第107話 「蒼の眼」
「どうみても、相手が手加減するとは思えないのですよ」
不安げな顔を隠そうともせず、俺の方を見つめているのは澪雫だ。
どうも、今日の陸駆さんとの戦いを懸念しているらしい。
単純に心配なのだろう、いろんな意味で。
「大丈夫だって。ちゃんと勝って、魅烙も一緒に奪ってくる」
「ですが」
「心配している意味は分かる。だけど約束だからね」
約束、か。
自分で言うのもなんだが、ちょっと不安ではある。
しかし、無理はしていないし。
無理はしていない分だけ、彼女が俺以上に心配する必要もないのだ。
「ちょっと蒼たちを起こしてくる。ゆっくり休んでて」
「はい。でも」
朝食は作り終わっているし、あとはみんなを起こすだけだな。
取りあえず、上階へ向かおう。
「蒼・紅・ルナナ、朝だぞ」
「ん」
女子勢が眠っている部屋をノックした後、布団を敷いて寝ている3人を起こしにかかる。
窓は開きっぱなしであり、暑くて落ち着かなかったのか3人とも布団は放り出されていた。
「……うん」
さすがに、こんな無防備な彼女たちに触れることは許されないだろう。
さてどうするか。
冷やそう。
俺は自分の手に力を込めるようにして、右手を左から右へ薙ぐ。
水色のオーラが、実際に冷気となってみんなに降り注ぎ少女たちはもぞもぞと動き出した。
「……うぁ」
最初に声を上げたのは、昨日俺に起こしてくれと頼んだ蒼だ。
うっすらと目を開けて、こちらを見てもぞもぞと起き上がる。
「おはよう、ネクサス君」
「みんなも起こしてくれるか? 下で待っているから」
「はぁい」
ふわぁ、とあくびをしながら蒼はおきあがり、こちらを見つめてもう一度あくびを繰り返す。
その姿に、警戒といった二文字はない。
むしろあどけなさが残る顔で、蒼はこちらに近づいてくるのだから困ったものである。
「おっとと。やっぱり寝ぼけてるのか?」
そういって俺は踵を返したが、すぐに服の裾をつかまれる感覚がして、振り返る。
と、そこには目を妙にうるませた蒼の顔があった。
こんなに近くで見るのは初めてじゃないだろうか。
見つめれば見つめるほど、彼女の美しさが際立って見える。
眼以外は完全な大和撫子だ。外国人から見れば、それはもう理想的ではなかろうか。
その名前のごとく蒼い眼も、宝石のように光り輝いている。
もっとも、その目はとろんと潤っていて。
「ここで一緒にいよ、ね?」
「うーん、でも時間があるし。また今度にしようか」
「やーや」
甘えるように発した彼女の声は、それこそとても甘ったるくていとしく感じられてしまう。
……いかんいかん。色気に誘われていきなり自分の彼女を
裏切るところだった。
こうしてみると、4か月ほどたったというのに俺は全く変わっていないんだなと感じてしまう。
やっぱり好色だということだろうか。
困ったな。……魅烙の剣はなんとかなったけれど、こんな状態で澪雫はいい思いをしない。
そのくらいは分かっているんだが。
まあ、きっと寝ぼけているだけだろう。そうおもって俺は彼女の手を丁寧に振りほどく。
「また明日な?」
「うん。……うー」
一度はうなずいたものの、すぐに不満げな顔をする蒼をなだめるため、俺は彼女の頭をなでてやることにした。
小動物、ハムスターのようにかわいく思えてしまう。
うん、しかしこのくらいにしておこう。
やりすぎると本当にあれだからな。
「そんな元気があるなら、みんなを起こしてくれるかな?」
「うん。おねー!」
つぎこそ、何もなく蒼は紅を呼びに行ったようだ。
俺は息をつき、ドアをそっとしめて彼女のまつ下階に降りることにした。




