第184話 「父の意思」
『お話があるんだ』
父親の電話がかかってきたのは、日曜日の朝だった。
正直寝起きだったからなんとも言えない不機嫌さだったんだけれど、父親が「お話」なんていうのはめったにないことだし、何か真面目な話なのかもしれないと判断して、俺は「ちょっとまって」とストップを掛けた。
隣で寝ている魅烙と澪雫を見つめる。ふたりともまだ寝たままで、どちらも都合よく今回は俺に組み付いていない。
俺はそぅっと部屋から出た。廊下で話をするのも良くないし、アライアンスリーダーの部屋に入ろう。
そう考えて部屋を出て、部屋に駆け込むとOKの合図を彼に出した。
「なにかな?」
「将来的に、ネクサスは王になりたい?」
突然の選択に、俺はどうしようもなく驚いた。
同時に困惑もした。こんな時に、将来をきめるような選択を質問されてどうしようか、と思った節はある。
今こんなことを聞いてくるということは何かあるのだろうか。
そう考えていたが、思えば何もない。
今のアルカディア王国王はまだ祖父のライトゲート。
父親であるネクストですら、まだ王にはなっていない。
王子の子供は王子だから、俺もまだそうであるんだけれど。
「なりたいと思う?」
「質問を質問で返さないでくれ。実は、な?」
そういって、父親は俺に自分の計画を教えてくれた。
永遠の王になる、という意見に俺からは何も言えない。
そもそも、一番尊敬する人は? と質問されて迷いなく父親といえる俺に、父親がずっと現世に留まってくれるということは本当に嬉しい限りだ。
ということは、父親が世界一愛した母親も死なないというわけだろう。
親よりも先に死ぬのは親不孝らしいけれど、死なない親よりも先に死ぬのは親不孝なんだろうか。いろいろと気になるところだね。
「父さんがなるのなら、俺はならなくてもいいかな」
王でなくても、澪雫や魅烙を幸せにしてやることはできる。
シルヴィーもだ。王家の出身であることは変わらないし、アルカディア家の方針からして安全なところでぬくぬくと生きていくような人生にはならないだろう。
「世界中を旅してみたいんだ。父さんのように」
父親は、世界を救うために伝説の武器を求めた。
その結果、世界と共鳴することが出来たと聴いたことがある。
だから、俺もそうやって見たいのだ。この世界の一ピースとして、役割を果たしてみたい。
そして、自分の考えたとおりに生きてみたいのだ。
「そうか。……もう、充分に強くなっているネクサスに、こっちは何も文句は言わないよ」
そういった伝説の人は、なんだか嬉しそうな印象を受けた。
俺にはよくわからなかったけれど。
「でも、もっとつよくなってほしい。俺と同じくらいとは言わないけれど、みんなを守るためならもっと力は必要だな」
「うん、わかってる」
俺は頷いた。そのくらい痛いほど分かっている。
まだまだ足りない。本物の属性宝を、まずは使いこなせるようにならなければ。
話はそれからだね。
「っと、そろそろ時間だな」
受話器の向こう側から、母親が父親の名前を呼ぶ声がした。
あちらとは何時間ずれているんだっけ。少なくとも、こちらが少々早すぎるような気がしないでもないのだけれど。
「そろそろそっちも暖かくなってくる頃じゃないのかな」
「そうだな。……日本ほど暑くはないけれど」




