第146話 「学園公式試合 弌」
と、言うわけで学園公式試合の日である。
一応、昨日決定したと同時に洸劔の加入は届け出たため、洸劔は【ソキウス】のメンバー扱いと言うことになっている。
が、今日はそんなの関係ないかな。
「新入生は、試合とかまだみたことないのかな?」
「ないです。強いて言えば、清崙君とアルカディア先輩の決闘が初めてです」
「なら、今回はゆっくりみた方がいいかもね」
特に銃を使うスローネではなく、既に戦闘慣れしている清崙でもなく、七星は一番よく見ておくべきだと思われる。
今回の戦いは参考にならないかもしれないけど。
……今回、俺は一年前の敵と戦う予定だ。
俺が殺意で覚醒したあの日、能力の才能を開眼させた日に戦った同盟との再戦を、俺はずっと待ちわびてきたのだ。
理由は簡単、1年越しにあの日のお返しをするためである。
この手に入れた力、【ゼニス】を使う相手としては些か不十分ではあるが。使うとしたら、世界を救うためとか、この前みたいに澪雫を助けるためとか……もっとさ。
もっと色々有意義に使いたいものだが、あいにく世界のために使うほど博愛主義ではないし、やっぱり仲間たちを守るためかな。
まあ、今回くらいは私情を挟んでもいいだろう。
目的として、「ソキウスの力を見せつける」「学園の頂上への足がかりにする」「復讐」と言ったところか。まあどれもそれほど美しくなく、醜い理由ではあるのだが。
「本当に一人でいけるんですか?」
「属性皇νεροのお話によると、父親の8割は出力でだせるらしいし、大丈夫でしょ」
「1割でも充分だと思うのですが。……ちなみに、ネクストさんの本気の8割なんでしょうか」
「覚醒したらそっちになるんじゃない?」
まだよく分かってないから、今日は殺さない程度に手加減しながらやってみるとするかぁ。
まだ人は殺したことがないんだけれども。ただ、本当に怖いのが。
……この能力、【ゼニス】は多分能力制御装置『アビリティ・ギア』の干渉外だと思われるってところだ。
だから、こうやって考えるともしかしたらそのまま人体が、凍死とか。
今回は出来るだけアレを使わないでおこう。そう、ギアの解除である。
ただ、ちょっと気合いを入れたら壊れそう。
「ネクサス君のそれ、ずっと赤く点滅してません?」
「んー、知らない振りをしよう。壊れないって大口叩いたんだ、壊れても問題ないさ」
安全装置と言えば、一応戦闘フィールドの方にもあるんだからな。
天王子学園。父親の世代はこんなにぬるくないっていってたけど、それでも死んだ人はいなかったはずだから、考えれば大丈夫なのかもしれない。
前の世代、安全装置はあってないようなものだと聞いたからね。
ちなみに、本気で人を殺そうとすれば俺の場合、切れ味を鋭くすればいいんだから簡単だ。
出力はあがったけど、俺のスペックすべてはもっと上がったのかな。
たとえば能力の使用回数貯蓄とか、あとは他に何があるかな。
速力も、8割継承したら足だけでマッハ近くいけるんだが。
「さてさて、もう少しで指名くるぞ」
楽しみにしていると、王牙さんがマイクをとって『第1試合、ソキウス 対 フォートレス』と宣言した。
実に、……実に楽しみだ。
俺は立ち上がると、魅烙が「うわ」と引くくらい気味の悪い笑顔を浮かべながらフィールドに向かう。
周りの人の、此方を見る目が明らかに違う。
前までは見せ物を見るような目であった。コロシアムの中で、奴隷同士を戦わせる民衆のような目をこちらに向けていた。
しかし、今回は違う。
今回からは違う。……俺は、もう弱者ではない。
単体でも、怒りの力に飲まれずとも、相手全員を一方的に叩き潰すだけの力を持っている。
俺はもう、誰にも負けたりしたくないのだ。
「えーっと。ネクサス、君だけかい?」
「一人で充分ですから」
俺は目の前に広がるただっ広い空間と、敵の数50人ほどを見つめる。
相手はこちらも総力戦でくると踏んでいたのか、呆気にとられたような顔をしていた。
1年でメンツも多くなったな。相手にとって、不足はなし。
新入生の加入は……おお、20人近く集まったのか。
これは中型の同盟ですね。ただ、烏合の衆50人とかだと、がっかりするんだけどな。
「1年前は随分と可愛がってもらったが、今回はこちらの番だ」
そう言った俺の顔は、狂気ではなく、凶器をはらんでいた。




