第173話 「神力の許容範囲」
「まるで全身を氷に焼かれたようだ」
青崙は、そんな異様とも言える表現方法をして、自分の体中をさすっていた。
まあ、大体俺のせいだ。正しくは俺の先ほどやっていた手合わせのせい。
やっぱり青崙は俺に勝てなかった。当たり前で、範囲攻撃で押す俺に徒手格闘の域をでない青崙が勝てるわけがないのだ。
俺は少なくとも手加減はしていないのだから、彼の要望には答えたはずだ。何かを言われる必要はないだろう。
「寒いよー温めてくれよー」
それはおそらく、想い人の七星に言っているのだろうが、七星の回復は滅茶苦茶彼女自身の体力を消耗するのだ。そのため、こんな時にはやらない。
本気は出したが、俺も相手を凍死させるような出力にはしていないのだし。
今は澪雫と魅烙の作る夕ごはんを待っているところだ。今日はシチューらしい。メンバー全員分を作るため、鍋は一つでは足りていないけれど。
「できましたよ」
そうこう言っているうちに、澪雫が食堂にいる俺たちに声をかけた。
美味しそうなシチューだと思う。白い煙が実にその暖かさを表現しているようにも思える。
「よそいますから、少々お待ちを」
待ちきれないといった零璃の表情をみて、嬉しいのか澪雫も顔を綻ばせる。
澪雫も魅烙も、料理は得意らしい。まさかこんなに大人数のために作るとは考えていなかっただろうけれど。
「はい、ネクサスくんどうぞ」
彼女からそれを受け取り、俺は彼女に笑顔を向けた。
実に和気あいあいとした雰囲気の中、やはりというべきかみんなの表情も心なしか明るく見える。
青崙も体験してみたらやはりこちらのほうが良かったようで、加盟する前の表情はないといっていいだろう。
こんな幸せがいつまで続くのか俺にはわからないけれど、できればできるほど、長く長く続いてほしいなって。
「そろそろ、ネクサスくんはゼニス決定戦に参加なされるのですよね」
「そうだよ」
今、氷羅姉さんは学園にいない。メンテナンスの関係で父親の場所にいる。
最近ではかなり技術も進んできたおかげで、そろそろメンテナンスも数が少なくなってくるんじゃないかと言われている。
姉さんを本当の意味で人間にしたいから、俺は【神力】を使いたいといったのだけれど、ネロは承諾してくれなかった。
『私が許容できるのは恋人だけだぞ』
多くのものを抱えすぎるなと彼は断言した。それはそれがもし、自分の姉だったとしてもだと。
俺にはその意味が変わらなかったが、【神力】を使うには彼の許可が必要である。だから納得するしかなかったのだ。
「俺は勝ってゼニスになるよ」
神力と奇しくも同じ名前を称された最高位の座を俺は目指している。
この学園を牛耳れるなんて思っていないけれど、少なくとも身内が平和に生きていければいいかなって、思う。
そのためには、この学園で最強にならなければならない。
だから、【神力】を使ってでも勝利をスルつもりだ。
そして、次こそは氷醒槍クリュスタッロスを使いこなし、それに選ばれた人だということを証明しなければならない。
とても重要な事である。だから、できるだけ頑張らないとねと思って。
「早く何とかしたいなって」
「私はネクサスくんがどうなっても、付いて行くつもりですけどね」
そういった彼女の眼は真面目だった。
いつからこんな話題になったのかわからないが、それは自然になったのかもしれない。
そして、こんな話題になったあとは必ず、彼女が求めることが一つある。
……夜の添い寝である。




