第156話 「龍牙・業火・神羅 弐」
開始直後から凄まじい轟音が巻き起こった。
ゼオンさんの初手ぶっぱは、いきなりフィールドの地面を大きく抉る働きをもたらしたのである。
両手からミニ太陽……しかしその規模は、俺が今までみた最大出力の烏導先生よりも、もっと強力だ。
アレで本気じゃないとか、既に人間の域を越えている。
最も、その弾速は大したことがないのだが……ふれたら死ぬと思えば簡単だろう。
しかし、それを王牙さんは拳で防御していたし、父親は避けていた。
ふれたら人なら死ぬ。そのくらいは簡単に分かることだが、つまりは王牙さんは人ではないと言うこと。
父親とずっと一緒にいたからか、王牙さんも人の域を越えてしまったということなのだろうか。とにかく、普通に考えてそうであるんだろうなとは思う。
王牙さんは、両手に龍を纏っているようにも見えた。彼の属性能力は拳に収束しており、やはり普通に考えて異常な部分が多いのだろう。
熱気が発散して、2階席の俺たちまで届いてくる。炎級が霧散した後の余波だというのに、思わず「熱っ」と澪雫が顔を庇う程度には、強烈なものであった。
「腕、なまったんじゃないか?」
王牙さんがゼオンさんを挑発する。確かに能力を纏っていたとはいえ、拳一つで防がれているからなのだろうが、それはいけない。
戦闘狂に火をつけるのは、本当にいけないことなのだ。
それを知る俺からすれば、もう……なんていうかね。
「教師になって平和ぼけしてるのは王牙の方じゃないかな、ほれ」
ばっ! と背中の方にゼオンさんの翼が生えた。火の鳥、と称すればいいのか、火そのもので出来ているような感覚を抱かせる翼から羽らしきものが一部離反し、無数の矢となってフィールドに降り注ぐ。
もちろん、煽った王牙さんだけではなく親父の方にも。
しかし親父はどう言えばいいのか、その桁違いの脚力ですべてを振り切っている。
涼しい顔をして。そして飛び上がったかと思うと、全体重をかけたのであろう超質量の蹴りをゼオンさんに浴びせ、クレーターの出来る勢いで地面にたたき落とす。
さらに間髪入れず、牙をむきだしたような邪悪な笑みを見せると次は親父が翼を生やした。どこかサイバーパンクな雰囲気を噴出させるものになっている。生き物の翼と言うよりも、飛行機やそれらの翼だ。
それが展開するようにして広がったと思えば、視認できるほどの白い竜巻を発生させて、宙に浮かんでいた。
おそらくは俺たちに見せるために、ゆっくりと行っているのだろうがそれでも眼が追いつかない。
一つ一つのエフェクトが派手なのだ。お金をかけたファンタジーゲームでもあるまいし、いい加減目潰しもやめてくれないだろうか。
……はっ。もしかしてこれも作戦の一つ!
ゲームはしないわけではないけれど、現実で起こりえるものを「幻想」と分類されるのは些か反論を持つ。
どうしても、能力を持たない一般人からすれば、俺たちの能力も「幻想」扱いというのは納得できない話ではないのだが。
まあ、だからといって「サイエンスフィンクション」かと言われたら違うんだろうな。俺たちの例えば「能力によって発現される氷」というものと、一般人の考える「自然現象で起こり得る氷」というのは全くの違うものらしいし、能力によって発現される物質は科学で解明できないものらしい。
研究は難航しているようだ。すでに能力者がこの世界に誕生してから、五〇〇〇年ほど経つというのに。
親父が、右手を薙ぐように上から下へ振った。
途端、水色の竜巻が発生し、轟々と音を立てて王牙さんに迫っていく。
スピードは正直、先ほどのゼオンさんの炎球以上に遅い。
ただ、人の頭1個分であった炎球とは比べものにならないほどその規模は大きい。
ただただ広いフィールドの、4分の1をその範囲としている。
それを時計回りにぶんまわしながら、王牙さんゼオンさん双方を攻撃するようにもう一つ発現。
「ゆっくり撃てるからって、反比例するように威力を増大させやがって!」
忌々しげに叫んだのは王牙さんであった。基本的に遠距離へ吹っ飛ばす能力を持たず、相手に近づかなければならない彼にとっては妥当な不満だろう、と思う。
しかし、八龍式龍拳術には、遠距離へ能力を飛ばすという技もあるはずだ。使わないと言うことは、使うのを許可されていないか、それとも何か条件があるかのどちらかなのだろうと思う。
まあ、八龍の人間がここにいないと使えないとかだろうけれども。
「使わないのか?」
「使いのは山々だが、鎌斬君もいないここでは……いたぁ!」
王牙さん、首をきょろきょろさせて目的の人物を特定する。
視線の先をたどってみれば、確かにそこには八龍鎌斬先輩の姿がある。
他に同盟【エーリュシオン】の姿はないということは、彼個人の意志でここにきたということか。
もしかしたら、最初にこのエキシビジョンマッチのことを知ってきたのかもしれない。
「途中参加構わない?」
「おう、こい」
鎌斬先輩の言葉に、王牙さんは大きくうなずき無邪気な表情を見せる。
ゼオンさんは脅威が確実に増えた、という顔をしており。親父はただ何か超越した顔で彼を見つめていた。
「さて、俺もいきますか」
「えっ」
不意打ちをする準備をしつつ、呟くと両隣にいる澪雫と魅烙がこちらを「正気か」と言いたげな顔で見つめていた。
そんな彼女達に苦笑して、正気も正気と頭を撫でる。
「本気を出さないなら勝機はあるだろ」
大人勢は本気を出していないとはいえ、互角に渡り合えば生徒たちも俺をみる顔がいよいよ本当に代わるだろう。
勿論、今の程度を知りたいというのが一番なんだがな……。
「影劉さん、次の大技を俺の父親が出すタイミングでGOサインをお願いします」
「本気か」
「はい」
影劉さんは頷いてくれた。あとは、タイミングを見計らって……。
「今だ」
サインとともに、俺は氷属性のエナジーを右足に溜めつつ、父親に向かって長距離飛膝蹴りを繰り出したのだった。
最後のネクサスのキックは、文章中で出すと世界観が壊れるので描写できませんでしたがライダーキックだと想っていただければ、はい。




