第134話 「澪雫:信頼」
「……七星さん」
澪雫の部屋では、ベッドに寝たままの少女と、ネクサスに看病を任された七星が居た。
六駆七星、剣の才能を見いだされて澪雫に教わり始めたのが本当の最近だ。
でも、彼女自身澪雫の名前程度は知っていたし、あこがれに近いものも感じていた。
何より、彼女にとって澪雫という存在はそれだけではない。
自分のあこがれの人であるネクサスの、彼女である。
「はい」
目の前の少女は、女である七星から見てもかなりの美人であった。
何が起こっているのか、ほんとうによくわからないが。彼女の目を見つめていると、吸い込まれそうになる。
この数週間で急激にやせ細ってしまった身体は、適切な言葉が見つからないほど、痛々しいものだった。
「……ネクサスくんが、好きなんでしょう?」
「なんで」
なんで、気付いたのか。
七星は、未だスローネにしか伝えていない気持ちが、たった数週間生活をともにした先輩に気付かれていることに、驚く。
そんな七星をみて、澪雫はふぅと息を吐いた。
能力を一定量使い続けなければ身体に大きな負担がかかる。それなのに何も知らないネクサスに言われ続けていても、彼女が能力を使えなかったのは、単に能力が不得手というわけではない。
「ネクサスくんはいい人ですよ。もし困っていたら、構ってあげてくださいね」
急激に、ただ1人の少女は「剣聖」にあこがれていた。
ほぼ一切能力を使わず、大戦を生き残ってきた涼野冷という存在に、誰よりも強く憧れていたのだ。
だから、能力を封印することにした。自分のように能力が不得手でも、むしろ涼野冷という人物は一般人……能力を持たない人々とそう変わらない。
なのに、それであっても能力者と戦い、上位ランクの人々に「勝利」することすら可能である。
その事実を突きつけられ、ただ、それになりたいと思った。
命がやせ細っていったとしても、生涯伴侶を作るつもりの無かった澪雫は、それでいいと思ったのだ。
しかし、状況が変わった。
今は、ネクサスという存在が、大きく自分の生活に影響しているのがわかる。
最初はなんとも思っていなかった、むしろ敵意すら放っていたというのに。今は、彼が居なければ、……とても寂しい。
「ネクサスくんは、今どこにいます?」
「今日、学園にも居ませんでしたよ?」
学園に行っていないなら、どこかで無茶をしているのかもと澪雫は考えた。
彼が、ただ心配してずっと側にいてくれるだけの、何も出来ない人間だと思っていない。
彼は伝説と、剣聖の息子なのだ。
「私は、もう長くないかもしれません」
「え」
「医者には、18になれないって言われていますから。でも、ネクサスくんはそれを知らない。最後まで、それを伝えないでくださいね」
澪雫は、ネクサスの身を、ボロボロになっている自分の身体を棚に上げて心配している。
無茶をするのではないか、と。彼の思考からも、時分がどれだけ大雪に思われているのか、想像は容易い。
「あとで、帰ってきたらさりげなく聞いてくれませんか?」
「動向ですよね、わかりました」
七星は頷く。澪雫先輩の事は短い時間ながら、この同盟には無くてはならぬ存在だと理解している。
特に、彼女が今病気っていうだけで、ネクサスという人物の心は強く揺れているのだ。
もし、澪雫先輩が死ぬ、なんて事を知ったら。せっかく入った「居場所」が、安心できる居場所がなくなってしまうような予感がしてしまう。
七星の携帯がバイブで揺れる。
メールを確認すると、そこには澪雫の安否が最初に、次にネクサスがもう少しで変えることを伝える文章があった。
「そろそろ、帰ってくるようですよ」
メールの内容を澪雫に伝える七星。
それをきいて、彼女は安心したのか浅い眠りに、ついたのだった。




