第157話 「龍牙・業火・神羅 参」
最初に感じ取ったものは、やはり「動きが早すぎる」ということであった。
普通に考えてあり得ないようなことを実際にやり遂げるのがこの人たちだ。
俺は、父親に不意打ちを撃ったにも関わらず詠唱キャンセル、攻撃を避けられ地面に大穴をあけてしまうことになる。
足がジンジンする、ということはさすがになかったが、少々悔しいな。
「お、ネクサスも参戦か。いいねこういうの」
それなら、先ほどのエキシビジョンマッチに参加すればよかったのに、と親父はのたまう。
そこには対して興味はなかった。父親は、俺の上位互換と考えていいんだからその特徴くらいわかっている。
父親の持つ……簡単に言えば属性皇νεροの【ゼニス】、力はとんでも無く威力の調整が難しい。ついつい、オーバーな火力を叩き出してしまう。
氷なのに火力とはこれ如何に、というつまらないものは置いておいて。
とにかく、一点集中で人を半殺しにするよりは、広範囲に薄く攻撃を与えた方がいいのだ。そちらのほうが安全だし。
だから、1対多の勝負の方が捗る。
「混戦になる前に、仮想敵を作ったほうがいいね」
王牙さんが提案する。
仮想敵か。まあ、今のところは王牙さんと鎌斬先輩の八龍式龍拳術タッグだろう。
父親は無理。勝てない。返り討ちにされるのが結果だろうし、だからこそ無駄に体力を消耗したくないしね。
「俺には誰もいな……っているじゃん。ヴァロッサいるじゃないか」
「や」
「ええ?」
戦闘狂のあの、ヴァロッサがイヤだと言っている戦い。
ていうかいたんかい。全然気がつかなかった。
ゼオンさんは拗ねたように頬を膨らませると、「いいもん」となんだか子供のような発言をした。
発言こそ子供っぽいが、その両手に宿る通称『聖火』は煌々と橙に燃えている。
彼が有る程度は、本気になった証拠だ。
「まとめて燃やしてやる」
物騒極まりない発言の後、放った聖火は不死鳥のごとく形をなしてこちらに襲いかかってきた。
それを親父が難なくはじき飛ばした先は、王牙さんたちである。
「俺が防御を担当しよう。ネクサスは暴れればいい」
最強の盾じゃないか。もう勝てなくても負ける気はしなくなった。
……冷静に考えると、ゼオンさんの攻撃ってすべてにおいて火力に重点を置いているため少々遅い。
あの程度なら、まあいけるだろう。
でも、仮想敵は王牙さんたちのほうだからね。親父にそれは伝えてある。だからといって、ゼオンさんがこちらに攻撃してこないわけでもないし。
「ネクサス、覚醒してもいいぞ」
「え」
「王牙に対してはそれでも足りないくらいだ」
覚醒という能力の先には、絶醒という能力も存在すると聞いたことがある。
でも、それが出来たのは親父の世代までだ。そこから数十年たって、まだ1人も新しい絶醒能力拾得者はいない。
俺は覚醒した。【ゼニス】を手に入れて、はじめての覚醒。
冷たい風が会場を吹き抜け、澪雫に届く。
感覚が研ぎ澄まされる。会場でみんなが話をしているその一字一句がすべて頭の中に入ってくる。
しかも、この前みたいに、はじめて覚醒したときみたいに頭がごっちゃごちゃになることもない。
必要なものは、この姿への感想。
……見事に恐怖心しかない。
「さすが俺の息子だ」
親父はなんだかんだとそういっているけれど、俺は自分の覚醒態がどうなっているかよくわからないんだ。
ただ、見回すだけで銀色というべきか、光沢のある青というべきか。そんな色の鎧。
鎧といっても完全な全身鎧ではなく、体の要所要所を護る形となっているようだ。
実際、間接部にはついていないという。
そして、一番驚くべき場所は……。勝手に属性宝が戻ってきていた、ということだ。
自分が考えるよりももっと早く。覚醒すると同時に属性宝が移動を解したように、涼風が収まると同時に俺の手に収まっていた。
鎌斬先輩は顔と体を強ばらせていた。属性宝の気配を見て本能的に語りかける何かを悟ったのかもしれないし、俺の覚醒態を見てそう思ったのかもしれない。
とにかく、それなら俺もと鎌斬先輩も覚醒した。
龍、とにかく龍だ。なんていうか、とにかく龍をまとっているようにしか見えない。
龍の頭の形をしたヘルメット、龍の翼のような、翼。
すべてをそのままに、まあたとえるとするならばそれは「龍人」が、一番似合っているだろう。
「俺もそろそろ本気を出さないと、王牙さん。使ってもいいですよ」
鎌斬先輩が言ったのは、恐らく八龍家一派の切り札だろうな。
八龍式龍拳術。なんで二回も「龍」が入っているんだ、とかいろいろとつっこむべき場所があるのかもしれないけれど、普段は「龍拳術」といえば何のことかは分かるんだしね。
確か、本当はもっと長い名前だったような気もしないでもないんだけれども。
「会場壊れても後悔しない方がいい」
親父、ゼオンさん共々闘争心満々。
ゼオンさんに至っては会場破壊宣言までして、覚醒の準備までしている。
……これは、酷い。




