第183話 「永遠の王」
両親のお話
「お話ししたいことがあるんだ」
アルカディア王国王宮、夜の帳が下りた頃の話。
ネクストは、隣で眠りかけている冷に話しかけた。
ん? と冷。目をこすって彼の方を見つめる。
その目は銀河が宿っているように美しく、またとろんと潤んでもいた。
「こんな時間だけれど、真面目な話があるんだ」
「わかったよ」
冷は眠いから、と現状を自分の都合で彼の都合をないがしろにするような人間ではない。すぐに目を覚まし、寝室のベランダで、彼と隣り合うようにベンチに座った。
「……俺は、ネクサスが王になることを望まないのなら、永遠にこの国の王になりたいと思うんだ」
「……あなたは死なないものね」
ネクストの言葉に、冷はわかっていたとでも言わんばかりの顔をみせた。彼女にとってネクストとはそういう人間だった。現に、王としての評価はとても高い。
高いからこそ、そういうことが言えるのかといえば違う。王に在り続けるということは、時代に自分が適応しなければならない。
永遠に、国が無くなるまで王であり続ける。その言葉に何が込められているのか、冷はわかっていない。
わかっていないが、彼女には覚悟というものがある。
この目の前にいる、ネクストという男。彼と生涯共にするということが。
冷は人間だ。命は限られているし、おそらくあと40年も一緒にはいられないだろう。
「いや、俺がこの世界にいる限り、冷も死なないよ」
「なんで?」
「ネロが許さないからさ。リースの継承者が増えるのはともかく、同じ世代が消えるなんてね」
水の属性皇と、属性皇が世界で一番愛した女性のことを考えて。
ネクストは笑った。
「次代は澪雫ちゃんになる可能性が高いって」
「そうだろうね。彼女はネクサスの一番愛している人だから」
決して、ネクサスの中で魅烙の価値が下がっているわけではない。ネクサスは2人とも愛しているだろう。だけれど、属性は揃えたほうがいいし、冷と澪雫はよく似ている。
よく似ているというだけでそうなるわけではないが。
限りなく白に近い銀とも、水色ともとれる髪の毛とか、吊り目気味ながら幼さを感じさせる目とか。
全体的に大人とも子供ともとれる言動とか。
「1のために99をないがしろにするのは、よくないとは思うけれどもね」
「普通の人間ならいいでしょうけれど、王にはふさわしくないと思う」
冷はそういったが、それはネクストにも言えることであった。
救世を仲間の命の、副産物として考えたのだ、目の前の男は。
救われた人間としては、この上ない喜びだ。しかしよく考えてみればそれは間違っていると自覚できる。
「いいんだよ。この国は俺の家族なんだから」




