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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第2部:第3章
152/199

第152話 「学園公式試合 漆」

「お疲れさまです、アルカディア先輩」


 新入生以外のみんなとすれ違いになるように観客に戻ると、七星がおどおどしながらもタオルを渡してくれた。

 先ほどのアレをみて、少しトラウマを植え付けてしまったのかもしれない。たしかに、残虐非道に見えたのかもしれないね。


「ありがとう」

「はいっ」


 礼を言いながら受け取ると、彼女はにこっと笑って隣に座る。

 いつもは澪雫か魅烙が座る場所だ。こういう時間でしかこの場所はあかないが、だからといって何か特別な場所かと思えばそうでもない。


 別に、七星がここにいても問題はないのだ。だから俺は「ここにいるな」とは言わない。


「怖かった?」

「はい……。でも、今は大丈夫です」


 リーダー不在のソキウス総力戦が始まっている。

 澪雫は、属性能力が使えるようになってからたった2日だというのに、戦略が5倍ほどまで広がっているようにも感じられた。

 やはり、ただ能力者の身体能力で飛び上がるよりも、属性能力を試用してのジャンプのほうが何倍も効果がある。

 身体能力のみで飛び上がる場合、足を掴まれたらそれまでであるが、能力をしようすれば掴もうとした手を逆に凍てつかせることが可能だ。


「七星たちが、俺の味方でいてくれる間は安心していい」

「味方でいる間というのは、つまりそれではなくなった場合は容赦しないと言うことですか?」

「澪雫たちにもそれは言っている。敵に転換された瞬間、俺から情は消えるってね。……それは清崙が一番よくわかっていることだろうけど」


 清崙の方を見つめると、彼はおびえたように目線を試合の方へ逸らした。

 彼は今頃ひしひしと感じていると思う。ソキウスの方針に逆らった時のアレと、今の違いは清崙が分かっていることだろう。

 本当、あのときに彼が取るべき選択で一番無難なのは、「ゆっくり考えます」って言って俺と連絡をこれ以上取らないことだったのだ。

 今になっては後の祭りではあるが、あのときそうできていたなら俺の属性宝をみる初めての機会は今日だったろうし、そして今のように危険にさらされず、届いてきた余波を感じて『あのとき余計なことをを言わなくて良かった』と安堵できたところだろう。


「まあ、選択の一つとしては今の状態は悪くないだろ?」

「……どうなんですかねぇ」


 最近は、よく畏怖の感情で見つめられますと清崙は微妙な顔をしていた。

 少々俺に怯えながらも、仲間になったからにはと一生懸命期待に応えようとしてくれているのは嬉しい。


「……それにしてもそう先輩のアレ、一撃が強すぎませんか?」

「あれは『神御裂かんみざき流抜刀術』だよ。蒼の場合、ああいうふつうの刀じゃなくて、太刀とかでも出来る」


 俺には何が何やらよく分からなかったが、一瞬で抜刀して納刀し、その速度による衝撃波で相手を攻撃するらしい。

 確実に能力は乗せているだろうな。抜刀と納刀の風なんて、そんなものどれだけ速くしても微々たるものだろうし。・


 あと、神御裂流は見栄えがいい。

 受け流してのカウンターを基本とした涼野流も悪くないわけではないが、地味。


 能力者は、派手にぶっ放すほうが好みやすいからね。


「……涼野さんは、属性能力ですら刀で無効に出来ると聞きました」

「それは澪雫でも出来る」

「えっ」


 澪雫は今まで、能力が使えないと言うところにコンプレックスを感じていただけだと思う。同時に、能力をほぼ一切使わずにも同レベルで戦えていた母親に強くあこがれを持ちすぎて、遠距離型に一切太刀打ちできなかったのが問題。


 でも、もう問題ないなと魅烙のように拳銃を持って澪雫に襲いかかった能力者に、銃弾すべてを切断して突進した彼女を見ながら思った。

 やはり、能力を上乗せしたら使いやすいんだろうな、と考える。


「私達も、先輩方みたいに強くなれるんでしょうか」

「時間は掛かると思うけど、ある程度はなれるよ。後は努力と才能かな」

「才能」


 その言葉を聞いた瞬間。七星は落ち込んだように地面を見つめた。

 俺にはその意味がいまいち理解できなかったのだが、どうも自分に才能はないと判断したらしい。

 でも、それは違う。彼女には確かな才能というものがある。

 俺が涼野流に七星を推薦したのはそれが原因だ。俺は、ただ「気に入った」という理由で女の子を茨の道へ引き込んだりはしない。


「完全にアレだな。手を抜いてる」

「そうなんですか?」


 七星やスローネが、俺の言葉に呆気にとられた。

 彼女たちにとっては、目の前の光景がただただかなりの衝撃だったのだろう。

 銃弾、剣撃、能力。三つの要素が飛び交う戦場は、全員の攻撃がこちらに集中する戦場よりもある意味では恐ろしいものだ。

 こちらに攻撃がすべて集中する戦場では、対処がしやすいが流れ弾の心配がないと思っているのだろう。


「ちょっと発破かけてくる」


 でも、それは違う。そんなの、勿論攻撃が集中する方が怖いに決まっている。


 俺は立ち上がると、観客の視線が集まる中で彼らに向かって叫んだ。


「『ソキウス』の実力を見せつけろ!」


 途端、全員の動きが……洸劔こうきの動きまでもが、機敏なものになった。

 さきほどまでは本当にチュートリアルだったかのように苛烈な動きになったのだ。


 でも、まだ本気ではない。神御裂流の直伝ならこんな戦場ごと、1回の抜刀で終わらせられるし仲間への被害を考えなければ、刑道けいちが地面そのものを破壊すればいい。


 しかし、俺の言葉はたしかに効果があったようだ。あれよあれよといううちに、試合はソキウスの大勝で勝負を決したのだった。

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