
そして、速い。
能力を込めれば込めるほど、その攻撃力は速度をました、同時に比例するように威力も上がっていく。
シューっと、風を斬るような音がした。




