第176話 「与えられた命、捧げる命」
時系列的には前話と前前話の間です。
夢を見ました。自分でも何故今見たのかわからないほど不快な夢。
幼少期にもどって、ネクサスくんがいない時代に、一刻さんから「お前は幸せになれない。呪いをかけた」と宣言される夢です。
今でも、たまに不安になるのです。ネクサスくんに飽きられているのではないか。そういう思考を頭のなかでしてしまえば、どんどん深みにはまっていく。
ネクサスくんは何時も無理をします。私が求めている以上のことをやっていただけますし、それを義務だと思っているのかもしれません。
彼は父親にあこがれているのです。生きる伝説であり、私の師範である涼野冷さんを守り切ったその人を、ずっと目標としています。
だから、あの日も一刻さんと戦ったのでしょう。使ったことのない氷醒槍クリュスタッロスを、その威圧を利用するために命を削ってまで使ったのです。
まともに戦えなかった彼を、私は格好悪いとは思いません。それを使いこなせるどころか、それを発現させるためにも相当な労力が必要なのはわかっていますし、だからこそ周りの一族も彼に対してブーイングを浴びせなかったのです。
レプリカもレプリカですが、それらはすべて属性皇の意思によってこの世界の住民の借り物となるもの。
「あぅ」
眼を開けると、そこにはネクサスくんがいました。
まだ何時間も経っていないようで、空は暗い。
部屋の中も灯りはなく、その状況がまた私を不安にさせる。
でもネクサスくんを起こすわけにもいきません。私は本当にそっと、そっと手を彼に伸ばします。彼を見るだけで最近は不安になってしまうから。
彼は充分に強くなりました。覚醒できなく、涼野流剣術もきちんと扱えなかった彼ではありません。
ネクサスくんはすでに、私達が支えるような人間ではないのです。もちろん精神的には私達と同じでまだ17歳。未熟なこともたくさんあるのでしょうが、やはりなんというか私たちは彼を、どうしても頼ってしまうのです。
「……ごめんなさい」
私は彼に謝ることしか出来ません。感謝と、そのくらいしか彼に出来ないのです。
彼を護ることも、彼を引き止めることも、彼を諭すことも。
最近、彼は更に無理をしているように感じられてきます。
私には彼を止められません。こうやって一緒にいることしか。
命を削って、何を得ようとしているのか私にはわかりません。
私が欲しいものは手に入れました。すべてネクサスくんが私に与えてくれたのです。
この愛も、この生命も、この感情も。
彼が私を想ってくれなかったら、私は今頃この世にいなかったでしょう。
だから、私は感謝しているのです。彼が私の為に生きる間、私も彼の為に生きようって。
いいえ、彼が私に飽きたって、私の命はネクサスくんの与えてくれたもの。
だから、私は……私は…。
ネクサスくんの身体が僅かに動き、私の存在を認めるように力を軽くこめる。その手が暖かくて、なんとも言えない感情に満たされて。
私の意識は、また「明るい闇」の中へ、落ちていきました。




