第103話 「帰り道」
深夜更新。
「覚醒って、制限されるものなのですね」
2時間後、説明が終わって俺たちは本部に帰る。
その帰り道の中、澪雫は寂しそうな顔で、こちらを見つめていた。
「ま、正直……。これをいつ何時も持っていろということは、監視されるのは覚醒だけじゃないような気もするが、な」
元々、能力なんてものはすでに人間の制御では効かなくなっているのだ。
これが30年前なら何とかなったのかもしれない。普通の人間と、能力者の比率が8:2のような状態であれば。
しかし、今はすでに5:5となっている。
それも、22年前の戦争で生き残った人は、能力持ちが遥に多かったからだ。
能力者協会にいる人だって、もう8割が能力者だ。どうやって普通の無能力者が管理すると?
「零璃」
「はいー?」
俺は、後ろの方で刑道としゃべっていた女装少年を呼ぶ。
こちらを見つめてやってきた彼に、俺は先ほどの「それ」を見せた。
「一回、分解して中に何が詰まってるのか見てくれないか」
「はいはいー」
分解、というのも。
中身に悟られたらまずいから、そういうのがないように分解して貰うが。
「外見をみたところ、一つもネジは使われていないのですよね」
「能力を使って貼り合わせたりしたんだろう?」
本当に分解してしまっても、大丈夫でしょうか。
澪雫は不安げだが、……大丈夫だろう。
壊したから殺される、ということはなさそうだな。
「俺もそばにいるから、何かあったら俺の責任で良いって」
「うん」
その前に、明日に向けて早く寝るんだよ! と零璃。
完全に私用なんだがな、アレ。
それを、周りの人が必要以上に大きく取り上げてたせいで、明日は凄い観客が集まっているらしい。
「そんなに、魅烙さんを迎え入れたいのです?」
「そんなに、っていうか。……約束だからな」
「私はぜんぜんかまわないのですけどね」
そういった彼女の顔は、穏やかだ。
しかし、その目は笑っていないような気もして、ある程度の寒気が俺を襲う。
まあ、そりゃそうか。
自分の彼氏の関心が、ほかの女に向かっているのに内心穏やか出要られる人はそれこそ天使だろう。
理想を言わせれば、このくらい人間味のある方がいい。
内側でため込まれたら、それこそ面倒だ。
「そういえば、昨日も魅烙さんと密会していましたよね」
「うん。知っているのなら、俺が変なことしていないことくらい分かるだろうよ」
「そうですけど……。魅烙さん、ってネクサス君のこと大好きなんだなって思いました」
魅烙が、俺を好き、か。
気づいてはいたし、彼女はそういう感情をまるで隠そうとしないからな。
「私も、もう少し感情を露わにするべきでしょうか」
「露わにしてくれるのはありがたいけれど。……その前に、その足をなおしてからだぞ」
松葉杖をついている澪雫なんて、見ていて本当に痛々しいのだから。
俺は気まずそうに視線を泳がせている彼女を抱き上げると、松葉杖を零璃に任せる。
「……ん」
「これだったら、まだ可愛げがあるな」
顔を赤らめ、俺の首に手を回す澪雫。
そこから、彼女を見つめていたが、澪雫は本部に到着するまで何もはなさなかった。
「人がいなかったからまだいいものの、外でやられたらアレはダメですね!」
本部に帰るなり、熟れたトマトのように真っ赤な顔をして、澪雫は喚くように言い放った。
どうも、先ほどのお姫様抱っこがお気に召さなかったらしい。
「いや、でも顔を赤らめた澪雫は可愛かった、うん」
「そう言っていただけるならいいのですけど、って良くないですよぉ」
おかしいな、いつもの凛々しさが今の彼女からは伝わってこないのだが。
むしろ、どこか可憐さを纏わせるモノになっている、ような気がする。
「お取り込み中悪いけど、私たちはもう寝るね」
「手は大丈夫か?」
「大丈夫。取り敢えず、何かあったらまた連絡する」
と、口を挟んできたのは蒼だった。
彼女の手というよりも手首かな、青あざが出来ていたが湿布でなんとかなる程度の事だったらしく、特に痛がってはいなかった。
「そうか、ゆっくりお休み」
「おやすみなさい。……明日、頑張って」
ちゃんと見に行くから、朝は起こしてねと蒼。
それに対して俺がうなずいたのを確認すると、少女は唇の右の方をつり上げるようにしてほほえみ、双子の姉妹である紅の手を握ると上階へと向かっていった。
彼女たちに続いてか、ほかのみんなも俺に一言かけて次々に上階へ。
最終的に、俺と澪雫だけになった。
「……私も、寝ます。……と思いましたがやっぱりもう少し起きてます」
1秒の間に手のひらを返した澪雫に、俺は少しだけ笑いかけると彼女の手を取った。
暖かい飲み物を飲みながら二人で話をすると言うのも、悪くはないかな。




