第100話 「カクセイの時」
魅烙が乱戦の中、男たちをかいくぐって発砲を繰り返していた。
彼女の銃は本物だ。学園の規定に反しないよう、人を殺すほどの力はないはずだが、それでも当たり所が悪かったら後遺症は残るだろうし、心臓に電気を流しまくったりいろいろやったら人は死ぬだろう。
一回ぶち込むだけだけでは絶対に死なないけれども。
「出し惜しみ、するのやめた」
俺は、力なく地面に倒れたままの澪雫を見やって、うじうじ考えるのをやめた。
どうしても、いろいろといいたいことはあったのだけれども。
出し惜しみもどうかと思ったし、どうしても何か引っかかりがとれたような感覚がしたのだ。
能力は開花しきっていないが、俺の父親は感情で力を得たのだ。
それならば、俺が今力を得たとしてもなんら問題はないだろう。
感情を高めろ。(みんな)を守るという感情と、相手への殺意を。
そして俺は、【覚醒】能力への切符を手に入れる。
「魅烙、3分だけ時間をくれないか」
「了解だよ」
俺の表情を見たのか、すぐに彼女はうなずいた。
ちなみに、零璃も刑道も、ルナナもすでに倒れていた。
いや、刑道はルナナを守ることに専念したと考えるべきか。
周りの床を思い切り変形させ、要塞を作り上げて引きこもっていた。
その要塞の堅さたるや、筋肉達磨たちが殴っても罅一つ入らないのだから、すごいものだろう。
ちなみに俺の氷の茨は、殴れば簡単に破れる。
が、その変わり腕が茨で血だらけになること不可回避であり、下手したらそのまま戦闘続行が不可能になるかもしれない。
「そういえば、覚醒というのはどんな感覚なのだろう」
そこから全く分かっていない俺は、しかし自分の炎を燃やし続けた。
灯だったそれは、1分を超えた時点で烈火に変わった。
烈火だったそれは、2分を超えると豪火へと姿を変える。
そして、時間通りに、豪火は劫火へと変わりつつあった。
殺意を抱くなら、本気で相手を殺すまでに抱け。
誰かを守りたいなら、ほかのすべてを敵に回してでも。
守り続けろ。
いつか、小さいころ。
父親が、母親に内緒で俺に授けた言葉だ。
インパクトがあまりにも強すぎて、今でも覚えている。
ずっと憧憬していた、父親の信念。
今、ここで俺も親父のようになる。
「もう、時間ないよ」
か細く、切羽詰まった魅烙の言葉が聞こえる。
あーうん。精神的にもきついだろうね。
「わかった。……」
俺は、3分たったその時に、確かな何かをつかんだ感覚がした。
今まで能力を使っていると、絶対何か引っかかりを持っていたのだが今回はそれがない。
思い通りに、自分の能力を扱える。
いや、すでに俺のものではなかったのかもしれない。
しかし、それが俺の力である。
二つの感情が、一つに混ざり合おうとしていた。
自分の頭がくるってしまう、なくなってしまうような感覚に反抗しながら、俺は呟く。
「覚……」
思いを断ち切る。
俺は俺であり、感情に飲み込まれれば俺ではなくなる。
俺は俺であり、自分の意思を貫く。
俺は俺であり、俺のしたいように行動する。
「……醒!」
その瞬間、俺は光に包まれた。




