第158話 「龍牙・業火・神羅 肆」
火山が噴火した。
そんなイメージを此方に抱かせるゼオンさんの覚醒は、鎧を纏うというよりも全身が武器になったものだった。
銃火器が小銃から大砲まで、十数個並べ立てられ。
それすべてはこちらにむいていないものの、半数はこちらを向いている。
全部が直撃すれば、恐らく命どころか遺体すらなくなるんだろうな、と考えつつ、俺は鎌斬先輩を相手取る。
ゼオンさんは親父が何とかしてくれるはずだ。俺の読み通り、こちらに向かってくる弾という弾は、すべて父親が弾いていた。
氷の結晶で出来た花びらのような、盾を持ってすべて。
翼を展開して、鎌斬先輩に突進する。
と、いやな予感がして急上昇した瞬間、鎌斬先輩の声が会場に響きわたった。
「八龍式龍拳術『砂の段:砂龍連撃』」
龍が舞うような構えをとって、俺の方へつきだしたのは分かった。
しかし、それと同時に6頭ほどの龍が噴き出し、コチラに龍千を描くようにして迫ってくるのは分からない。
否、分かるはずなんてなかった。
親父があわてて、俺を引っ張り「それ」から逸らす程度には、龍拳術とは危険なものだったのだろう。
「絶対に避けろ。言うのを忘れていたけど」
「絶対?」
「何があっても。能力をぶつけても、時空をゆがませても何でもいいから避けろ」
時空をゆがませるって、それ親父たちにしかできない。
そんなことをいう余裕もなく、次の1頭。
それを龍の先端から凍らせてたたき落とし、親父は俺から離れた。
2人いるのなら好都合と、ゼオンさんが集中砲火を開始したからだ。
空中をジグザグに飛びつつ、それを何とかして避ける。
そして最後の1頭は属性宝で切り裂き、相手に肉薄する--!
「八龍式龍拳術『空の段:空龍覇天』」
空から雷のように迫った半透明の龍を避け……たぶんこれは王牙さんの放ったものだろうけれど確認している暇がない……俺は氷の属性宝、ハルバードと一体化するように1本の槍となって鎌斬先輩に迫る。
直前の直前まで距離を詰め、相手が瞬きをすると同時に横に振りかぶって思い切り薙ぐ。
属性の斬撃と共に、属性宝自身の刃が軽く彼の腹を抉り、俺は地面に着地した。
属性宝はやりすぎたら人が死ぬから、多少地味ではあるもののこのくらいが妥当なんじゃないかって思って。
今回はなんて言ったって、制限なしだからね。仕方ないね。
まあ、誰かが誰かを殺す前に、王牙さんたちが止めるだろうから全力でいかせてもらおう。
空の段と砂の段、その二つの特徴は分かったし、あれを避けるべきということはよく分かった。
正直、ふつうの人にも避けられそうではあるのだが。親父があわてているのを見ると少し心配になるな。
一番信用できると思えるところは、親父がきちんとおごらず敵の強さを判断できると言うところなのだから。
それにしても、と俺は龍拳術を使わない能力の弾を覚醒態の手ではじきながら、再度突進する。
と、鎌斬先輩が近づいてきたので後ろにアフターブースト。
自分が考えるよりも早く、足にまとわりついたパーツがきらきらと青白い煙を噴射しながら後ろに体を移動させていた。
こりゃあいい。本能的に動かせる、直感的に考えるだけでいいというのはすばらしいことだ。
飛び込むように繰り出された蹴りをいなし、属性宝を振って牽制。
振るだけでも、十分な威力だ。持っているだけで此方は感じられないが、相手には相当の威圧感が押しつぶそうとしているんだろうし、やはり反則級に面倒な武器ではある。
と、後ろから異常な気配。俺は後ろを向いてそれが何か確認……王牙さんの拳をすんでのところでかわし、お返しとわき腹に蹴りを浴びせる。
あっぶね、今確実に耳掠った。
最後の最後まで、ああやって殺気を隠せるって言うのは一つの利点だな、と思う。
暗殺し放題じゃないか。俺はそんなことやる方ではなく、専らやられる方なんだろうけれど。
「そろそろ、決着をつけますか」
彼の覚醒は「膂力を高める」というわけでも「機動力をあげる」訳でもなさそうだ。
恐らく、生身でそれが出来ていた王牙さんや、先代に追いつくため「龍拳術に特化した」能力を持っているのだろう。
それなら都合がいい。龍拳術を避けきれば、後は俺が一方的に攻撃できる。




