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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第1章
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第16話「実力と才能1」

「どうしたのネクサスくん、気落ちした顔をして」


 帰り道、俺は澪雫みお零璃れいりを放置したまま魅烙と帰っていた。


「なんて言うか、痛いな」

「そんなこと、分かり切ってたことだと思ってたんだけど? だって、自分のお父様の異名分かる?」


 親父の異名は【神羅の伝説レジェンド】だ。

 そしてこの記憶ですぐに、俺は察する。


 これが、この世界の常識なのだと。

 俺がおかしいんだな、分かった。

 開き直ることにしよう。


「み、魅烙はなんとも思わないのか?」

「ん? 魅烙は別に何も」


 おかしいと思っていたのは俺だけだったらしい。

 俺はこの世界に生まれるべきではなかったのか。


「だって、パパが【鬼牙龍きがりゅう】でママが【業炎姫ブレイリンセス】だったから何とも思わなかったし……」

「お、おお」

「そんな感じのものを付けようかなって思ってまっしたー!」


 あっ。

 やっぱり、おかしいのは俺のほうか。


 俺は考えるのをやめた。

 今まで世間知らずだったのだ、俺は。


 ということは、コレが常識だと思いこめば問題ない。


「なんかネクサス君変だね」

「……俺が変なのは、魅烙がよく分かっているだろう?」

「うん。人とずれているのも、分かるよー」


 それはちょっと、心にくるからやめてくれ。

 ふふ、と魅烙は笑う。


「うん、今日も楽しかった」

「そっか」


 気がつけば、俺の部屋の前まで来ていた。


 やっぱり、魅烙は「にゃ」って猫語でしゃべらなくても可愛い。

 俺の好み的には、猫語じゃないほうがいいかもしれない。


「なんか、ネクサス君が考えてる」

「ん、猫語じゃないほうが魅力的かなって思っただけだよ」


 俺がそういうと、魅烙はぽっと顔を赤らめる。

 とたんモジモジし始めて、俺を直視していた目は明後日の方向へと向いてしまった。


 ふむ、言っちゃいけないんだろうが。

 この、ちょろいぞ?


 どうなってるんだ、まだ3日目だというのに。


「はぅぅ。……ねえ、明日から授業が始まるけど……」

「明日は授業なくて、基本的な天王子学園の説明じゃなかったか?」

「……そうだった」


 そう、明日は基本的な学園生活についての説明がある。

 それと同時に特進クラスの生徒にはさらに入り組んだ話もされるはずだ。


 【同盟アライアンス制度】のことや、第一回公式試合のことも説明をしてくれることだろう。

 特に特進、すでに魅烙のような人は何人か【同盟アライアンス】に勧誘されている人もいるだろうから。


「魅烙は、姉さんになんて言われたんだ?」

「第一回公式戦だけでいいから、一回入ってどういう団体かみてほしいって」

「メンバーの数は?」

「10人くらいって言ってたよ。……天王子学園にしては好くない方なんだって」


 たしかに、多い団体は1000人単位というのも聞いたことがある。

 6万人もいるのだ、小さな町並みはあるこの学園ではやはりそういうのもあるんだろう。


 先生だって1000人以上いるこの学園、その中でたった10人しかいないのか、姉さんの同盟アライアンス楽園エーリュシオン】は。


「ネクサス君は?」

「俺はたぶん、勧誘されないんじゃないかな」

「なんで?」


 姉さんは何か事情があって、俺への干渉を制限されている。

 それなら、さっきみたいに話をすることはあっても周りは事実を知っている人しかいないだろうし、俺を側に置いておくことなんて出来ないんだろう。


「うーん、うーん」

「どうしたんだよ?」

「ネクサス君いないのか……っておもっちゃった……」


 俺なんていなくても大丈夫だろうに。

 そう思ってから、俺は彼女の言いたいことが分かって黙った。


「……お前、虚勢なんて張らなくていいぞ?」

「うっ」

「いつも猫語なのも、自分の本性を隠す為、だろ?」

「……なんで」


 彼女は、少々ふるえているようにも見えてしまった。

 おそらく、その感情は。


 激情。


「なんで、ネクサス君は何でも出来るからって……!」

「何でも出来ないことくらい、魅烙はそばにいてみてくれただろう」


 魅烙は俺のことを。この学園の中では姉さんに次いで知っているはずだ。

 それなのに、なぜそういうのか。


「嘘ばっかり。どんな種目であっても、魅烙よりも上だったのに」


 魅烙は、目尻に涙を溜めていた。


 幼なじみとはいえ、いや幼なじみなだけに。

 彼女の涙というのは、心に深く突き刺さるものである。


 その真珠のような涙は、そして頬を伝うこともなく地面に落ちる。

 魅烙は、自分でも予想していなかったのだろう、はっとした顔で自分の目をこする。


「……魅烙?」

「魅烙は羨ましいの。……あなたの才能も、それに適応できる実力も、そして、過剰な期待に対しても自然体でいれるネクサス君が、羨ましいんだよ!」


 それだけいうと、魅烙はきびすを返して自分の部屋に戻ってしまった。

 何も出来なかった俺は、そう自分で判断するまでに数分要してしまう。


 ……羨ましい、か。

 それをいえることが、俺にとっては一番羨ましいというのに。








 2時間くらい、たっただろうか。

 俺が魅烙と喧嘩別れに近い何かをして、ベッドにふて寝していたとき。

 ドアを、遠慮がちにノックする音が聞こえたのだ。


「……誰だ?」

「……」


 相手からの返事はない。

 しかし、これだけでは何か分からない。


 俺は無視をするという選択肢も頭の中では思い浮かべたが、すぐにそれを振り払った。


「霧氷か、どうした?」

「少し、お話がしたいのですが」

「ん?」


 今日、放置したまま帰った件かな。

 そもそも、能力者不信……というか毛嫌いしている霧氷が、俺にわざわざ話しかけてくるなんてよっぽどだな。


 さすが母親の一番弟子、と俺は評価すればいいのか?

 それほど、その髪型も服装も、俺の母親を意識しているようにしか見えない。


 母親とおなじ髪型、ツーサイドアップ。

 母親を意識したのか分からない、白と薄紫の髪色。これはおそらく、元々薄紫だった髪の毛を一部分、白く染めたんだろう。


 そして服装は、……いつもの胴着だ。


「デートのお誘い?」

「そんなことがあると思いますか?」

「ないな」


 彼女の質問に対して、俺は即答した。

 霧氷が零璃に対してならあり得るけど、今はまだないな。


「あのとき、何を言い掛けていたのか、教えてくれませんか?」

「あのとき?」

「はい」


 歓迎会の、自由時間の時ですと霧氷。

 俺が零璃に対して「努力不足」といったときか。


 あのときは、霧氷が俺に対して激昇していたな。


「いくら優秀すぎる遺伝子を受け継いでいるからといって、俺が才能にあふれているわけではないっていいたかった」

「ふぇ?」


 霧氷には、それがどういう意味なのか分からなかったようだ。

 しっかし、可愛らしい声を発する少女である。


「俺はたしかに、霧氷が思っているくらいのいい遺伝子を受け継いだ人かもしれないけど、それが才能に直結しているとは思えないし努力次第で幾分かは違ってくると思うんだ」

「でも、たとえば師範と同じ能力、この前使っていましたよね?」


 ああ、彼女の言っているのは【ISC】のことか。

 予備動作ショートカット能力。


 しかし、あれの本質は。


「あれは、訓練すれば誰でも出来るようになるよ。……足の筋肉が耐えればだけど」

「へ?」

「いや、あれ特殊能力にも入るかどうか怪しいし」


 ほぼ体術といってもいいようなものだ。

 元々は車よりも速く「能力を使わない」素の状態で走れる親父が考案したもの。


「で、でも!」

「俺が零璃に対していったのは、『特殊能力』も『属性能力』も、体を鍛えることで体力の消費が低くなるということ」


 そうだったん、ですか? と霧氷は呆然としていた。

 俺はうなずく。


「これ、たぶん授業でも習うと思うぞ……」

「だって、まだ授業始まっていませんし」

「それもそうだな」


 ふふ、と霧氷が目を細める。

 彼女、笑うとすごく可愛い。


 まるで、天使がほほえんだのかと錯覚させてくれるくらいには可愛かったぞ、これ。


「そうですか、よく分かりましたっ。……ありがとうございますね」

「話はコレで終わりか?」

「はい」


 霧氷が俺の部屋から出ていき、一礼した。


「本当にありがとうございますね。……今までアルカディア君のこと、少し勘違いしたかもしれません」


 同時に、彼女は俺を初めて名前で呼んでくれたという感動。

 俺は彼女がデレているうちに、少しだけ段階を進めることにした。







「ネクサスでいい」

「では、私も澪雫で。……では、おやすみなさい」


 ……ちょろい。

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