第17話「実力と才能2」
霧氷澪雫との打ち解けてからさらに2時間後。
俺が寝かけていると、ドアをノックする音がした。
……次は誰だ。
俺が起き出してドアを開けると、そこには零璃。
「こ、こんばんは」
「たしかにこんばんはの時間だな」
こんな時間にどうしたのだろう。
空はとっくのとうに暗くなっており、月も出ている。
「あのね、少しだけ入ってもいいかな?」
「中に入って、何か起こっても知らんぞ?」
冗談のつもりだったんだが、零璃は本気にしてビビったらしい。
じりじり、と後ろに下がる零璃。
俺はあわてて「冗談だ」と伝え、零璃を迎え入れる。
「……相変わらず、簡素なお部屋」
「必要ないものは必要ないしな」
「武器も、自分の『属性能力』で生成するから手入れの必要がないと。……同時に……」
と、俺の能力についての利便さを、鍛冶屋の本質かべらべらと小30分ほどしゃべるのを、俺は静かに聞いていた。
ふむ、やはりこの人数を誇る天王子学園だ、いろいろな人がいるんだなと再確認する。
「って、あ。ごめんね、喋りすぎちゃった」
「気にしなくてもいいよ。いろいろと参考になったし」
俺はそう彼女に笑いかけると、零璃はすぐにホッとした顔を見せる。
……彼女じゃない間違えた、彼だ。
っと、こんな話をしに来たんじゃなかったと零璃は自分の頬をぺちぺちとたたき、俺の方をまじめな顔で見つめる。
しかし、座っていても零璃はどうみても俺よりも背が低いため、上を見上げるような体勢だ。
そこが、相手は男だというのに俺の劣情をかき立てようとするのだから不思議である。
「本人から聞いたんだけど、魅烙ちゃんと喧嘩したって本当?」
「……魅烙が喧嘩だと思うなら、喧嘩なんじゃないか?」
その言い方は何か引っかかるなぁ、と彼は言った。
と同時に、俺の真意を探ろうと目を見つめてくる。
吸い込まれそうになるほど、綺麗な、宝玉を彷彿とさせる眼だ。
それに見つめられると、本当に自分の思っていることが分かってしまうのではないか、と心配になってしまう。
「……ん、わかんない」
「お、おう」
分からなくてよかった。
俺はそんなことを思いつつ、彼女の言葉を頭の中で反芻する。
うらやましい、か。
「魅烙ちゃん、泣いてたよ」
「……」
「嫌われちゃったかもって」
泣いてた、か。
魅烙らしいな、やっと虚勢を張らなくなったか。
俺がそう思っていると、どうやら俺は笑っていたらしい。
零璃が怪訝な顔をして俺をにらみつける。
「何で笑ってるのさ」
「笑っているっていうか、うれしいなって思って」
「んん? どういうこと?」
俺は、俺と魅烙が幼なじみなことなどを伝えた。
家族間の交流は零璃も知っているだろうからわざと言わず、ただ俺が幼少期から魅烙を知っていたこと、彼女の元々の性格などを伝える。
そう、今はただ強がっているだけなのだ。
俺がいっても何なんだが、猫語を使わない、気遣いの出来るほうが本当の魅烙により近い。
しかし、あれですらまだ何か抑えている。
「本当に、魅烙ちゃんのこと大切に思ってるんだね」
「そうだな。家族間のこともあってか、頻繁に会ってたからな。……この数年は会っていなかったけど」
まさか、あんなに可愛く、同時に官能的になっているとは思わなかった。
外見だけ、外見だけみればスタボロに言っているが理想なんだよなぁ。
男とは無情である。自分の欲求に正直なのだ。
「でも、ボクも一応ネクサス君の親戚にはいるはずだったんだけど……」
「イトコならともかく、ハトコだぞ?」
「ん、知ってたんだ」
知ってた。
一応、すべての親戚関係は把握している。
日本の法定親族は6親等までだから、一応そこまでは。
「イトコから結婚は出来るから、俺と零璃は結婚できるわけだ」
「男同士だから結婚は出来ないよ?」
「冗談だ」
……今、素で間違えかけた。
いやだって、こんなに可愛い子がいたら何回覚えようとしても覚えられないだろう。
「まあ、そんなことはどうでもいいや。これから魅烙ちゃんとどうしていくつもりなの?」
「……そうだなぁ。どうしようかな」
一回、魅烙とはちゃんと話をした方がいいんだろうけど。
どうしたほうがいいのやら、さっぱりだ。
「もしかして、ネクサス君って女の人の扱いが苦手?」
「……さぁな」
「女の子好きなのにー?」
はは、と一頻り笑ってから零璃は俺をまっすぐみて。
「ボクで練習してみる?」
「しないしない」
零璃が出ていって。
俺は自分がいったい何をしたいのか、ずっと考えていた。
魅烙はなぜ、俺に対してこんなにも好意的なんだ?
幼なじみとはいえ。数年会っていなくて。
同時に、天王子学園に入って初めてあったときは最初誰か分からないほどまで顔が変わっているのだ。
それでも、この短時間で俺に好意を寄せようとする人がいるのだろうか、果たして。
「わかんねー……」
「どうなさったのですか?」
「えっ!?」
隣から声がして、振り向いたら澪雫がいた。
驚いて俺はそのままベッドから転げ落ち、頭を痛めながら心配そうに手を伸ばす、彼女を呆然とした顔で見つめる。
「なんでここに?」
「ドア、あいてましたよ」
「いや、あいてたからって君は入ってくる人なのか?」
魅烙といい、この子といい。
俺の周りは、変な人しかいないんだな、つくづく。
「ノックもしました」
「あ、それはすまん」
ノックしたのなら仕方がない。
俺は彼女に、用事を聞いた。
「いえ、鍛錬の帰りに立ち寄っただけです」
「え、さっき話をしてから鍛錬にいったのか?」
「はい? そうですけど」
時間をうまく有効活用しているのか、していないのやら。
でだ、何の用事だろう。
「師範から聞いていますか?」
「ん?」
「師範と【神羅の伝説】は、出会って3日で朝帰りしたらしいですよ?」
ん? ……んんん?
「お、おお」
「では、私も失礼しますねっ」
うぉぉぉい!?




