第13話「成績披露1」
朝起きたら、魅烙が馬乗りになっていた。
これで二回目な。一昨日もこういうことしてたからな?
「……こんにちは」
「ん、今日はにゃって言わないんだな」
俺が指摘すると、魅烙はとろんとして潤んだ顔でこちらを見つめてくる。
顔は変に赤らめられており、昨日の……丁度あのときの状態と酷似しているような気もする。
「……二人の時は、猫語を使わないようにしようかなって思って」
「へえ。……服装にもつっこみたいことがあるがその前に、今日もどうやって入ってきた」
俺は昨日、寝る前にちゃんと確認したのだ。
鍵がすべて閉まっていること。チェーンもかけたはずなのだ。
なのになぜ、入ってくる。
入ってこれる?
「ん」
「……なるほど。今日はちゃんとした不法侵入だなぁおい」
「部屋、隣だし……」
どうやら窓から入ってきたらしい。
ここ、少なくとも5階なんだが、いったいどうやってベランダまで侵入してきたのやら。
っと、それにしても。
「……なぜ首輪?」
「いや、チョーカーだけど」
「首輪って言っても問題ない奴だよなそれ」
リボンみたいに細くて、ちょこんと飾りの乗っかっているようなチョーカーだったら笑ってながしてた。
ただ、これは流石に許容範囲外だ。突っ込みをせざるを得ない。
幅はそこまで……とは行かないが、分厚いなめし革に南京錠、さらに別の方向から1メートル以上はありそうな太い鎖が伸びていたら誰だって勘違いする。
俺は彼女の鎖を何げなしに引っ張ると、魅烙は「きゃっ」という声とともにこちらへ倒れ込む。
……ふむ、思った以上に従順だな。ってそういう意味ではなく!
「さ、最近のファッション……っ」
「天王子学園6万人のほとんどを昨日みたが、俺はそんなエロ衣装を滅多にみなかったぞ」
確かに、テンションがあがっているのかなんなのか分からないが、露出度の高い服装をしているのは3桁いた。
しかし、6万人中の100人とか考えても……。
あれ? 多いような気がしてきたぞ?
俺は一瞬バカなことを考えようとし始めた自分の頭をはっきりさせ、半ば無理矢理体を起こした。
「今何時だ?」
「14時……だよ?」
ということは、とっくのとうに序列コードの通知は来ているはずか。
魅烙の方を見つめると、彼女は何を勘違いしたのか顔をぽっと赤らめる。
ちょろすぎんよー。
昨日の案件が、彼女にどのくらい影響を及ぼしているかよく分かる態度だな。
強い人が好きって言うのも、あながち嘘ではなかったらしい。
まあ、俺よりも強い人なんて、死ぬほどいるんだろうけどな。
「初めてだから、あかりは、つけて、ね?」
「ちょっと通知取ってくる」
ちょっと何を言っているのか分からなくなってきた魅烙を部屋に放置し、俺は玄関を出て郵便物を確認する。
目当てのものは、あった。
洋封筒だ。そこに『1年特進 ネクサス・アルカディア様 序列コード在中』とかかれている。
ふむ。ふむ!
「魅烙はあけたのか?」
「ん、まだ」
持っては来てるんだけどね、と魅烙は俺に同様の封筒を見せた。
どうやら、先程の興奮はすでに収まっているらしい。
「とまー。3人そろったしあけよー」
零璃、完全に物静かなイメージが崩れてきてるぞ。
俺はそんなことを思いながらも、元気になっている零璃と妙におとなしい魅烙をみつつ、自分の通知入り封筒をあけた。
うーん。
……うーん。
一応、範囲内、か。
「んー。天王子序列コード499:【黒鉄】、かぁ」
ぎりぎり異名範囲以内に入った零璃。
特進クラスの保証順位は、学園序列100位以下だからな。
特進次席が200人以上いたとしても何ら疑問がわかないこの学園のことだ、500位以内の入っただけでもかなりの実力が認められている。
「たしか、300位以内に入ったら異名の選択権が与えられるんだっけ」
「にゃっ」
そこから500位は確か、政府から直接公布されるんだったはずだ。
こう考えてみれば、政府から公布されたほうが権威のような気もしないではないが、どうやら「与えられる」よりも「自分で選択する」方がいいらしい。
「ねーねー、魅烙さんはどうだったの?」
「……う」
「ん?」
魅烙が黙って通知を俺たちに見せる。
俺たちが、疑問の顔を浮かべつつそれをのぞき込むと、そこには「300」の数字が見えた。
「ふむ……。なんていうか、すごいね」
「なんか申し訳ないにゃー……」
魅烙は《序列コード300》とだけ書かれており、別紙に「学生課に来て登録を行ってください」とさ。
これは気まずいな、どう考えても気まずい。
範囲内、というのはいろいろと面倒なんだな。
人のことをいえないが、俺も。
「ところで、ネクサスくんはいくらかにゃん」
「気になるねー」
「俺?」
俺は魅烙と同じように、黙って二人に渡した。
二人の目が大きく見開かれるのは、想定済みである。
「「……150位!?」」
ポカーンと開いた口がふさがらない状態の二人を俺は観察しつつ、成績の方に目を向けた。
成績とは、この学園に入るための入学試験の結果……がそうなのだが、俺みたいな特別推薦も同じように比べることができるよう、ランク付けされている。
基本的には「A」から「D」の4つと「A」の上に「S」がある。
その更に上には「EX」なんていうランクもあるらしいが、普通はつけられないと説明にあった。
評価される項目はほとんどこの学園には関係のない「勉学」、俺の氷や烏導先生の光に値する「属性能力」、そして俺の『ISC』とかっていう「特殊能力」で分けられる。
「……俺は『C/A/A』だな」
ランクAまでは、努力でなんとかなるレベルだとは聞いている。
それ以上は完全に才能の問題だ、今度誰もいない隙をついて姉さんに聞いてみよう。
「魅烙は『S/B/C』にゃ」
「ボクは……うぐぐ」
魅烙が勉学面で才能のあふれているというのはよく分かった。
しかし、この学園ではそんなに……関係ないのか?
そんなことよりも、俺は言葉に詰まったような声を出した零璃の方が気になってしまった。
零璃は気まずそうに俺をみて、少々感傷的になっている謎な状態の魅烙をみて、ため息をついて自分の成績を伝えた。
「……ええと、『D/D/EX』……です」
零璃は何を言われるか分からない、とビクビク。
俺たちも彼女……じゃなくて彼の規格外さにビクビク。
さっき、俺ランクEXは滅多にないって言ったばっかりだというのに。
こんな身近にぃー!
「なんでそんなに特化してるんだよっ!」
「だって、いじめられてたから引きこもってたし、いつも鍛冶屋の手伝いをしてたし……」
訳ありすぎた。
と、俺たちが納得しているとチャイムが鳴った。
「んん? 俺の部屋を知っている人なんて、零璃と魅烙しかいないと思っていたんだが」
「……チャラ男かにゃん」
いやだなぁと零璃と魅烙が言ってるから、洸劔だったら追い返せばいいか。
そんなことを思いつつ、俺はドアを開ける。
「え、霧氷?」




