第119話 「身体の限界」
「うーん、やっぱり身体にガタが来てる」
氷羅は、自分の身体に限界が近づいていることをかんじとっていた。
元々、この身体は借り物で、だからこそ定期的に調整が必要だ。
だけど、去年はついつい無理をしてしまって、ゼニスの役目を全うしようとしてここまで響いてきたということだろう。
そもそも、そこまで珍しい話ではない。吐血してやっと調整に入るなんていうこともよくある。
そんな彼女の頭を引き寄せながら、髪の毛をもてあそんでいるのは陸駆であった。
「調整にはいつ頃向かうんだ?」
「学園を休まないといけないしね……できれば今学期の最後がいいけれど……」
もちろん、夏休みに行った方がいいに決まっている。
しかし、その前に何回戦闘があるかわからないのだ。逆に今行った方がいいかもしれない。
しかし、氷羅にはゼニスでの座があった。
「5月には行った方がいいかも」
「わかった」
そのときは俺もついて行く、と陸駆の言葉を受けて氷羅は優しくほほえんだ。
冬休みの間に、陸駆は両親に対して同意を得るためにわざわざ実家の方まで行ったのだ。
最終的には許可されたが、いくつかの条件もいい与えられた。
それを重く受け止めることはできた。それを実行する決意も彼にはある。
「卒業したら、すぐにこちらへ来るのか?」
「そうしたいところだけれど、お父さんに訊いて調整装置をどうするのか……」
今年からは忙しくなる。だからこそ、どうしようか考えないといけない。
「私は就職しなくてもいいの?」
「する必要ないのに?」
陸駆は家業を継ぐため就職は必要ない。
神鳴家は能力を持たない一般人のための道場を開いている。
もし能力者に襲われたばあい、どう対処すべきかという根本的な問題、能力者と一般人の壁を出来るだけ取り払うため作られ、現在は支部をつくるほど繁盛しているのだ。
「安心して」
「……してるよ」
それなら良かった、と陸駆は頷くと、立ち上がって何処かに行ってしまった。
ほかほかした気分のまま、氷羅は自分の手をぐっと握り込む。
力が思ったよりもでない。さすがにだめかもしれない。
「ネクサスに、ゼニスを渡したいところだけれど……」
自分達の時代は終わったのだ。早く次の代に受け渡したいところで、出来れば自分の弟がいい。
噂を聞けば、最近は天鵞絨影劉の指導を受けて急成長しているのだというのだから、そろそろ自分に均衡してきてもいいはずだ。
「待ってるよ、ネクサス」




