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13(再起動)/現在


 泉と魔女っ子、2人を乗せていた電車は対向してくる電車との待ち合わせで長らくの停車をしていた。終点にも泉が降りる駅までにも、まだ遠い。

「は……」

 泉は目覚めた。汗を大量にかいたせいで、黒い服の生地が肌にべっとりと付き放さず気持ちが悪かった。乱れた呼吸が暫く続き、心臓が落ち着かなかった。「大丈夫?」声が降りかかる。

「一体何が……」

 ぜーぜー、と、胃か肺から座ったままの全身から、肩を揺らして調子を整えていた。泉は今現在の起こった事態がよく理解できていなかった、向かいに座っている魔女っ子に問うしかない。「何が起こったんですか」停車している駅名を横目で窓から確認しつつ冷静さを取り戻していた。


「ええと、たん……いえ、タイムアウト」


くうを見た魔女っ子は、そう告げていた。

「タイム……あうと?」

 どういうことだと、泉は納得がいかないでいた。

「もうすぐ降りるでしょ……だから。こっちで強制終了させたの」

 体を起こして上体を反らせた魔女っ子は「ふう」と息を吐いて休んでいる様子だった。泉が目を閉じてゲームをプレイ中、魔女っ子は泉の状態に注目していたばかりではないようである。ソフトとは別に小型の本型端末機(黒仕様)をいつの間にか手に持っており、ホストコンピュータとこれでネットを通じて側面から監視していたようだった。しかし直接はゲーム内に手を下せず、開始後プレイ中は何も出来ないことがほとんどだった。それを使って終了させたのだと言いたげに泉に示していた。

「ごめんねえ。びっくりしたね。でももうお仕舞いよ☆」

 ニカッ、と歯を見せて魔女っ子は笑っていた。歯は艶々として白く、健康的である。「お願い……」

 泉に変化があった。「お願いです。聞いて下さい、もう一度」前屈みになって魔女っ子の方へと乗り出していた。「およ?」

 びっくり仰天だとオーバーアクションで口を尖らせていた。


「もう一度、ゲームのなかへ」


 懇願していた。「どうして」魔女っ子の顔が引き締まり、曇っていた。

「もう一度プレイしたいんです」「だからどうして?」「会いたい人がいるんです」「それは無理。これは『失敗を修正するゲーム』であって、会いたい人に会うゲームじゃないの。舞台はあなたが世界をつくる。即ち『失敗』がないと、その、『会いたい人』には会えないわ」


 泉は項垂れていた。まるで説教を聞いた子どものように、大人しかった。

「会える。会えるわ……だって穂摘は、私の『失敗』のせいで――」

 懺悔のようだった。目に焼き取り憑いてしまって離れてくれない光景が、泉を苦しめている。単に振り向いただけなら良かったのだ、出会えた過去の穂摘のように。その後が問題だった、泉にとって強制終了は救いだったのかもしれなかった。何故なら泉は。


(あの時に声を掛けたから。穂摘を呼んだから。だから振り向いて、渡り切れるはずの横断歩道を渡り切れなかった。赤信号だった、あの時、右折した車が突っ込んできて。そして――)

 穂摘は飛んだのだ、と。



 泉は全てを見ている。



『真っ直ぐ自滅するんだぜ』……泉は前を見ていた、そうしたらこうなった。

「会えるはずなの。『失敗』なんだから、会えるはずなの……!」

 泉の混乱を掴んだ訳ではないが、魔女っ子の持つ端末とソフト『失敗修正マイライン[FCML―X](仮)』は次の入力はまだかと待機状態だった、ぽーん、持つ端末どちらか一方で起動音がした。悲しくもそれを切欠きっかけにして泉の頬に涙がこぼれていった。「お願い……」

 過去に見た穂摘は泉に何をしようとしたのだろうか。強制終了は本当に救いだったのか、泉を過去から現在へと帰すための。ゲーム中ではない事故に遭った穂摘が重なり、泉にはここが絶対に自分がいるべき場所なのかさえ疑い存在が危うくなっていた。


 魔女っ子は……折れた。


「……分かった。でもね……」


 見るに見かねたか、魔女っ子は泉の要求を受け入れる格好をとっていた。しかし忠告、とばかりに真剣な顔は崩れる気配を見せず泉に詰め寄っている。


「守って。『さっきと同じこと』を、しないように。もししたら、このゲームは端末リセットが掛かる――現象が、起こる可能性がある」


 睨みをきかす怖い顔だった。


「……?」

 それを見た泉には、怖さが伝わってはいないようだった。青ざめた顔だが理解は出来ていなかった。

「ここへ戻る直前にしたことを、しないでと言っているの」

 穂摘に声を掛けたこと? 泉はそう解釈をしていた。もし掛けたら――。

「……行ってらっしゃい」



 魔女っ子に微笑がない。目を閉じて再び眠りのようにリラックスモードに入った泉には関心のないことだった。早く、早く会いたいのだと、座席にダラリと体をもたれかけさせて楽にして、時を待っていた。ゲームのなかへと抵抗はなく為すがままにである。すると停車していた電車はやっと、『大変お待たせ致しました、間もなく発車致します……』とのアナウンスのもと走り出す準備にかかっている。

 もう一度会わせて欲しいと。泉はまたゲームを開始した。一度体験したことを、同じことを体感しに逆戻りしている前向きだった。何かがおかしい、でも逆らえなかった。


『守って。「さっきと同じこと」を、しないように』――


 再起動を始めたゲームは正常にメニュー画面へ、そして各種設定、そしてスタートする、泉は、プログラムの波へと飲まれていっていた。


『始めはダウンロード、一方的ではあるが、泉に必要な世界情報が与えられインストールされていく。それからは情報が一括ではなく最低限容量の情報だけがリアルタイムで要求に応じストリーミングされる。ライブとオンデマンドの中間的性質を持つ言わばリクエスト方式で、全てはこのソフト1本でまかなえられるそれは、催眠術に酷似していた』


『失敗修正マイライン[FCML―X](仮)』は、あくまでも『ゲーム』だった、悪魔でも。


 泉にとっては、そう、『夢』を見ている感覚だった、印象強き深く記憶の残る脳、失敗は成功より消えずに。

 泉の前に小さな機械が置いてあるだけだった、ソフトではない。名付けのない開発中の新しい物だった。



挿絵(By みてみん)



 リターン・トゥ・マイライフ。




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