第125話 「清崙対ネクサス 壱」
朱鷺朔くんと、アルカディア先輩は殺気をはらんだ面持ちで退治していました。
や、どちらかというと朱鷺朔くんのほうが強い殺気を放っていたのかもしれません。
少なくとも、アルカディア先輩には戦闘意欲が強すぎて、殺気と勘違いするほどでしかなかったのですから。
と、私は周りの先輩方が、どうも異様なことに気づきました。
誰一人、自分たちの長のはずであるアルカディア先輩に声援を送っていないのです。
それどころか、ヤジすら飛ばしません。決闘というと、どうも騒がしいお祭り状態を予想していたのですが、どこか静かで、落ち着きすぎているという印象を受けるのです。
「あの、応援などはしないんです?」
「必要がありませんから」
剣聖、涼野冷の一番弟子である霧氷澪雫さんは、そう言い切ってこちらを向きました。
どこか涼風を感じさせる、泉の精霊のような美少女さんです。そのまま戦闘の道ではなく、モデルなどの道を選んだとしても十分に通用するだろうとこちらに考えさせます。
そもそも、剣聖自体も元々はどこかの雑誌の……モデルさんだったようで。
「ネクサス君は負けませんよ」
「でも、もしかしたらダークホースとかっていうのも」
「それでも、無いでしょう」
その確信がどこからくるのか分かりませんが……。
別に不信感を抱いているわけではないのですが、どうしても不思議に思ってしまうのですよね。
と、アルカディア先輩は指1を一本たてて、朱鷺朔くんに宣言しました。
「1分。俺は攻撃をしないから好きにやってくれ。その間に俺の守りを突破できれば、無条件で勝ちにする」
勝ちに「してやる」という上からではなく、相手を飽くまでも『戦士』としてとらえるその態度に面食らいながら、私は相手側を見つめます。
こういう場合、名家の方々というのは相手を下にみることが圧倒的に多いのです。
私は分家の育ちですが、そんな分家の弟であっても十分に傲慢ですから。アルカディア先輩のような国のトップの育ちはもっとひどいものだと思っていました。
「1分だって……」
その状態に、朱鷺朔くんは少なからずとも腹をたててしまったようです。
やはり、先輩の真意が理解できていないようです。私でも理解できたのに。
ちょっと単純な性格なのかもしれませんね。
「後一つ、教えておこう。『守る』という言葉を出していいのは、周りを全て守れる力を持つ人だけだ」
今、なぜアルカディア先輩はこのような言葉を口にしたのでしょう?
突然言われたように感じられますが、先輩の目はまっすぐ朱鷺朔くんを見つめています。
霧氷先輩の方を向くと納得したかのように頷いていますし、スローネさんですら何かを感じ取ったかのよう。
いったい何を感じ取ったのか、私にはよく分かりませんけれど。
「本質は一緒ってことなのかな、ネクサスさんがいうには」
分からない私のためか、スローネさんは漠然とした答えを出してくれます。
が、それもやっぱり漠然としているのです、本当は何を伝えたいのか。
よく分からないのは、私が理解力不足だからでしょうか。
「私たち、保護欲をかき立てられるってー!」
……え?
それは流石に、スローネさんの深読みが過ぎるような気もするのですが。
本当にそれで合っているんですかね……。
と、ここで私も一つの予想を立てます。
アルカディア先輩は「世界を救う」とは一言も発言していないのです。
ただ、「周りの」と言いました。つまりは仲間意識が極端に強いのでしょう。
ということは、それに否定しないと言うことは。
朱鷺朔くんは、私たちを仲間と認識しているということでしょうか?
身内に優しい人は、その優しさが上に行くほど外敵に向かって容赦しないと聞きます。
つまり、そう言うことなんでしょうか。
「この試合が終わった後の態度によって、俺の見方も変わる」
それだけを言うと、審判係に合図を出します。
審判係は八神魅烙先輩ですかね。
演舞会で見かけました。
「じゃあ、朱鷺朔くんから名乗りどうぞ」
「朱鷺朔清崙。異名『紅虎』」
むむ、入学時から異名持ちですか。
もしかしたら、めちゃくちゃ上級者だったりするのでしょうか。少なくとも並大抵の人よりは強いと言うことですよね。
ここ、天王子学園に入学する前に大会で優勝したりしていると、こうなるらしいです。
「次はネクサス君ね」
「天王子序列003、ネクサス・B・アルカディア。異名『蒼氷』」
アルカディア先輩、これで序列3位。
つまり学園の中で3番目に強いと言うことになります。
……もしかしたら、1分のハンデというのはもしかしたら、割に合わないものかもしれないですね。
案の定朱鷺朔くんも、顔をひきつらせました。
霧氷先輩や八神先輩がやっと頬をゆるめたところをみれば、その力の差は歴然と言うことでしょうか。
勝ち目がないとも言いそうです。
……本当に、なさそうです。




