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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第2部:第2章
133/199

第133話 「ネクサス:宣言」

 霧氷家は、巨大な古風日本の家屋であった。


「これが一般家庭なら、私の実家は犬小屋か何かかな?」


 隣で、礼装を身にまとっている魅烙が皮肉をぶちまける。

 ここは東京の中心地から電車で1時間ほど離れた郊外だ。

 小さい山も見える。なんていうか、……もうなんていうか。


 俺がいうのもなんだが、すごいところに住んでいるお嬢様なんだな、ということくらいは簡単に理解できる場所であった。

 そう考えれば、あのおしとやかな性格も納得できるというところ。


 敬語口調とか、あの視線とかも、こういう場所にいたから磨かれてきたんだなと、考えることはたやすい。


 俺は魅烙の方を向いた。もちろん俺も礼装だし、これを見れば日本人はだれであっても、俺の身分がわかるだろう。

 といっても、俺もそういう身分ながら一般家庭同様に育てられている。

 変に驕り高ぶると良くないからだろうか、まあ、そんなことは重要なことじゃないかな。


「行こっか」

「うん、そうしよう」










 インターホンを鳴らすと、すぐ奥へ通された。

 なんといえばいいのか、対応がむしろ異常にスムーズで、自分たちがくることは事前からわかっていたみたいにも思える。

 だから、その時点で俺は違和感がぬぐい去られることがなかったし、むしろ何かおそろしいことを聞かされるのではないかと危惧していた。


 もちろん、入っていくにつれて俺も、魅烙も疑いが濃くなっていくのを感じた。

 まず、家主がいる。


 澪雫の父親が、待っていた。






 澪雫の父親と母親は、俺と魅烙にすべてを教えてくれた。

 先天性の病にかかっていること、医者には18まで生きれないと言われていること。

 しかも、一番にくいのがそれは現代医学ではどうにもならないことだろうか。能力者にしか発症しない病気だ。


 とあるスパンで、一定量以上の能力を使わなければ段々身体に負担がかかる。

 しかし、澪雫には能力の才能がない。出したくても、俺みたいに出せるわけではないのだ。だから、寿命がだんだんと減っていく。

 それを、彼女は知っていたのだろうか。知っていたのだろう。

 それでも、俺たちの前では何も言わなかったんだろうなと思う。


 病気のことはよくわからないけれど、取りあえず。

 俺は、何とかしようと思った。


「助からなかったとしても、ネクサス・アルカディア君には遣ってほしいことがあるんだ」

「はい」

「……私の娘と、結婚してくれないか?」


 その言葉の意味を、俺は知っている。

 結婚は人生の墓場だとか言われているが、やはり結婚するその瞬間は女の子にとっては人生最高の時なのだろう。

 それを、味わわせてやりたいということだろう。


 分家とはいえ、有名な名門の家主が俺に頭を下げている。

 澪雫の母親は泣き崩れながら、同様に頭を下げていた。


 しかし、俺は首を振る。

 2人が愕然するのを目の前に、俺は口を開いた。


「まだしませんよ。学園を卒業して、ここにいる魅烙とともにするつもりです」


 澪雫の両親はまだ察しない。こちらの話がよくわかっていないようだ。

 しかし、魅烙はわかっているようだった。

 やっぱりそういう人なんだ、という呟きが聞こえる。


 同時に、彼女の顔が輝くように笑顔になるのを見て、流石に澪雫の両親もその意味が分かりかけたらしい。


「何か方法でもあるというのか、現代医学では不可能なものに」

「父親が父親ですからね。不可能を可能にする方法くらい、腕1本と引き替えにやってくれますよ」


 その言葉で、相手はやっと。俺が誰の子供なのか認識することが出来たらしい。

 しかし、と澪雫の両親は。自分の娘が助かる=何らかの条件を俺が強いることになることに、納得が行っていないようである。

 出来れば親なら、自分が代償を払いたくなるものなんだろうか。


 俺は、澪雫の事が好きだから、そのくらいは許容範囲だと思っているんだけどな。

 そうだな、納得しないと言うのなら、こっちから条件を突きつければいいか。


「そうですね、そのかわり一つだけ言うことを聞いてくださいますか?」

「ああ、何でも言ってくれ」


 俺は息を吸い込む。魅烙を見つめて、ごめんと心の中で謝った。

 理由は簡単、おそらく俺は澪雫の健康の代わりに何らかをうしなうだろうことを想像するのは容易い。


 もしかしたら、魅烙は五体満足の俺の方がいいのかもしれない。

 いや、配偶者はもちろん健康体の方が好ましいだろう。


「結婚直前になって無かったことにしないこと、これだけです」


 澪雫を私にください。

 俺はそういって、澪雫の父親が頷くのを確認し、霧氷家を後にした。









「澪雫ちゃんのこと、そんなに大切なんだ」

「澪雫だけじゃなく、魅烙が同じ目にあっても同じ事をしているさ」

「当てはあるの?」

「あるよ」


 帰り道。礼装姿の俺たちは、やっぱり大きく目立つ。

 ということで、どこか洋服店に入って着替えを選びながら。俺たちは話をした。


「つまりは、澪雫に能力を使わせればいいんだろ?」

「言うは易しっていうけどね」

「命半分と引き替えに、そのくらいは現実にして見るさ」

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