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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第2部:第4章
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第169話 「宝具の代償」

『身の程を知れ、御氷一刻』


 その声は俺から発せられるものではなく、少なくとも別の場所から、いや。

 属性宝から放たれたものである。実際の名前は属性宝ではなく。


『氷醒槍』


 正しく言えば、この武器の名前は「氷醒槍クリュスタッロス」という名前らしい。

 しかし、そんな事はどうでもいいのだ。この場にいたすべての人間が、圧倒されている。

 圧倒されているという勢いではない。誰もがそのセリフの意味を、正しくはその声が誰なのかということを。


 そう、属性皇ネロである。能力者の中で、その神をしらない人間はいない。

 誰もが知っていることだ。必ず存在するという確信はずっと前から証明されてきたし、それはどの世代でも、英雄や勇者や、救世主と共にあった。


 だから、俺にはわかる。そのネロが取り付いている俺は、今世代の英雄になり得る人材だと判断されたと。


「見掛け倒しだとは思わない。でも、それは君に似合わないな」


 しかし、御氷一刻という存在は、あくまでも冷静に俺を観察していた。

 そのオーラにも全く負けていない。いや、必死に対抗しようとしていることくらいは感じ取れる。

 こちらも負ける訳にはいかない。こんな、宝具を手にする権利があるのだ。

 全ては自分の大切な人を、今回は澪雫をこれ以上悲しませないように。


『あまり無理はしないように。【神力ゼニス】がある程度は肩代わりしてくれるが、最終的には自分の命を削ることになる』


 心のなかに、属性皇の警告が響く。

 最終的にはやはりそうなるのか。宝具、神具の類はやっぱり代償がつきものなんだろうな。


 でも、こんなくだらないことだとは思っていない。これは俺のこれからにも関わることになるだろうと。






 目の前から、御氷一刻の姿が消えた。









「なんっ!?」


 私は、自分の目の前におこったことがよくわかりませんでした。

 属性宝の本物を持ったネクサスくんも充分に理解不能なことが起こっていますが、それよりも彼が消えたことに。


 霞のように消えてしまったのです。でも、確かに彼がそこにいるという感覚はします。


「透明化……」


 誰かが、後ろのほうでそう呟いたのが耳に入りました。透明化、敵から視認されずに行動を起こす能力を、「彼」は持っていたということなのでしょうか。

 誰もが声を出せませんでした。属性宝一振り一振りが、おもすぎて衝撃に耐え切ることが出来ないのです。


 私もネクサスくんになにか声をかけるべきだったのでしょうか? 応援してあげるべきだったのでしょうか。今まで無敗で私達を、私を守ってくれたネクサスくんが危機に瀕していることは誰の眼からも明らかでした。


 属性宝を持っているからといって、おそらく初めて呼び出したその絶対的絶大なる力を使いこなせる人はいないのです。それが、たとえネクサスくんにとって一番得意な斧槍ハルバードであったとしても、ネクサスくんの動きに何かつっかかりがあることは一目瞭然でした。

 ただ、私は何も出来ずに。おそらく拳で殴られているであろうネクサスくんを見つめることしか出来なかったのです。


「…………!」


 ネクサスくんが、声にならない声を上げて属性宝を振っていました。

 持つ手は震え、まるで彼の命を捧げているようにも感じられます。

 有効打はおそらく分かっているのでしょう。

 1対多を好むネクサスくんのこと、範囲的に攻撃を加えれば透明化などという小手先の能力はあっという間に意味を成さないことくらい、わかりきっているはずなのに。


「もう、無理しないでください」


 私の声は、小さく蚊の鳴くような声でしかありませんでした。

 戦いの中、彼が聞こえていたかどうかわかりません。しかし、彼はそれでも無理をしているようです。


 どうしたって、彼は私のためなら無理をするのだから。

 師範から、ネクスト・アルカディアという男の存在を聞いたことがある。


「ネクストの家系はね……」


 それが、今の彼そのものであることがわかるのだ。

 どうしても、私にはなんとも言えないけれど。


 だから、心配になってしまうのです。









「…………!!」


 何回我慢できずに声を絞り出したのかわからない。とにかく、全身が痛い。

 ここは、焼き焦げるようなと表現したほうがいいのかもしれないが、流石氷といったところか。

 氷の矢が、一歩動くとともに全身に突き刺さるような痛みだ。

 相手がどこにいるかも検討がついていないというのに、ただ雑に振った剣戟を避けられて拳が体中に入る。


 意識すら落ちてしまいそうで。もう、降参したほうがいいのかもしれないと考えてしまう。

 ただ、それは俺には出来なかった。どうしても、澪雫の為にではなく自分のために生きてしまうのだ。

 これを、澪雫のためになんて言い訳したくはないのだ。自分が澪雫という少女を好きになって、正式に婚約したのはたった数週間前のことである。


 属性皇と契約したのもすべては自分のためだ。澪雫がいないと俺自身が生きていけないから、ただ強がってきただけだ。

 そんなもの、何処にだって価値はないのかもしれない。


『ネクサス、顕現をやめるんだ』


 警告が飛ぶ。耳鳴りのようにネロの声が響き、しかし俺はそれを一瞬考えてしまう。

 おそらく今使える分の【神力】を使い果たしたのだろう。しかし、これを離してしまったらその時はどうすればいい?


 勝ち筋は分かっている。だが、どうやったら……。


「解除」


 俺はつぶやくようにそう宣言した。手から氷醒槍が消える。

 だが、その疲労までが治るわけではない。ただ、得物がなくなって敵が付け入る隙を与えたまでだ。


 なら、その隙をなくせばいい。


「覚醒」


 宣言した次の瞬間、俺はその姿を捉えることが出来たのだ。

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