第180話 「降るモノ」
兄貴の考え方はいつも間違っていない。しかも、それはかなり真理に近いものである。
俺はずっと彼の背中を見てきたから、そのくらいは分かった。
兄貴は頭が抜群に良かった。ネクスト・アルカディアという絶対的存在が学生時代に母親を守っていたこと、そしてそれを受け入れていたこと。
母親がそのネクストさんをずっと思い続けていたこと。すぐに理解できていたし、そのために今代でアルカディア家を補助する役目に就くというのを、親に言われる前から動き始めていた。
兄貴には、未来を見通す才能があった。このとき、こういう行動をすれば結果どうなるか。を分かっている人間だった。
だからこそ、今俺とタッグをくんでくれるのは兄貴がそのほうがいいと判断したからなのだろう。
「つまりは、天鵞絨家が相手をすると言うことでいいんだな?」
「そうだ。……この戦いは【ー雷帝ー】前リーダーの責任である」
これは、ソキウスを巻き込まないようにという判断なのだろうか。
分かってる。ネクサスに迷惑をただでさえ迷惑をかけているというのに、これ以上かけたら俺は穴に入りたくなってしまうからね。
では、何故今回兄貴は俺に味方してくれたのだろう。
俺にはよくわからないや。やっぱり、ネクサスに迷惑をかけないという意味でなら、彼らが撤退した時点でそれは果たせているはず。
「光劔、俺が合図したら全速力で後ろに下がれ」
兄貴はそうやって言うが早いか、すでに撤退の準備を始めていた。
それに相手も気づいたようではあるが、自分たちに都合のいいほうで理解してしまったらしい。
「怖気づいているのかなぁ~?」
頭の筋が幾つかブチブチと切れかけていたが、兄貴の言うとおりに準備をした。
何が起こるのかは分からないが、未来を見通すことができる兄貴のことだ。きっと悪いようにはしないだろうと思っているんだけれど……。
「いいか、絶対に手は出すなよ」
さっきの1回だけでもいろいろと面倒なんだから、と彼は俺に念を押すように話しかけた。
そのくらいは分かっているはずなんだけれど。やっぱり信用って一瞬でなく鳴るんだよね。もう同盟のリーダーではなく、メンバーの一員だと理解しているというのに。元仲間が元仲間に傷めつけられているのを見て、我慢できなくなるなんて。
その気持はわかるがな、と兄貴は嘆息をこぼす。
仲間思いなのは悪いことではないと、母親からずっと言われ続けてきたからだろうね。情けは人の為ならず、とはよく言ったもので。
人のためになにかやったら、絶対に何か帰ってくるんだからそのくらいはやるべきなんだろうけれど。
「今だ!」
兄貴が叫ぶと同時に、俺は一心不乱の思いで後ろに下がる。
後ろの壁に向かって地面に雷が迸り、レールの役割を果たして俺は超高速で後ろに下がった。
影劉兄貴のほうは壁に生やした鎖につかまり、俺よりも少々遅いながら高速で後ろに下がる。
訳がわからなかったのは相手だ。こちらが下がったのを見て不思議に感じはしたが、だからといって何をするというわけでもない。
「はぁ?」
その、舐め腐った口調が、驚きと恐怖と畏れに変わるのに、そう時間はかからなかった。
空から降ってきたのだ。
輝くその色は、純白に限りなく近い青。
透明で透き通っていて、またその刃は鋭くギラついている。
氷の属性宝、【氷醒槍クリュスタッロス】のレプリカが。
まるで一つの範囲攻撃を持つ爆弾のごとく、1本だけ降ってきたのだ。




