第10話「歓迎会3」
「おいしいにゃん」
魅烙、満足げに舌鼓を打って笑う。
さっき、「む」ってフォークに刺した唐揚げを差し出されたのには流石に焦ったが、悪い気はしなかったのでこれで良しとしよう。
「うにゅ、食べてきたら眠くなったにゃぁ」
「まあ、病み上がりだし無理をすることはないと思うけど。大丈夫なのか?」
「大丈夫にゃん」
とは言っているものの、魅烙は頬が紅くなっているし、少々よっているような感じも見受けられる。
いや、この学園に行る生徒は全員未成年だから、アルコールが入っているわけはないんだろうけど。
「ようネクサス、天王子学園二日目はどうだ? なれたか?」
「なれるも何もないでしょう。王牙さん」
後ろから、涼しげでかす爽やかな声が聞こえる。
振り返ってみると、やはり王牙さんだった。
王牙さん、俺と魅烙を見て微笑む。
その目には、やはり俺と親父を重ねているんだろうか。
「さっき、理創源さん達と一緒にいたのかな?」
「……そうですね、面倒ごとになりかけたところを助けてもらいました」
理創源氷羅、それが姉の偽名だ。
「アルカディア」を「理想郷」に、そしていくつか組み替えた言葉遊びだろう。
「【理想】は自らの手で【創り上げる】もの、か。本当にネクストらしい考え方だよ」
「あ、知っていらっしゃるんですか」
まあ、そりゃあ夫婦とも両親の親友なんだから普通か。
王牙さんはうなずき、口の前に人差し指をたてる。
「知っているのは、俺たち夫婦と理事長と、学園長くらいだから気にしないで。なんで君たちの関係性が秘匿されているのかもわかってるから」
え、それ俺知らない。
俺は視線を王牙さんに投げかけたが、彼は特に気にした様子もなく魅烙を自然な動きで撫でて、そのまま去っていった。
「にゃーんの話してたの?」
「いや、ちょっとね」
「にゃん?」
俺の返答に、魅烙は少々不機嫌な顔をしたが、次の瞬間には元に戻っていた。
どうやら、会話よりも目の前にある飯の方が大事らしい。なんてこったい。
「ってあれ? 零璃ちゃ……じゃなくて零璃くんと、霧氷さんは?」
「あの二人はあの二人で楽しんでるんじゃないか?」
「にゃん、にゃら魅烙たちも楽しむにゃん」
まあ、零璃がピンチになるまでは俺たちは俺たちで楽しめばいいか。
特に気にしなくても、何とかなるだろう。
この学園に入ってくるくらいの実力は、あるんだから。
「うんにゃー!」
「どうした?」
いきなり大きな声を出す魅烙。
俺は、彼女が発熱の影響でおかしくなったのかと思いつつ、魅烙の額に手を当てようとしたが違うらしい。
「暴れたいにゃ!」
「……奇遇だな、俺も同じだ」
戦闘意欲満載の二人じゃないか。
最高だな、魅烙。
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「ふぅ」
ボク、零璃は地面に這い蹲って動かなくなった先輩達を見ながらため息を吐いた。
目の前には、涼しい顔で小太刀をしまっている霧氷さんの姿。
その顔も服も、髪の毛も乱れてはいない。
「おつかれー」
「お疲れさまです。……ここが天王子学園の能力者ですか。大したことは無いようですね」
本当に、強いなぁこの人。
ボクが一人倒す間に、霧氷さんは少なくとも3人倒してるからなぁ……。
刀との相性が、よすぎるんだろうね。
本当に、すごい人。
「汗、すごいですね」
「……うん」
ボクは、汗を拭いながら彼女の方を向く。
ボクの能力は、ボクの体力に見合わないほど使うから、使った後に疲労感で立ってるだけでもやっとだ。
だから、立ったまま動けな……い。
「大丈夫なんですか?」
「ありがと」
ふらっと意識が跳びかけたボクを、霧氷さんはそっと支えてくれた。
んん、この支えかたほぼ抱きついてるんだけど、大丈夫なのかな?
「……心配です」
「うーん、それなら。ネクサス君のところに運んでくれないかな?」
「はい」
いいのか。
……この人、本当に不思議な人だなぁ。
でも、ボクの性別、明らかにわかってないんだよね? キッとわかってないんだよね?
わかってたら絶対にしないよね?
……男でごめんね?
「わかってますよ」
「ふぇ!?」
「貴方が男だってくらい、わかっていますよ」
なんだって!
あれ、ボクっていつの間に知られてたんだろう。
あれれ?
「……同じ学年に、女子はいないって師範から聞き存じております」
「あ、そうなんだ……」
ということ、は。
【剣聖】さんから、かなり信用されているんだね。
「……能力者は信用できませんが。同じ境遇の零璃くんが頼る男なら、大丈夫でしょう」
それ、大丈夫、なのかな?
ネクサス君は、ボクから見ても女の子ブラックホールだよ?
ボク男だけど。
ボク男だけど、吸い込まれそうになったからね?
何度も言うけど。ボクは男だからね?
「そういえば、あのー」
「どうしたのですか?」
んん、まあいいや。
やめとこ。聞くの。
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これからは不定期更新で行きます。
でもご安心を、ちゃんと書くので!




