第12話「歓迎会5」
「ネクサス、久しぶり」
すたっ、と屋上から地面に飛び降りた少年は、俺をみてそう言った。
髪の毛は金と銀のメッシュだろうか、そんなに明確に分かれているということではなさそうだが、その二つの色があることくらいはわかる。
烏導先生は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
問題児たちが集まるのはいやなのか、なんなのか知らないが。
「ネクサスくん、この人は知り合いかにゃ?」
「ああ。名前は……」
しかし、俺が紹介する前に。
その少年は、魅烙を色目でみつつ、彼女の手を取って自己紹介をする。
「どうも初めまして、天鵞絨洸劔っす」
「勝手にボディタッチする男は嫌いなのにゃ」
魅烙はその手を払うと、俺の隠れる。
そしてジト目で洸劔を見つめつつ、「魅烙はネクサスくんに質問したのにゃ」と文句を漏らす。
その徹底した嫌われぶりに、洸劔はため息をつくと肩をすくめて首を振る。
そもそも、今の時点で魅烙は俺の腕に抱きつくようにしている。
充分にボディタッチの範囲内にはいるんだが、彼女からの時はいいのか。
まあ、そうだわな。
「天鵞」
「……さわったら、斬ります」
洸劔は、霧氷の方にも手を伸ばしかけたが逆に刀を突きつけられた。
彼女の顔は本気だ。下手なことをすると本気で斬られるだろう。
「あれ、何でこんなに嫌われてるんすか? 俺もネクサスも、同じような人間なのに」
「そりゃあ、出会って数秒しかない女にさわったら誰でも警戒する」
洸劔の顔は水準以上だが、水準以上の男なんてこの学園にはいくらでもいるわけで。
それにピアスだの、チェーンだのいろいろぶら下げてたら普通に考えて警戒するだろう。
それなのに、洸劔はそれに気づかずに手を出した。
「私としては二人とも問題児であることで、あまり変わらないが。正直、優秀なだけ質が悪い」
「あのー、俺何人吹っ飛ばしたか覚えてないんすけど」
洸劔は首を傾げて烏導先生に質問をした。
彼の話によると、「気づいたら周りの人が吹き飛んでた」という。
洸劔だからね、仕方ないねってなるわけもなく、烏導先生は頭を傾げていた。
「100人以上だ。天鵞絨もそうだが、アルカディア。お前はどうするつもりだ、あの彫像」
烏導先生が指しているのは、俺が雪崩やいろいろで固めた100人の先輩たちだろう。
そんなこと言われても、溶けないものは溶けないんだから仕方がない。
俺が「俺の力では温度を下げることしかできない」ということを伝えると、烏導先生はふぅとため息をつき。
氷の彫像に、手をかざすようにして右手を伸ばす。
「『太陽焔舞』」
すると、なんということだろう。
彼の手から光の塊が出現したと思えば、それが4つに分散して4方向から彫像を溶かしていく。
その光、例えるなら「ミニ太陽」。
特に時間もかけず、ふつうの能力者なら6ヶ月くらいはかかるであろう俺の氷を、2分という驚異の早さで彫像を完全にとかした烏導先生は乱暴に全員を起こし「お前等もお前等で何やってるんだ」と叱りつけて解放する。
ふむ、これが「日輪の化身」か。本当に太陽を生み出すなんて……。
いやいや、強すぎるだろこの先生。
ていうか早すぎ。早すぎ!
「ああ、問題児ども」
「にゃ?」
そこで返事するな魅烙。
魅烙が問題児だってこと、自覚しているようにもとれるぞ。
烏導先生はため息をつきつつ、追い出すように手を振った。
「今日は終わりだ。さっさと帰れ」
その言葉に、逆らう人はいない。
目の前で太陽を出されたら、誰だってビビる。
俺の氷は最大出力じゃないが。
という事実も、この場においては負け惜しみに聞こえてしまう、か。
「というわけで、天鵞絨洸劔っす。宜しく」
「……何このチャラい男」
名前からしてこの人は凄いからな。
おかしい。いろんな意味でおかしい。
何がおかしいって、正直言って何を言えばいいのかわからないだろうけど、この人は……。
それにしても、洸劔は女子からすこぶる評判が悪い。
「この人、……理事長の息子だね」
「うん、それは察しついてたけどにゃ」
あ、やっぱりわかってたか。
それでも嫌うってことは、相当だな……。
それとも、権力に屈しないという強い意志の現れか。
どちらにしても、洸劔の思い通りにならないというのは彼のプライドを傷つけるが。
俺には関係のない話だ、放っておこう。
「ねえ、ネクサス君。明日も部屋に行っていいかにゃ?」
「ボクも行きたいなー!」
「じゃあ俺もー」
「「だめ!」」
俺の意志は関係ないようだ。
魅烙の「行っていいかな?」は確認だろう。
ただ、唇に指をあてて、なにやら物欲しそうに潤んだ瞳に見つめられたら、何もいえなくなるのが男と言うものだ。
正直、理性を保とうとしているだけでも必死な部分がある。
洸劔は、とっくのとうにダウンして襲いかかる機会を舞っているくらいなのだから。
「……ね?」
「何が『ね?』なのかよく分からないけど、分かった」
明日からは授業……という訳でもなく、授業は明後日からである。
明日は在校生の始業式があるらしく、俺たちはこの学園の序列コードの結果をまつのが明日の役目だろう。
何番であれ、俺は姉さんがこの学園に在校し、1位をとっている間にもぎ取るだけだ。
「明日、全生徒一斉だっけ?」
「そうだったはずにゃ。まあ、1位は決まってるらしいけどにゃ」
まあ、姉さんだろうな。
両親の劣化コピーなんだから、ふつうの人たちが姉さんに挑んで命を落としていないだけマシだということだろう。
「……じゃあ、私はこっちだから」
霧氷が、零璃だけに告げて去っていった。
あまりにもあっさりした動きに、零璃以外の俺たち唖然。
仕方がないっちゃあ仕方がないだろうけど。
能力者不信だっけか、そんな理由があるのなら仕方がない。
母に頼むって言われたからな、ゆっくりでも取り込んで見せるさ。
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「今年の新入生はどうかな?」
「まるで彼らが示し合わせたように、この年に集中しているんですが」
「単なる偶然だろう」
私……烏導輪化は今、天王子学園の学園長室にいる。
前には、目もくらむような麗しい女性と年季の入った厳かな男性がソファに腰掛けている。
女性の方が、私に座るよう促す。
彼女の名前は天鵞絨雨海、この学園の理事長である。
そして男性が、痕猫瑣祁、学園長。
「示しあわせたように、ですか。確かに、偶然ではないかもしれませんが」
その声は、ともすれば女神に例えられるほど美しく、その声に何人の人が心を奪われたかは数えられないという。
さすが天王子学園に在籍していたころ、「歌姫」と呼ばれてただけはあるなとおもいつつ、私は理事長の言葉に耳を傾ける。
「偶然ではありませんが、運命という可能性はあるのではないでしょうか?」
「運命だなんて、そんなことあるわけないじゃないですか」
私がため息をつきつつそう返すが、天鵞絨理事長は頭の上に「?」を浮かべて首を傾げた。
そのすがたをみながら、俺は運命などという現象に対して考えた。
いや、考えるのはよそう。俺は「運命」よりも「因果関係」の方を好む。
必然的に起こり得ることなんて無い。すべては原因があって理由がある。
私の、この能力も。
「今年度の1位は誰になるだろうな」
「私は、やっぱりネクサスくんを推します」
「儂はやっぱり……」
と、学園長が手を伸ばすと、そこに一人の少年が召還されたかのように登場した。
たぶん、今まで気配を隠してそばにいたのだろう。
「自分の息子を推すね」
そこにいたのは、未だあどけない印象の残る一人の少年。
名前は確か……。
確か……。
「痕猫刑道です。あ、ちなみに犬派です」
その情報は、正直言って必要ない。
活動報告にて、この作品の裏要素のヒントがあるのでそちらもご覧になってくださいな!
 




