第120話 「演舞準備」
「演舞には、誰が参加します?」
「俺はしないけど」
明日は、同盟の代表メンバーが自分達の能力を新入生に誇示し、勧誘するためのイベントが存在する。
それにソキウスも参加するが、前日になってまだ誰が参加するかは決まっていないというこの状態である。
「刑道さん、出ていただけますか?」
「うん、いいよ」
痕猫刑道。この天王子学園の学園長の親族である。
学生内のイベントであっても、学園長の挨拶はある。その後で痕猫の名前が出れば、そもそもの知名度が上がるのではないか、というもの。
澪雫は「剣聖」涼野冷の1番弟子として出てもらう。澪雫はそのことで目立つことに誇りを持っているから、問題はないはずだ。
本当はあと2人くらい欲しいのだけれど。零璃は明日なにかあるらしく、そもそも学園にいない。
影劉さんは「そういうキャラじゃない」と陰の参謀役を名乗ったため、暗に却下されたことを悟った。
「ルナナ、どうだ?」
そうやって彼女に声をかけたのは刑道だった。最近いつも一緒にいる物の、恋人未満という状態になっているが……。
そもそも、演舞なんていう大層なネーミングをしているから皆が後込みするんだと思う。
内容は自由なんだから、本当は歌を歌っても何してもいいのだ。
音波系能力を極めた結果、歌も歌姫レベルに巧くなってしまったルナナなら出ても良いような気がする。
ミュージカル風か、もっと出たくなくなってきた。
「あ、ネクサスくんは出なくてもいいです」
澪雫は断言した。俺の気持ちをくみ取ったのではなく、俺の能力の威力が分かっているからこその発言である。
装飾に使えるのかと思えば、俺の物は視覚的には美しいものの、その美しさはバラの代償とそう変わらない。
結局、魅烙が出ることになった。
銃の名手である彼女、照明弾と拳銃2丁で行くらしい。
いや……彼女が練習するために取り出した拳銃の数は、……7丁?
「それぞれ色が違うから、こう出来るんだよー」
そういって、持ち替えからの早打ちを繰り返して虹を描いてみせる魅烙。
アクロバティック過ぎる。
まあ、面倒くさいからと彼女は拳銃をファンネルの様に宙に浮かべ、能力で操作し始めたのだが。
それでも十分に凄い。7機をすべて魅烙が操作しているということであり、その苦労は計り知れない。
「さて、簡単に練習に入りましょう」
澪雫がパンパンと手を叩き、出場するメンバーたちが相談し始めるのを見て、俺は影劉さんと部屋を後にした。
「演舞の1週間後、公式試合があるのは知っているな?」
ここは会議室。
その一角で、俺と影劉さんは皆のデータを見比べていた。
「はい」
「取りあえず、ネクサス以外に覚醒の可能性がある人は八神魅烙、霧氷澪雫の2人だ。ほかの子たちも後一歩というところまで来ているけれど、まずはその2人」
影劉さんによれば、下手したら澪雫は暴走する可能性もあるのだとか。
理由を聞いてみれば、どうしても半年で能力を強化しすぎた結果だという。
今まで、ほとんど剣に頼ってきた彼女が、いきなり。
薬物の大量接種による発作を、能力の大量使用による覚醒と置き換えれば、その理由は簡単に分かると言うもの。
「魅烙さんの方は、元々自分の属性能力をこめて打ち出す銃を使っていたから、暴走の可能性は低い」
使い慣れている、ということかな。
魅烙は大丈夫、と。了解。
あと、と影劉さんは俺を見つめた。
「ネクサスにも、暴走の可能性がある」
「え」
でも、俺が覚醒を発現させたのは半年前だ。
今まで10数回、覚醒して完成形まで持ってきていたのだがそんな兆候は一切見られなかった。
だから安心だと思っていた。思っていたのだが、影劉さんの見解は少し違うらしい。
「君の父親は、10数個の覚醒態を持っていたと聞く」
「俺にも、それがあるとでも?」
「10を越えるには特殊な条件が必要でも、2こや3こ持つことは十分にあり得る」
能力をほとんど持たなかった母親でさえ3つは覚醒できていたのだ。
1つは特殊条件下ではあったけれども、それでも2つ。
だから、家系的にも充分にあり得るのだ、と彼は言っている。
「別に脅しているつもりはないから安心してくれ」
「いや、分かってるけど……」
やっぱり、ちょっと不安だ。
魅烙や澪雫が暴走した場合、俺が押さえ込むことは可能だろうけれど。
もし俺が暴走したとき、誰が止めるんだ?
「そのときは、俺が覚醒するから大丈夫」
「出来たんですか」
戦闘には向かない、ときっぱり影劉さんは首を振る。
完全支援形の覚醒ということだろうか。それか、特殊能力しか持ち合わせていない本当に局地でしか使用できない覚醒だったりするんだろうな、とは思う。
それも、彼の物悲しげな顔をみると、その先を聞く気分などなくなってしまうのだが。




