第122話 「六琥七星」
私は、悩んでいました。
この前のかっこよかった先輩は、すぐに名前が判明すると言っていましたが演舞会にも登場しなかったのです。
すぐ、という言葉はよくわかりません。
というより、なんていうか。……そもそも教えるつもりはないのかと不安になる程度には、姿を現しません。
『最後は、同盟。ソキウスです』
どよどよ。1年生のなかでも、ひときわ大きなざわめきが走り抜けます。
私も、その名前くらいは聞いたことがあります。20年前……ちょうど私が生まれる4年前に、国際的な紛争が起こって。
そのときに世界を救ったとされる団体が、「ソキウス」と名乗っていたこと。
それが後に、天王子学園の同盟だと判明したこと。
今の日本のみならず、世界を動かす影響力を持った50人ほどがそれに属したこともあって、よく陰謀論が囁かれていたりもしていましたが。
最終的には、大人たちも彼らのことを認めざるを得なかったのか、今は伝説として語られているとか。
世界史、日本史にも登場して、義務教育の間から繰り返し教わっていることです。
これは、能力を使える人々でなくても知っている一般常識、っていうものですね。
「ソキウスって、先輩から聞いたけど暗黙の了解を破ったんだってさ」
「まあ、『伝説』の団体を名乗ったんだからな……」
私の隣に座っていた男子生徒が、そう話していました。
どうも、この同盟ができるまでは、誰も使おうとしなかった言葉だったらしいです。
先輩たちが出てくると、なかには失笑をこぼす人もいましたがほとんどの男子生徒は圧倒されていました。
想像を絶するほどの美少女が2人、そこに立っていたからです。
紹介によると、銀髪紫眼の少女は霧氷澪雫先輩。
『剣聖』涼野冷さんの一番弟子、という噂は先ほどの男子生徒たちからの情報です。
日本人離れした容姿、と言えばそうなのですが。能力者は皆属性ごとに髪色が変わったりするのでどうとも言えません。
心なしか、写真で見た『剣聖』様と似ていますね。
もう1人は八神魅烙先輩。
こちらは霧氷先輩と打って変わり、色気にあふれた先輩です。
髪の毛は、赤。目の色は猫のような金色。
どうも、霧氷先輩と対象角にいるような先輩ですね。
こちらは、両親がどちらとも旧「ソキウス」に属してたことがわかります。八神、と言ったらそれしかありませんし、先輩の顔は母親そっくりですから。
……それにしても、ほかのメンバーもハイスペックですね。痕猫先輩は名前からして、学園長の親族でしょうし。
巻瀬という名前は聞いたことがあまりないですが。
痕猫先輩はかっこいいというか、強者の風格を余すことなく漂わせていますし。
巻瀬先輩は、名家の先輩たちに引けを取らないオーラを醸し出していますね。
「リーダーいないじゃん」
そんな不満の声があがりますが、同盟リーダーの名前はネクサス・アルカディア先輩だそうです。
……アルカディア、という名前を聞いてしまったら会場が静まり返ってしまいました。
『生きる伝説』の息子さんが暗黙の了解を破った、というのはある意味襲名にもなるので、文句が出てこなくなったんでしょうね。
「六琥七星」
演舞会が終わり、私が帰路につこうとしたところに後から声をかけられました。
振り向くと、そこには1人の男子生徒が立っています。
どこか表情が堅く、緊張しているようでフルネームで呼んできました。
……後を覗けば、この学園で初めてできた友人のスローネ・デスティンさんもいらっしゃいますね。
「はい、どうしました?」
「そっちじゃないよ、寮はこっちだよ」
間違いを指摘してくれるスローネさん。
とてもありがたいのですが、ちょっと同盟に見学へ行きたいことを伝えます。
もちろん、行く場所は同盟「ソキウス」です。
幸いか不幸か、どうも「エーリュシオン」と「ソキウス」という二つの同盟は近づきにくいらしく、スローネさんも渋り顔ですね。
「ハードル高そうだな」
ええと、朱鷺朔清崙君にもそう言われてしまいました。
中国と日本のクォーターらしいです。
名前に華やかさを感じますが、名前負けしていない顔をしています。
スローネさんといい、清崙君といい。
能力者の顔の水準、高いですね。
と、ここで私は前に目を向けたまま、「そこ」へ目が釘付けになってしまいました。
あの先輩がいます。ずっと名前を聞きたかった、最近では夢までに見る先輩の姿がそこにあります。
誰かを待っているようで、立ったまま半分寝ているような雰囲気を漂わせていますが、彼でした。
声をかけようと進んだところで、スローネさんに止められました。
ゆっくり首を振られて、戸惑うこと数秒。
「……あの人、話題のネクサス・アルカディア先輩だよ」
「えっ」
どうしま、しょう……。




