第177話 「属性皇との対話」
『対話を始めよう』
属性皇ネロは、真っ白い空間の中で俺と向き合った。
今、俺は肉体的な行動を生きていくための最低限にとどめ、精神だけで属性皇と会話している。
そのため、何か外で異変が起きた時のために、2人の保険……今回は澪雫と魅烙をそばにおいているのである。
「君は、前の戦いで本物の属性宝を使いこなせなかった」
見下したようにでもなく、残念がるようにでもなく。ただ過去に起こった事実のひとつとしてネロはそれを言葉に発した。
正直、悔しくないかといえばとんでもなく悔しい。結果的には澪雫を守れた、自分の婚約者として周りに認めさせることが出来たが、もしあの氷醒槍で俺が倒れていたら、霧氷家の人間たちは俺を認めたことを撤回するかもしれなかったのだから。
「無理もない、と。私は考えている。初めて発現して5分ももち、その後レプリカに持ち替えて勝利した。レプリカを扱うのにも普通の人間では無理なため、私はネクサスを認めている」
「でも、醜態に近いものを晒してしまった」
俺は、誰が俺を許さないとかではなく、自分が自分を許さない状況であったのだ。
何処までも自分の事を好きでいられるわけではない。俺は総合的に自分が嫌いだ。自分に政略的価値は高くても、それが人間的にどうかと問われたらそこまでないような気もしている。
だからこそ、命を削った。父親が命を、人間である部分をも削って配偶者を守ったように。父親みたいな存在になりたかったのだ。誰かのために、人間をやめられる人に。
「ココロに余裕が全く無いな」
「……十分承知だ」
「でも、命に余裕を持たせたいのなら、ココロにも余裕が必要だ」
今、悩んでいることを吐き出してみろと彼に言われる。
悩んでいることはたくさんある。
ゼニスの座につくまで、そして座についてからもどうすればいいのかわからない。
この新:ソキウスのリーダーで果たしていいかも疑問だし、澪雫や魅烙が俺のことをどう思っているか、何時も不安である。
彼女たちはまさか、俺を裏切ることなんてないだろうと思いたいのだけれど、それも確実ではないし。
「まあ、恋人のことに関しては問題無いだろうな」
「何故?」
「霧氷澪雫は涼野冷にあこがれているのだろう? 彼女はネクストが裏切らないかぎり、ネクストが人間を辞めていっても愛し続けていた人だぞ」
最初は神、とも化物、とも取れない存在だったネクストを、確かに俺の母親は愛することをやめなかった。
何年たっても夫婦ではなく、恋人同士のように仲がいいし。
そう考えて見れば、それを理想としている澪雫は問題ないような気がする。
「魅烙も安全だな。彼女はネクサスが能力を充分に扱えなかった頃から好きなのだろう? それも本能的に」
殆ど親の策略のような気もするけれど。俺は詳しいことを知らないから彼女に聞いたりしないけれど、王牙さんも華琉さんもそれを俺の母親と父親のことが好きだった人だからね。何か因果関係があるのだろうと確信できるんだけど、いかんせん証拠がないもので。
「これで悩みは、4つ減っただろう?」
ネロは悩む俺を楽しそうに見つめている。同時に真摯に相談に乗ってくれる。
そういえば、父親もこういう性格だった気がするけど。
「属性皇ってみんなこんな感じなのか?」
「この世界の住民に取り憑くなんて、気に入った人にしかやらないんだからこんなもんだろう。次の代に受け継がれるまで、例えばネクサスが死んだらネクサスとネクストにしか憑依できない私は命の半分を失ったようなものなのだし」
なるほど、一理ある。
俺は納得して、とりあえず自分のココロに余裕を作ることにする。
今まで、深刻と思っていた悩みに支配されていたココロの許容範囲が広くなり、容量もそれほど圧迫されなくなった。
顔色が良くなった俺に気づいたのか、属性皇ネロは嬉しそうに顔をほころばせた。
「何も問題はない。私の『神力』を存分に使って、自分の大切な人を守るといい。ただ、今のネクサスにはネクストのように何十人も抱え込むのは無理だ」
せいぜい今の2人が限界だろうと、彼は俺に通告した。
今は悔しいが、しかたのないことだ。少しずつソキウスのメンバーや家族と許容範囲を広げていければいい。




