第131話 「朱鷺朔:決断」
自分で負けたから、これは自業自得というものそのものなんだろう。
俺はそう考えて、5人の先輩たちを見つめた。
最初は、ただアットホームすぎるこの環境が狭く感じた。
横のつながりが縦のつながりよりも強い気はしていたし、それは後に確信に変わっていく。
どうしても、新入生があとで置いてけぼりになっていくような気がして。
でも、気付いたら六駆七星もスローネ・デスティンも驚異の早さで打ち解けている。
それで、引き際を無くした。
第一印象は、そんなに強くなさそうだったのに、試合が始まると周りの空気が一変する。
演舞に出ていなかったから、影の参謀のような立ち位置で後ろから動かしているひとなのか、と思ったら天鵞絨影劉先輩がその位置だった。
なら一番槍をつとめる、冷静な戦士タイプなのかと思えばそれも違う。
涼野流剣術の次期師範候補として、ニュースにも取り上げられている霧氷澪雫先輩が、そこに立っている。
銃で撃つタイプかと思えば、【銃聖】最有力候補の八神魅烙先輩がそこにいて。
能力にステータスを全振りしたタイプなのかと思えば、そこには学園長の息子、痕猫先輩がいた。
他に神御裂の双子姉妹もいる。
少数精鋭なのに、サポートまで充実しているという普通に考えれば恐ろしいほどに、それはバランスのとれたものだった。
そして、同盟リーダーの彼。
彼は、俺が分析するに神器や魔剣と言った類に好かれるタイプなんだろうと考えた。
伝説の産物、とか。はたまた覚醒なんていう、限られた人にしか到達しうることの出来ない能力だったり、とか。
今考えれば、悔しいだけだったのかもしれない。
そう考えると自分が負けたような気がして、ついムキになってしまったというわけだ。
「時間はもうやらんからな」
しっかりと釘を刺され、俺は今一度頭を回転させた。
今、俺がここで【ソキウス】に入らなかったら、六駆七星へのこの気持ちはどうするのだろう。
無理か。諦めるしかなさそうだな。
……それなら、屈辱を呑み込んでも頼み込んだ方が良さそうだ。
ちょうど、俺の性格を変えるいい機会になりそうだし。
俺が口を開きかけると、その前にネクサス・アルカディアという男は一枚の書類と、1本のペンを俺に渡した。
呆気にとられながらそれを見ると、書類の正体は何でもない、同盟加入のそれである。
「書き込むか、それとも破り捨てるかだ。破り捨てたとしても、今日中の安全は保障する」
もちろん、ゼロタイムで書き込んだ。
「いやー、あのとき書き込んでなかったら魅烙と澪雫が半殺しにしてたよ」
ネクサス先輩は、あのときの詳細を俺に話してくれていた。
あのときはあそこまで気が合わなかったのに、今ではすっかり忠犬なんて他人から呼ばれているが、そんなことはほめ言葉だと認識する程度には俺も変わったということだろうか。
合致する人は、無意識にその感情を彼に開くということは、よくわかる気がする。
……悪く言えば、ネクサスという男には、中毒性があるのだ。
しかし、今の彼には。
彼の顔には、元気が、ない。




