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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第2部:第2章
135/199

第135話 「ネクサス:依頼」

『父さん、今どこにいる?』


 久しぶりかと問われれば、そうでもない期間がすぎた頃、息子から電話がかかってきた。

 一口目が場所の確認だとは、いったいどうしたんだろうかな。


「どうした?」

『【νεροネロ】に会わせてくれ』


 ああん、単刀直入すぎるなぁ。

 ……確かに俺の体の中には神が宿っている。


 能力者が考えるに、通称「属性皇」と呼ばれる神と同じような扱いの存在が、別世界に確かに存在する。

 そして、能力者や別の世界の魔法使いなどに目を付けた彼らは、特別な能力を与えたり、はたまた上の存在へ進化させたりするのだ。


 この世界に干渉可能な神。それはむしろ、精神態しかもたない異世界の住民と考えた方がいい。


「何か起こったんだな?」

『うん』

「わかった。こちらから出向こう、どこで待ち合わせがいい?」

『……』


 一瞬の静寂。何かを考えるように沈黙が訪れ、数秒後返事が返ってきた。


『昔、父さんと母さんが住んでた別荘で』

「おう、ではまた明日」


 電話を切ると、俺はまず鍛錬中の冷を探し出した。

 冷はこちらをみて、どうしたのと首を傾げる。


「今から日本に行くよ」

「え」

「ちょっと用事があってね。ついてこなくても大丈夫だから」


 まず冷に相談しないで、今回ネクサスは直接俺に相談をしてきた。

 ということは、せっぱ詰まっているということと、この件に冷を関わらせたくないと言うことは想像できる。


 息子の気持ちを尊重してやらないと、反抗期になってしまうからな。

 何かに一生懸命になっている彼に、出来るだけ手を伸ばしてやるのは俺のつとめって奴だ。


「ネクサスに会うんでしょう」

「やっぱり、隠し事は出来ないか」

「いいよ、行ってらっしゃい」


 冷にはすべてがお見通しだ。隠そうとしたって、今のような結果になるならむしろ隠さない方がよさそうだな。


 俺は部屋から出て、隣で待っているタイガとシルバを見やる。

 もう20数年、俺の専属として勤めてくれていた執事とメイドだ。

 今回は護衛も必要ない。この二人が、俺の最高の護衛でもあるのだから。


「シルバ、手配は」

「私が操縦するのでよろしければ、すでに済ませています」

「完璧」


 ガチリ、とシルバのメイド服の中で拳銃の音が聞こえる。

 彼女も準備は完了させたらしい。それなら、何も言うべき事はない。


 行こう。










 電話が終わって、俺はすぐに親父が来てくれることに感謝していた。

 普通、こんなことを親にいったら、「もう少し待ってくれ」とか「急に言われても困る」とか言われるものだと思っていた。

 でも、俺の父親は特別だってすぐにわかる。何を言わなくたって、父親は父親で、俺はその父親の息子である。

 行動力が極限を突破しているとはこのことだ。


「魅烙もあしたくるか?」

「【神羅の伝説】様にあえるの? 行く」

「まあ、家族になる人だしね」


 そうやって笑いながら、俺は魅烙が夜ご飯の準備をしに行くのを見届けて、澪雫のいる部屋に入る。

 少し持ち直したようだ。元気そうとはなかなか思えないが、その顔色はいいほう。


 俺の前で元気を取り繕っているだけなのかもしれないけれど。それでも、こちらに気を使わせているなんてちょっと情けないものがあるね。


「お帰りなさい。遅かったじゃないですか」

「ちょっとね。明日も、出かけるよ」


 澪雫の、掛け布団の上に乗った右手を握る。

 細くて、綺麗で、白い手だ。今日の昼間に、彼女の両親へ宣言した……宣言してしまった言葉を反芻してしまい、思わず顔が堅くなってしまう。

 にやにやしていられる状況ではないのだから、それもそうか。


「……何か、企んでますね」

「いや、澪雫は何も心配しなくてもいいよ」

「ほんとうですか? ……まあ、それならいいのですけど、無茶は駄目ですよ」


 そんな顔をする澪雫に、俺は笑いかけながらも心の中で返事をする。






 大丈夫だよ澪雫。

 生涯を8割以上ともにする人に、命の半分くらい捧げたって妥当だって、思っているから。

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