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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第3章
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第101話 「覚醒の力」

「ほう、1年のこの時期で覚醒するとは、さすが【アルカディア】の血筋……と、ほめた方がいいのかな」


 リーダー格の筋肉だるまが、俺を興味深そうに見つめていた。

 しかし、俺はそんなことに気を集中させることも出来ない。


 能力者にとって新境地、限られた人々だけに与えられた力。

 【覚醒】すると、今まで気にもとめていなかったものがすべて、情報として強制的に脳へ詰め込まれてくるのだ。


 呼吸の音すら感じ取れてしまいそうだ。

 いや、実際には聞き取れているのだろうが、俺は一気に激流の如くあふれ出しつつもあった情報から、必要なものと必要でないものを判断できない。


 小さすぎる器からはすぐに水があふれるように、最初に入ってきた情報以外は、すべてこぼれていた。


「その、姿」


 後ろのほうで声がする。

 情報をいったんすべて脳から追い出し、俺は後ろで声を発したのが魅烙みらくであることを確認する。


 そして、前方にいる人々に警戒しながら、振り向くような仕草を見せた。


「綺麗……」


 彼女の口からこぼれるのは、その一単語だけだった。

 が、ここで俺はやっと自分の身体が変容していることに気づく。


 変容というよりは、何かが鎧のように俺を包んでいる。

 高純度の属性能力だ。

 覚醒したことで、能力のエネルギーが気体のようなものから個体へ変わったんだろうか。


 自分のおかれている状態がいまいち理解できず、俺は戸惑いながらもそういえば、ととある映像を思い出す。


 覚醒すると、単に自分の身体が強化されるだけではないというのは、考えれば結構教えられていたことだった。

 人によっては、属性を人工生命体にして使役出来る人もいる。

 今の俺のように鎧へと化す人だって居るし、外見敵には変容のない人だっている。


 俺は、鎧を手に入れたというわけか。


「覚醒しても、使いこなせなければ宝の持ち腐れ、その意味くらい分かっているはずだ!」


 言葉を発しながら、同時に足音が聞こえた。

 口を動かしつつ行動も出来る相手らしい、俺はそれを一瞬で理解して、後ろに一歩ステップをする。


 すると、どうだろうか。



 俺の身体が、5メートルほど後ろにスライドしたのを、感じた。

 いつもと変わらない、後ろに1歩下がっただけだと思ったのだが、同じ時間でそれだけの機動力が出てしまったのだ。


「はぁ?」


 怪訝な顔をして、彼は俺を見つめる。

 俺の行動が無駄と判断したのだろう。あのくらいの攻撃、わざわざこのような大仰な動きをせずともいいと判断したのか。


 過剰、その言葉が一番当てはまるような気もした。


 が、これは俺の意志に反して動いた距離だ。何の問題もない。


「問題があるとすれば……」


 問題があるとすれば、この動きが俺の普段の感覚と、必要以上にシンクロしていることだろうか。

 これを、この状態での通常デフォルトと考えるか、それともどうするか。


 今は、勝てばいいのだ。

 早く、澪雫みおたちを介抱してやらばければ。





「笑えない強さだな。……否、速さというべきだろうか?」


 戦場は、俺が支配していた。

 相手に行動を制限させているわけではない、覚醒した今でも、悔しいことに腕力だけで考えれば相手の方が上。


 それもそのはず、そちらでは全くと言っても良いほど強化されていない。

 強化されているのは、何をも越える機動力と、それに相乗されて上がった攻撃力である。


「魅烙、休んでて」

「うん。……了解」


 魅烙をその場で休ませたのは、俺の力を測る為でもある。

 俺と魅烙しか残っていない今の状態、俺が覚醒してしまったら最初に攻撃をするのは魅烙だろう。

 だからといって、俺の相手もしなければ後ろから背中を刺される可能性もある。


 だから、半々に分かれて攻撃をしてくる。

 俺は、機動力を生かして双方を一人でこなしてみたいのだ。


「力もあって、速度もあるっていうのはさすがに無理かな」


 勿論、今の俺はそれが可能だった。

 何せ、軽くステップすれば5メートルである。


 片方の相手をして、その猶予にもう片方もというのは造作もなかった。

 反応速度も、入ってくる情報を素早く「必要」と「不必要」に分別していけば上がっている。

 一瞬の判断力だけでなく、それに反応していける身体があるのなら「身体が頭に追いつかない」なんていう現象は起こらない。


 しかし、その代償に。

 この状態でいる間は、冷静にならなければならなかった。


 恐らく、怒りなどという感情に支配されていたのなら、俺の動きというのは隙だらけだっただろう。

 いくら動きに速度があろうとも、感情のむらで弱点というのは簡単に突けるだろうから。


「トドメ、だ」


 凶悪な武器と化した、強靱な脚でリーダーを軽く蹴り飛ばす。

 全力で蹴り飛ばしていたのなら、今頃彼は死んでいただろうから。


 軽く蹴り飛ばしたのに、敵の身体が壁に突き刺さっているのを見やりながら、俺はそう考えてしまった。

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