第112話 「自責の念」
「おっほわー!」
冷が興奮冷めやらぬ口調で意味不明な言葉を叫んでいる。
おっほわーとはなんなんだ、本当に。
それはきっと、神鳴陸駆の覚醒形態をみているからこそなのだろうが、と俺はため息をついた。
どうしたって、こうやって新しい「形態」になった覚醒の管理システムを目の当たりにしているのだから少々の興奮を覚えるのはやむなし、ということだろうか。
「そういえば、貴方のはすべて分類されているの?」
「俺たちのは分類されていないよ、能力の制限がなくて覚醒の開発が容易だったから、俺の覚醒をリストにしたら本当に羅列にしかならないからな」
実際、俺の覚醒は20数個ある。あのとき戦って、発言したのが5こ。
ほかは、学園生活で拾得したものだ。
「それにしても、貴方は強すぎるのよ」
「そんなことないない」
俺は自分のことを強いとは思っていない。
違うな、俺は自分の力を自分のおかげだと思っていないのだ。
これは事実であり、ここまでこれたのは彼女がいないと無理だったと思っている。
「冷が俺の人生に与えた影響は計り知れないんだ」
「そんなこと、ない」
それがあるんだよ、と俺は言葉を続けたが、彼女は少女時代と変わりない笑顔を見せていたため黙る。
冷は人一倍、敏感だ。
だから、俺が何を思っているかくらい簡単に予想がついていることだろう。
それを否定しているのは、ただ彼女が謙遜しているだけなのだから。
「むしろ、逆」
冷酷な剣姫でいようとした私を変えてくれたのは、あなた。
彼女はそう俺に告げる。
こんな話をしているあいだにも、ネクサスはピンチに陥っているというのに。
まあ、氷羅が何を考えているか分かっている俺は、まだ安心できているのだが。
「こうやって見ると、天王子学園って平和になったなぁって思うよ」
「……そうだな」
「覚えてる? ネクストが道端で20人蹴散らしたの」
学園にいた3年間……いや2年半のあいだに、何人と戦ったかなんて覚えているわけがない。
100人は超えたような気がする。直接的に戦っていないにしても、最終ではそのくらいだろう。
「それだけじゃない。……俺は人を殺したんだ」
戦争だとはいえ、俺は現実で人を2桁殺している。
全員が能力者だ。正しくは昔「不完全能力者」と呼ばれて差別されてきた人々。
世界中で軍事クーデターを起こした彼らを止めるには、そうしなければならなかったのか。
俺はすべてが終わり、すべてがまた始まったあの日から、1日たりとも彼らを忘れたことはない。
彼は英雄だ。政府たちにとっては「外敵」であったとしても、差別されている人々を立ち上がらせ、実質この世界を帰ることができているのだから、英雄なのだ。
方法が違っていたら、いい友になっていたのかもしれないと思ってしまう。
結果、俺は毎回深い後悔におそわれるのだ。
「……また、考えちゃった?」
「ああ」
今、その彼らは「特化能力者」と呼ばれるようになった。
「不完全能力者」という言葉を公に使った人々は法によって罰せられ、表立った差別は形を潜めた。
実際、この新しい天王子学園にも、一部は「特化」だろう。
全部、彼が証明したのだ。
「不完全能力者」は「能力者」に劣っていないと。
汎用的なことはできなくとも、それは欠点ではなく、不完全ではないと。
「あ、ネクサスが覚醒した」
冷がそうこぼし、俺は思考を現実に復帰させた。
目の前には、氷の鎧に身を包んだ佇まいの息子がいる。
その姿は、俺に、本当によく似ている。
鎧も、翼も。
「……あれ、貴方のデッドコピーかな?」
「遺伝子は争えないってことだな」




