第132話 「澪雫:衰弱」
朱鷺朔清崙含め新入生が【ソキウス】に入って、3週間がすぎる。
スローネは銃の才能、七星は能力の才能、清崙は徒手格闘の才能がそれぞれ見つかり、現在の状況はとてもいい、はずだった。
代わりに、澪雫の状態が日に日に悪くなっている気がした。
まず、病気がちになった。風邪をひく頻度が余りにも多くなって、学園にほとんどいけなくなる。
3日、1日学園に行ってっていう感じ。
病院に行くことも勧めたが、澪雫は聞かない。
聞くとかではなく、この学園がある「通称」天王子島。そこにも巨大な病院はあり、そこなら通信で座学を受けること程度は出来るのだが、それを彼女は断ったのだ。
「もう少しで直りますから、あまり心配しないでください」
彼女は俺が、彼女の部屋に行くと、弱々しい笑顔でそう笑った。
とてもそうには見えない。むしろ、彼女の何か……正しくは命の灯火が、消えていくような感覚がする。
もしかしたら考え過ぎなのかもしれない。元々病気がちで、それを直すために身体を鍛える。それのために母親の剣術を学び始めたが、ちょっとぶり返しただけなのかもしれない。
それでも、やっぱり不安だ。
澪雫の看病で同盟との時間は削がれ、1年生はほとんど刑道や影劉さんに任せてしまった。
「澪雫さんも疲れてるけど、貴方も大概にしなさい」
魅烙は、実に我慢してくれていた方だと思う。
澪雫と魅烙はどちらも俺の恋人であり、どちらが欠けてもおそらく俺は精神をすり減らしてしまうだろう。
澪雫の看病や、心配などですでにすり減らし始めた精神を、魅烙が癒してくれた。
こう考えれば、自分の気持ちがとても弱いことに気付く。
俺は、魅烙に説教を食らった後、おとなしく膝枕されていた。
姉なんていないのに、姉がもしいたらこんな感じだったんだろうかと考えてしまうほど、魅烙は包容力がある。
「私のことは、今は考えなくていいからね」
静かな声に、はっとして。顔を上に向ける。
今までもさんざん、いや、全くと言っていいほど魅烙を意識したことは少ない。
澪雫との生活がとても楽しかったのだ。最初は親の仇のようににらまれていたというのに、恋人になってからはとても幸せだった。
魅烙には、まだ何もしてあげていない。
「でも、これだけは忘れないで。私は、お母さんの二の舞にはならない」
つまり、俺をあきらめはしないと言うことだ。
彼女の母親、華琉さんは。
自分の娘に、自分の夢を託して、半分つかみかけている。
でも、行動からわかることはある。
魅烙は、母親の夢だから俺とつきあったわけではなく、彼女の意思でそうやっている。
だから、俺も答えなければ、彼女に申し訳が立たない。
「……澪雫が元気になったら、みんなでどこかいこうか」
「出来れば3人でがいいかな、と思って」
彼女の言っている意味が分かった。
でも、お楽しみの前に、遣らなければいけないことがある。
「魅烙、一人じゃちょっと勇気の足りないことがあるんだ」
「……何かな」
魅烙はずっと、俺の髪の毛をなでていた。
今日は離してくれないだろう、まあ、それもいい。
澪雫のそばには今、零璃がついてくれているから問題はないだろう。
「明日、ほんとうに何もないのか、霧氷家に行きたいんだ」
「アポなしで? ……うん、そうね」
霧氷家は一般家庭と聞いている。
が、実際は違う。そのくらい、名前についている漢字「氷」から、表向きはなんとかなっても、5聖家に調べて貰えばすぐにわかることがある。
御氷家の分家なのだ。日本の氷属性有力家の。
関帝家に次ぐ、刀鍛冶の名門。
ちなみに、俺の母親の旧姓である「涼野」も、分家である。
……そう考えれば母親と澪雫、両方に剣術の才能があるのは納得行くものだろうとは。
考えられないだろうか。




