第171話 「恋人と妹」
「シルヴィー、帰ろう」
「もういいのですか?」
決闘が終わってすぐ、俺は御氷家の現代当主に挨拶をしてシルヴィーのいる別館に向かった。
多くの従者がそこで待機しており、むしろ迎えられる側である俺が彼女を迎えに来たのを見て騒めいている。
それはシルヴィーも承知のようで、携帯電話で指示していただければ向かいましたのに、などと言っている。
しかし、それは間違いだ。彼女は俺の専属侍女なのかもしれないが、その前に俺の妹なのだ。
澪雫は俺たちを待つためにヘリコプターを待っているところ。そんなに待たせても悪いため、彼女を急かす。
「自分の立場を考えてくださいな、ネクサス王子」
「そんな呼び方をすれば、シルヴィーだって王女だろうに」
「私はただの侍女です」
「……埒のあかない論争はやめて行こうか」
彼女は自分の立場を妙に低く考えているからな、いつも複雑な立場にいるからかも知れないけれど。
俺はそんな彼女を見つめながら、ヘリポートに向かった。
そこには、もう疲れたと今にでも叫びだしそうな零璃や神御裂姉妹の姿がある。
「決闘みて、みんなネクサス君を畏れるようになってたねえ」
周りを観察していたらしい零璃は、俺をみてニコニコしていた。俺が単体で影響力を獲得したことに対して喜んでいるらしい。必要なさそうな影響力だろうけれど。
澪雫は今でも心配そうな顔をしてこちらを見つめている。先ほど別館に向かった時の足取りが危うかったからだろうか、それとも今も、シルヴィーの肩を時折借りているからだろうか。
「本当に大丈夫なのですか? 私は心配です」
「そんなに心配しなくていいって。……ヘリの中では寝てもいいよな」
痛みはレプリカを……流石にレプリカレプリカいうのはやめよう、属性宝を持っている間にだいぶマシになっていた。
逆に今は覚醒してからの反動で頭がいたい。
疲れは治してくれないし、今は少しでも気を抜いたら眠ってしまいそうだ。
ヘリコプターの中で、澪雫に甘えてみよう。
「そういえば、みんな着替えてるのか」
「流石に帰りはどこかに寄ろうかと思っていたのですが、ネクサスくんの様子を見ると直接帰ったほうがよさそうですね」
ああ、外食でもするつもりだったのか。……これは申し訳ない。
だがそろそろ限界だ。俺を無視していってくれと言いたいところだが、それは澪雫が絶対に許さないだろうしな。
ここはみんなに申し訳ないが、直接帰ってもらうとしよう。
「なぜそこ迄、傷だらけになるまで戦ってくれるのですか?」
ヘリコプターの中で、俺は澪雫に膝枕されていた。彼女が珍しく、自分からそう誘ったのである。
少し仮眠をとって30分ほど後に声を聞いて、俺は意識を覚醒させる。
どうやら、澪雫の独り言らしい。
理由を求められるのなら、逆に理由なんてないと答えるほかなかった。俺は澪雫のことが好きだから、と答えてもそれは正しいものではないのだろう。
「それは、彼がネクサス・アルカディアであるからですよ」
しかしそれよりもよくわからない回答をしたのがシルヴィーであった。
シルヴィーは俺が生まれて1年もたたないうちに生まれてきた同い年の妹であるし、幼少期からずっと一緒にいてきたから俺がどういう動きをするのか全て予測できているのだろう。ただ、その返答の仕方はよくわからない。
「澪雫様なら、 その意味がわかるかと思いますけれども」
「はいわかりますよ」
澪雫は頷いていた。本人にはわからなかったというのに。
本当によくわからない人たちだな。
「ただ、こうなるまえに、私が何かしてあげられなかったのかなって考えてしまうのです」
「……どうしようもないですよ、それは」
二人とも、なんか俺の件で諦めることに同意しているのだが一体どういうことなのだろう?
しかし俺は動かなかった。なんていうか、澪雫の腿の感触が良すぎるからである。
できることなら、魅烙と澪雫で取っ替え引っ替えしたくなる衝動に駆られてしまう。
そんなのことを言ったら魅烙は呆れるだろうけれど。
「澪雫様、お兄様のことお願い致します」
「こちらこそ」
さて、そろそろ起きるとするか。




