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8(問題)/現在


 2000年問題。Y2K問題、ミレニアム・バグとも言われたそれは、ただの杞憂に終わっていた。コンピュータなどで日付を扱う場合、例えば年号を2000年ではなく下2桁をとって『00』、1900年と誤認した場合、プログラムで誤作動を起こす危険性があるとして騒がれていた。この年は閏年でもあったため、金融機関や交通その他で多少のエラーは発生したものの、世界規模的に大きな問題になることは報告されなかったようである。

 報告されなかっただけかもしれないが。


「何してんですか赤福さん。辞書なんか開いちゃって」

 開発室の入り口からパーティションで仕切られた壁を伝って左へと進み曲がると、手前から3番目、割と整理されていた机に向かって赤福と呼ばれた若い社員は振り向いた。背後にはこちらも社員である若い男、首から提げられていたプラカードの名札には顔写真が付き、『三度みたび』と表記されていた。赤福は机の上でたちあげられているパソコンの前で書類を見ながら、真剣に考えごとをしていた最中だった。ちなみに辞書はネット辞書、パソコン画面で開いている。


「2000年に何があったっけなーとか思っちまって。ただの興味。システムバグのことをあれこれ考えてたら寄り道しちまった」

 2000年問題もプログラム・バグ。大事には至らなかったという結果を得られたのには、想定される問題に対し充分な事前対策と言及、規模が世界に及ぶため、皆が慎重になったおかげだろう。時間というものがあれば、余裕を持って対処が可能である。

「結果よければ良し。まー、デバ(デバッグ)もそんなもん」「直せば済むことなんですよね」「そゆこと」

 固まっていた体を動かして赤福は聞いていた。

「それで、そっちの会議はどうなった。ゲームのデバ(デバッガ)、見つかりそう?」


 赤福は椅子にもたれながら、左右に揺らせて返事を待った、だが聞かれた三度は顔を曇らせ、いい返事をしなかった。「それより、許可が下りない」それを受けての舌打ちだった。「チ……」

 面白くもない返事に赤福は不満をぶちかましていた。

「最強の開発ができても、上が首を縦に振らなきゃ進まねえよ、全く」

「ゲームの危険性をまた持ち出してきたよ。あれだけ最初の段階でもめたのに、またこれだ」

 不満に三度も参加しているようだった、2人して言いたい放題だった。


「新型インフルエンザの流行が収束に向かった時に、過剰になったワクチンの廃棄問題があったよな」

「それが何か?」

 赤福が言いながら、パソコンをいじくり出していた。検索して出てきた新聞記事を読み上げてみる。

「余剰となった輸入ワクチンへの支出額は廃棄分と違約金を入れても853億円だとさ。輸入解約で273億円節約できたとしても、億単位で金が動く。俺らがやろうとしてることは、病気じゃないがこれより金はかかるぜ。一体何億かかるやらだ……」


 つまらなさそうに欠伸をした。三度は何を分かりきったことかと言いたげに、赤福を見ていた。

「どんだけ金がかかって無駄になろうが、足りないよりはいい。ま、そゆことだ。結果よければ良し。しかしまー、ぶっちゃけ地球人口がもうすぐ70億人とか言われてるのを聞いて、俺、半分くらい消してもいいんじゃないかとか思うわけ。誰が地球を汚してるのと聞かれたら、人間だろう? 減ればゴミも無駄も減るんだぜ」

 赤福は笑いながら堂々と大声で言っていた。三度は「おいおい」と苦笑いで誤魔化していた。

「俺はそれを聞いて○○ムのテロを思い出した。危険だやめろ、その思想はストップ」

 赤福に手で待ったをかけていた。

「日本人の平均寿命は数年後に段と縮むぜきっと。80歳? そんな時もあったなあ、とかな。戦後生まれは体が丈夫に出来ていないんだぜ、医療がどんだけ発達しようが無駄に終わらなきゃいいがな。誰のための開発だ? 俺、この前行った内科の先生の方が病人に見えた。仕事で疲れてるんだろうけど、ありゃダメだわ……」


 そういう毒舌ぶりの赤福だったが、目はパソコン画面を通して違う所を追っているかのように見えていた。恐らく悪態が本心ではない赤福が一番言いたいことは、ひとつだけ。生きるということへの考え方だった。


「戦わなければ生き残れないよな」


 ひとり言のようで、誰かに聞いていた。三度が、代わりに返事をしていた。「うん」

「じゃあ、ゲームが世に出れるように頑張らないとな。後よろしく三度さん」

 三度の方へと振り向き、ニヤと笑ったら次は、立てた人差し指と中指のセットで敬礼、扮していた。「何とか頑張ってみますよ。もう手がけてんですから止まりたくありません」上手く乗せられていた。



「そういえば……鈴木は何処行った? 外出なんて珍し……」

 辺りを見回した赤福が、妙なことに気がついたのだった。開発室の一番奥で目立たない机、そこが鈴木という人物が座る席なのだろう、今は無人だった。本や紙は揃えられていて整い、パソコンや機器は電源もついてはいないし明らかに『留守』だった。

「……おい、まさか。『ゲーム』は!?」

 赤福が慌てて席を立つ、三度に詰め寄っていた。「し、知らね……」本当に何も知らなさそうだと赤福は瞬時に悟って机を睨みつけていた。「『ゲーム』を探せ。試験テスト用のだ。あんなバグだらけの物を勝手に持ち出したんじゃないだろうな、あの馬鹿」

 興奮している赤福に「落ち着け、そんなにまだバグが残っているのか」と聞いた。


「報告されて直してないバグが数件、ゲーム名もまだ決定してないから元のままだし、音は鳴るわ飛ぶわ、人の頭も飛ばなきゃいいけどな。それに隠れてるバグだってあるだろ、それを見つけてくれるデバッガをこれから探すんだろうが、このボケ」


 会社用の上着の袖を捲り上げ、細くストレートに切られた髪を三度梳いていた。玄関まで、怒った足で歩いて最後に声を掛けていた。


「外行ってくる。もし電話繋がったら、『ゆっくり話をしよう』って言っといて」


 赤福の眉間の皺が何だか恐ろしかった。



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