第124話 「朱鷺朔清崙」
「ん、スローネと七星は加盟でいいんだな?」
とりあえず、3人を本部を連れ帰って、だいたいの説明はした。
その結果、女性2人はすぐに条件をみて飛びつく。
なんだかんだで、この同盟は女性が多い。
その点が、彼女たちを安心させるきっかけになったのだろう。
姉さんの同盟は、どうしても男性の方が多いからな。
その点では、俺と姉さんは対をなしていると言ってもいい。
しかし、唯一乗り気でないのが朱鷺朔清崙である。
条件に対して何か意見があるという訳ではなく、あくまでも俺に何かあるようだ。
「リーダーに問いたいのですが」
「ん?」
俺はそちらをみやり、何でもどうぞと頷く。
何かの覚悟を決めたように息を吸い込む彼と、参加表明の紙にいろいろと書き込んでいる2人の心配げな視線が、複雑に交差を開始されていた。
「なぜ、わざわざこの名前にしたのですか? 暗黙の了解を破ってまで」
「暗黙の了解は飽くまでも、暗黙の了解であって。父親の作り上げた同盟の名前を、息子の俺が継いでも問題はないと判断したからだ」
父親が作り上げた、というこの同盟には、たしかにまだほど遠い。
最終的なメンバーは、30人。しかし父親は、戦死者たちの名前をすべて加盟させ、今もソキウスは存在すると明言している。
そんな親父に、俺は憧れていたのだ。
「私物化しているようにしか見えないのですが」
「それの何がいけない? 彼の同盟だぞ」
私物化の意味すらよく分かっていないのだが、と言い返す言葉が見つからない俺に、影劉さんが手を挙げた。
その目は、険しい。
同盟内の空気が明らかにどんよりしてきたのを受けて、しかし彼は言葉を続けた。
「ここに、君のような考えを持っている人は、いない。ネクサスのように仲間を気遣う性格は彼の父親とよく似ているし、むしろ私物化してもらった方が放任主義の場所よりは快適だな」
アットホームすぎて、イヤなんだろうなと考えることくらいはできた。
同盟のみんなで夕食を食べたり、ほぼシェアハウス的なこの本部が、彼の考える同盟の理想図と違ったのだろう。
しかし、このアットホームさが、アルカディアの名前を継ぐ俺と氷羅姉さんの同盟の、共通点である。
父親から聞いて、実行に移している部分でもあるこの家庭的環境は、たしかに合わない人には合わないがだからといって加盟を強制しているわけでもない。
一度加盟したら、最大限の態度で接するが部外者に情けをかけられるほどに、俺は博愛主義者ではないのだ。
「朱鷺朔くん、少しは落ち着こうよ」
ついに、スローネにまで突っ込まれる朱鷺朔清崙。
分かっている。今頃彼は……今更身を引くタイミングを失っているのだ。
しかし、それでも自分に1つ芯を持っている。
そういう人を、俺は面倒に思ったりしないし、きちんと相手をすると決めているのだ。
「勝てると思っていませんが、僕と決闘していただけませんか?」
「いいよ。おいで」
神御裂の姉妹に合図をして、修練所ではなく能力の演習室を開いてもらうことにした。
能力戦闘。今回は純粋にそれだけをする予定のため、神剣を澪雫に預ける。
「……」
澪雫は、無言で語りかけてきた。
心配しているのだろう、万が一何かあったら、とか考えてしまうのが澪雫の性格なのだから。
しかし、今回に至っては大丈夫。朱鷺朔清崙には悪いが、本気を出すつもりはまったくない。
「いってくる」
彼女に一言。そして俺はちらりと魅烙の方を見やった。
「……2人が、心配することなんてないというのにな」
蒼に案内された場所に、朱鷺朔清崙は立っていた。
すでに決闘の仕方は知っているらしい。構えることはせず、審判をつとめる影劉さんと俺を見つめている。
「そう緊張するな」
そちらに、勝ち目はこれっぽっちも、ない。




