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リターン2・赤福太郎の結婚事情(笑)


 赤福と鈴木の後日談です。

 適当に読んでやって下さい。




 都心に近い賃貸マンション。エアコン、浴室乾燥機、追焚機能付給湯、システムキッチン、宅配ロッカー、フロントサービスまである35階建ての高級マンションに、赤福太郎という独身男は住んでいた。システム開発株式会社『MAGITEC』という、一応は世界を相手に市場を広げて幅をきかせてはいる大企業に、学生終業から真面目に勤めて十数年が経っていた。特別、不細工でもない彼に何故か女っ気が全くない理由を考えていったら、それは、間違いなく『性格』のせいだろうという他には……ない。


「うるせえな、このブス」


「あんたのためを思って言ってんの。早くお茶くらい出しなさい」


 テーブルの上をバンバンと音を出して叩きながら、女性は赤福太郎に言い返していた。4人掛けのゆったりしたソファに美しく伸びた脚を華麗に組みながら、優雅に寛いでいた。遠慮が全くない。ネイルの装飾が蝶とマーブル模様、化粧が今流行の色でピアスは純金、髪は先日、知り合いの高級美容室でセットしてもらったばかりのセミロングカットだった。

「明日早いんだけど。早朝5時出勤。茶ぁ飲んだら帰る訳?」

 赤福太郎は眠い目をこすりながら片方の手で頭を掻きむしっていた。毛質が細く針のようにストレートで、手で梳いても引っ掛かりを覚えなかった、毛ざわりが大変によい、非常に羨ましい体質を持ってはいるが、本人にはあまりこだわりがなく勝手に伸びろボケ、と適当に思っていた。


「まあそのつもりよ。朝早くからご苦労様ね。何、今そんなに忙しい訳。だったらすぐ帰るわよ、結婚報告に近くまで来たから寄っただけ」

 女性がふんぞり返ってそう言うと、眠気がぶっ飛んで目を丸くした赤福太郎は夜中ではあるが大声で叫んでしまった。

「けえええええっこおおおおおおおんんんん!?」

 何を言っているのかが判りにくかった。「うるさい、何時だと思ってんの」冷ややかな視線が飛んでいた。赤福太郎はうっかりと、手に持っていた茶筒を落としそうになりながら何とか持ちこたえていた。ぱかっとフタを開けて落ち着きを取り戻しつつあった。

「いや、だって姉貴。それでよく結婚できんだな、と……」


 赤福太郎は正直だった、思ったことがつい口に出てしまう。リビングからカウンターを挟みキッチンでお茶を淹れようとしている彼だが、真っ直ぐに飛んできた灰皿をかわせず命中してしまった。カーン。灰皿は陶器ではなく空の缶製だった、そのおかげで当たった衝撃だけで済んでいる。

「あんたこそ、もう30半ばのオッサン仲間入りいらっしゃあい、でしょ。仕事ばっかでほんっと外を見ないんだから。そろそろ身を固めたら、ってさっきから言ってんの。せめてデートくらいしてる? この部屋見ても、なーんて簡素な空間なんだろ、ってか、キレイすぎ。曲がっているものがひとつも見つからないっていうこの不気味さ」


 テレビ、パソコン、HDDレコーダー等の機器が置いてある部屋にはゴミや埃が窓のサッシにすら一切目に見つからず、角のシェルフの棚には1ミリも隙間やズレなく本やCD、DVD等がNo.1から番号付きで抜かさず並べられてその続きに、『絶対空間20XX』『曲げ戻せスプーンESP完全版』『あるまじき男優の礎』等と、背に書かれたファイル等が収められていた、そして。

 リビングを見ると、ハンガーに掛けられた上着やシャツはボタンやファスナーがあれば上部までしっかりと留められ傾かず、タオルは端から角に至るまで丸むことなくピンと伸ばされ干されていた、さらに。

 壁のポスターやコルクボードに貼られたメモ用紙は絶対に斜めにならず測ったかのようにマス目に整列し。

 またさらにキッチンを見ると、戸棚に仕舞われた無地の皿や小鉢やコップにもズレはなく積まれたり並べられており、コンビニで買って食べた後のフードパックは洗われて表示シールを残さず剥がされ色と形と日付順に分けられ選別されてこれもズレなく重ねられて置かれていて。


 いきなり冷蔵庫を開けてみると、あるのは『バク乳』『イカの刺身』だけだった。

 確かに、簡素な上に、曲がりどころか斜めにあるものさえ発見が難しい部屋である。


 額を押さえてかなりの我慢をしているのだろう赤福太郎を差しおいて、姉貴と呼ばれた赤福皐月さつきは腕をさすって何度も「気味が悪い、あーキショイ、神経質」と受け入れ拒否を呟いていた。

 うるさい早く茶を飲んで帰れと、赤福太郎の心境は穏やかとは程遠かった。


 赤福太郎は思い出して、考える。昔に付き合ったことのある貴重な女性たちのことを。今ではもうとっくに音信不通で、何処にいるのか生きているのかさえも見当がつかない関心もない女性たちだった。いつからだっただろう、仕事一直線になったのは。若い学生上がりの頃はもっと遊んでいた気がするのだがと、赤福太郎は皐月を見送りながら考えていた。

 皐月は最後に、「ちゃんと栄養摂りなさいよ」と世話を焼いてタクシーを呼び、帰って行った。走り出し小さくなってテールランプの波に消えていくだろうタクシーを目で追って、赤福太郎は自身のことを振り返っていた。

 ちょうど、2ヶ月程前にひと悶着があって、人の一生についてを真剣に考えていたことがあった。なら自分はどうだったんだと今この機会を得て考えるに至る。身内である姉貴が結婚か、悪くはないさ嬉しいことなんだと思うと同時に、「そういや、苗字が変わるんだろーな……」ということを思い出して息を吐いていた。外に出て少し体を冷やしたらしく、寒さを感じていた。


 赤福太郎は部屋へと戻る。迎えてくれる者は誰もおらず、皐月の言う通りに「キレイに」整理整頓され尽くしている簡素な部屋へと入って行った。火は消してはあるが、ヤカンでお湯が沸いていた。

 ふと、「キレイ」に連想したのか、かつて人に言われたことを思い出していた。


『赤福君って』

『「キレイ」だけど……優しいね』


 彼女だった時に言われたが、当時は特に言われても気にはしていなかった。


 ・・・



 朝焼けは夕日にも似て、東の地平を赤く染め、高層ビルとビルの隙間から赤と青のグラデーションが伸びてきていた。時間は早朝5時35分、日の出を眺めることはなく、赤福は会社へと急ぎ足で向かっていた。

 電車を乗り継ぎ徒歩も込め、入社したのは6時過ぎだった。「よお、いたのか鈴木。おつかれ」自分の机に鞄を置くと、先にいた社員に声を掛けていた……が。

「おはにょお~、ふくー」

 腰砕けそうな程、気の抜けた声が返ってきたのだった。一番目立たない奥の日陰の席にいて机に突っ伏していたのは鈴木カナ、トンガリ帽子は被らず普通に私服を着ていただけだった。

「何て声出してんだ。うわ、くまが出来てら。笑えるぞ一生」

「嘘ーん」

 赤福に指摘されて、慌てて鈴木はトイレへと向かっていた。鏡で顔を確認したのだろう、トイレから出てくると、『しょんぼり』を体で表し、がっくりと項垂れていた。

「せめてパンダだったら良かったのに……」

 寝ぼけていた。

「意味がわからん。それより、何処まで進んだ?」

「あとちょっとー。バグはひと通り直したよ。後は確認待ちー」

 先ほど突っ伏していた机の傍にはパソコンが1台、起動していて、書き込み掲示板が画面に表示されていた。表題に『バグ報告一覧・重要度S』と明記され、各項目ごとのチェックボックスに印が入っていた。

「そうか、もうひと息だな。徹夜ご苦労さん。これやるよ、少し手伝うか」

 言いながら赤福は、自分専用パソコンの電源を入れていた。空いた手で、来た時に机に置いていた缶コーヒー『Koboss』を取り、鈴木に渡そうとしていた。「さんきゅ、フク。ちょうど飲みたい時間頃。……ふふ」まぶたの上を2重にも3重にもさせながら、渡された缶のプルタブを上げてなかの飲料を一気に喉へと流し込んでいた。「ぷっはー」コーヒーの息が吐き出されると、もう一言を出している。「水分ー」


 目が乾いていたらしく、体がカスカスだーとまで言っていた。どうやら仕事の疲れもピークに達するらしく眠気末期症状が鈴木を襲う。「そういえば缶コーヒーを開発したのって日本だっけ、ミルク入りはUCCが最初だったよね。やるう、倒産せずに生き残ってるう……」段々と声が遠く小さくなっていった。


「ぐう」

「寝とけ、あとやるから」


 腕を組んでいた赤福は椅子から立ち上がって、残された鈴木仕事の始末に乗り出していた。「むにゃ……」

 鈴木の机でパソコン画面にカーソルを合わせてカチカチと音を出しマウスで項目をクリックしながら、横下で伏せている鈴木に「やれやれ」とも言っていた。「フク優しーねー……」消え入りそうで寝言に近く呟き鈴木は寝入っていった。「都合よくほざくんじゃねえぞ、2時間寝てろ、叩き起こす」厳しい物言いのはずが鈴木には逆効果だったようで、微かに笑いながら全く動かなくなってしまっていた。



 一般に、この会社の出勤時間は午前10時だった。ひとり残業で上司に許可をとり辺りの電気を消したなかでぽつんと、画面を睨みキーボードで字を叩いていた鈴木は、目が覚めて開けると、赤福の顎が視界に飛び込んできていた。フクが何でここにいるのー、と口に出す前に2時間前を思い出していた。

 たまたま机のパソコン画面に用事があってそのような格好となった訳だが赤福は、Windows画面の左下に小さくある時計表示に従って読み上げていた。「8時15分」早く起きろと言いたかったのだろう。

 他の社員はまだ来ていなかった。


「ん……」


 上体を起こして目をこすり、正気へと返ってきたのか、まともなことを聞いていた。

「やばい間に合わない」

 両頬っぺたを潰してアッチョンブリケと吠えている。どうでもいいアクションだったがこれでも鈴木はまともだった。寝る前と変わらないのは気のせいだろう。

「もう確認終わる。ざっと目を通しとけ」

 冷ややかとも言うべき赤福の顔は仕事しか考えてはいないそのものだった、鈴木はポカン、として寝ぼけの続きのような顔をしていた。

「頼りになるー」

「早くしろっての」

 大げさに『尊敬』の眼差しで見つめた後は、言われた通りにしていった。


 仕事を終えた後に、2人は今の内にと会社をいったん出て行った。まだ朝の9時前、他の社員が入社してくるまでには時間があった。なので、今の内に朝飯でも食べておこうと赤福が言い出して鈴木は「ほーい」と承諾していた。

 鈴木のお腹がぐう、と鳴っていた。「分かりやすい奴だな」赤福は歩道を歩きながら、「おい。フラフラすんな」や「危なかしいっての、端に寄れ」や「自転車が来てるぞ……っておおい、避けろっての!」と世話を焼きっぱなしだった。飲食店が並ぶ大通りに行き着くまでに、赤福は鈴木を誘導しながら目が放せないで苦労している。鈴木は徹夜がたたってか体を重く感じているようで反応が鈍かった、放置すると大変に危険だろう。


「牛丼でいいか」「みそ汁飲みたい」「じゃあ決まり」

 歩きながら凸凹コンビの2人が大手牛丼チェーン店『すきやん』をすぐ見つけるが、表の札に『まだ準備中』と書かれていて入ることが出来なかった、時計で確認すると朝の9時過ぎ、開店している所を探す手間や入社しなければならない時間を考えると、そうのんびりともいかないようである。


「あ、あそこいい感じじゃない、フク」


 鈴木が指をさして示していた方向の先には、赤煉瓦造りの古ぼけた洋装で喫茶店が一軒あった。一見するとレトロな雰囲気で昔ながらの喫茶店といった感じで、ショウケースとその前には植木や手づくりの木工品などがあった。

 立てかけられていた黒のメニューボードを見ると、『オムライス』『カレーライス』『ウインナコーヒー』と手書きで書かれていた。

「オムライス食べたい」「みそ汁はないぞここ、たぶん」

「卵ー」

 どうやら鈴木のお腹は卵を歓迎するのに切り替えたようでいて、頻繁に「卵、卵~」と繰り返していた。分かったから黙れと赤福は鈴木を抑えて、店内へと先に入って行った。カラン、ドアの上部角に添え付けてあったベルが来客を告げている。「いらっしゃい」太めの中年女性が、カウンターから窺うような格好で覗いていた。


「何にする」「オムライス!」

「じゃあ俺もそれで」

 カウンターの傍の4人掛けテーブルについた2人は、メニューも見ずに先ほどの店員を呼び、オムライスを注文しようとしていた。すると受け付けてアイボリーのエプロンを着た中年らしきふっくらとした女性店員は、水の入ったコップと受けに入れた白のおしぼりタオルをテーブルに置いて、「ハードとマイルドが出来ますよ、お好みはどちらで?」と愛想よく聞いてきた。

「まいるど!」

「俺はハードで」「かしこまりました」

 聞きつけると店員は速やかに去り、赤福は店内を落ち着いて見回していた。卓上にはおみくじ付きピーナツ販売機やシュガーポット、レジの横には店主が運営する特殊簡易公衆電話だったピンク電話や新聞、週刊誌があり、何処からかエルビス・プレスリーの曲が聞こえてきている。

「そういえば日本の小泉元首相はプレスリーと誕生日が同じらしいな」

「へーそうなんだ。変わり者同士」

「というより、時の人」「あはははは」

 おしぼりで手を拭き、水を飲みながら2人は斜め向かい合わせで、たわいない会話をしていた。水を飲みながら赤福は、「レモンが入ってるな、ここの店ちゃんと目が行き届いている」と香りながら細かく店を評価していた。2人の他には数人で、カウンターや座席にちらほらと客がいるだけだった。


 数分経って運ばれてきた盛り付け皿に、鈴木がまず絶賛していた。「にゃー、トロトロ~」頬っぺたを潰して見たままを叫んでいた。オムライスのマイルドを注文した鈴木のそれは、半熟卵にソースがかかった手づくり感とクリーミーさ全開のトロトロ系だったのである。女性客には堪らないだろう、腹ぺこの鈴木には直球ストライクだった。「うにゃああああ~」猫なで声は加速して「やかましい」と赤福に怒られていた。

 一方、赤福の前には、ケチャップのチキンライスが薄い玉子焼きに包まれているオールドスタイルなオムライスが運ばれてきていた。絶対に期待を裏切らない完璧さがハードだと赤福は内心で褒め称えていた。メニュー欄には、ハードは『ハードボイルド』と表記されている。元は「堅ゆで卵」という意味らしい。

「いっただっきまーす」

 もはや何も言わず赤福は先にオムライスに手をつけていた。


「鈴木」

「ん? なあに」

 トロけている白身をスプーンですくいながら、鈴木は幸せそうに顔を上げていた。

「会社に戻ったら、上に報告するけど……」

 ためらいがあるのか、赤福は口ごもっていた。「うん。いいよもう、直せるとこは直したし、確認もフクがしてくれたしさ」信頼し切った顔でいた。


 鈴木が発案し、幻と消えた『失敗修正マイライン[FCML―X](仮)』は名前とシステムを大幅に変更されて、従来のゲームへと市場に展開されることが決定している。そのためそのソフトは、鈴木たちによって当初予定していたものとは全く違うものにつくり変えられていた。デバッグはされ、最終的なチェックはまだこれからだが、商用として提出される手はずになっていた。

「フクってば。気にしてるの?」

 鈴木の明るい顔が、少し曇りかけていた。赤福はすまなさそうに、オムライスを小分けしていた手を止めて、沈みかけた顔で俯いて、ぽつりとこぼしていた。「ごめん鈴木、力が及ばなくて」上部層とのかけ合いは、赤福たちチームの神経をすり減らすものだった。何度かこれまでに話し合いは続いていたが、技術より『ゲームによる人体への影響』という観念において絶対的に許可が下りることはなく、断念せざるを得なかったという。


 こみ上げてきた感情は、赤福を饒舌にさせていた。「何が『新たなる開発をめざす』だ……」そしてもう一度鈴木に詫びていた。


「ごめんな……」


 足りなかったように、もう一度吐いている。


「ごめん……」



 食べかけのオムライスは、こうしている間にも冷めていくのだろう。鈴木は、それを許さなかった。

「ボクは別にオムライスが従来じゃなくたっていいんだよ。美味しいんだからさ」

 どう話が脱線するのか、また話は何処へと向かって行こうとしているのか。一方的な鈴木は卵をつつきながら、一口をすくって口に入れて言った。

「卵は卵で、御飯を包んでさ。姿かたちが変わっても、オムライスはオムライス。これを最初に発案して調理した人がいた時代の人の、オムライスはオムライス。変わらないよ」

「じゃあ米が麺に、鶏卵がダチョウの卵にでもなったらどうすんだよ」

「うーん。そりゃ別の名前をつけたらいいんじゃない。オムそばってあるじゃん。そんな風に、その時代の人が適当に名付けになったらいいじゃない」

 鈴木は、最後のひと口を放り込んで手を合わせていた。ごっちー、と歯を見せながらお腹一杯と嬉しそうに言っていた。そして脇にあったメニューを眺めて、デザート一覧を覗いていた。

「お前はそれでいいのか、鈴木。その内に誰かが、俺たちと似たようなことをしようとして発表しても」

「いいってばさ。ゲームから戻って来れなくなったら困るもんね。そこ解決できたらいいよね。ボクたちには無理だった、なら仕方ないや。また違う方法を考えよう、限りなく本質や本物に近い体感リアリティゲーム、限界まで行きたいな……」

 鈴木の見た夢は、絶望ではない。とても希望に満ちていた。


「お前は、気楽でいいよな」

 赤福も食べ終えると、鈴木が手に持って見ていたデザートのメニューに目を配っていた。

「フクが固すぎるんだよ。溶けちゃえばいいのにさ、卵みたいに。考えなくても困らないことに何で時間をかけるのさ。考えなきゃいけないことって他に色々とあるでしょ。次のデザートどうしようかなあ」

 鈴木は、大きく『当店おススメ』と書かれた季節フルーツ日替わりパフェに目が奪われていた。

「でもさ。フクのそんな細かい所が、安心しちゃうんだよね」

 目はメニューを追っていて、鈴木は忙しいらしかった。

「今朝だって、タイムカード打ってないじゃない、ただ働きしに来ちゃってさ。心配しなくても大丈夫だよ……全く、フクってば、……優しーね」

 鈴木は、店員を呼んで追加注文をしていた。


 赤福は思い出していた。数ヶ月前だったか、鈴木が起こした騒動についての後片付けを。身勝手な行動に出た鈴木に、赤福は責任というものの重さを苛立ちに変えて責めたかった。しかし鈴木は無茶にも思えて、解決法を考えてはいた。それがゲーム最後のバージョンアップでプログラムを書き換えた、もしくはデータを追加した、案内人による強制終了だったのである。しかもデバッグ給料分とゲームの返金と言って、お金を置いてきたという。

「案外、案内人のこれで再帰は実現できるかもしれないよ?」「無茶すんなっての。実験するなら自分で試せ」「事故ったら助けに来てね、フク」


 赤福に微笑が浮かんでいた。頼んだデザートを待っている間は楽しそうで、そんな鈴木を見て救われているのだろうか、余裕というものが、赤福のなかに生まれていた。


 しかし腕時計を見ると、文字盤の針は時刻を『9時49分』と示している。

「……やばい、鈴木。デザートは諦めろ」

 低い声で宣告は、鈴木に大打撃を与えていた。「にゃあ!?」猫、発声は再びに響き渡っていた。

「時間がない。もう行かないと……すみません、お勘定」

 手を上げて、赤福は注文の強制終了キャンセルを申し入れていた。「しょんなぁああ~」デザート代込みで赤福が会計を済まそうと、レジへと先に向かって行った。後ろで鈴木が泣いている、赤福は振り返らなかった。



 会社までの道のりで、急ぎながらも、赤福は鈴木に奇妙なことを言っていた。隣で息を弾ませ赤福の早足に追いつこうとしている鈴木の耳に、一応は届いていた。

「……候補にあげとくわ」

「え? 何なに?」

「真っ直ぐ早く歩け」


 前向きな2人に、明るい未来を信じている。


《リターン2/END》



挿絵(By みてみん)



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