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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

仮面ランナー

 仮面ランナー2 ~元・Fランク冒険者の非モテアラサー高校教師の俺。裏ではお荷物どもの下校指導を爆速でしています~

作者: ワクさん
掲載日:2026/09/18

性懲りもなく、一話読みきりの投稿をしました。

長い……ですね。

少しでも「スッキリ」していただけたなら幸いです。



40年前、この世界は「プラスチックとデジタルの時代」が唐突に終わった。


世界各地に「ダンジョン」なる「異界」が生じたからだ。

それまでの技術や世界に「魔法」なんていかがわしい「ファンタジー」が溶け込み始めた。


それは、教育の世界も同じだった。

学校教育に「冒険者」なんてものを要請する「カリキュラム」が組まれるようになる。


とはいえ、俺はそんな「いかがわしい」ものをまともに習う気はなかった。

だから、「普通科」の学校に進学し、「ごく普通」の大学にも進んだ。


けれど、俺は「オツム」の出来が良くない。

それに、「不器用」。


そんな俺は、「就職活動」が上手くいかなかったため、しかたなく「冒険者」になった。


結局鳴かず飛ばずの「Fランク」冒険者。

身を粉にして働いた稼ぎで、なんとか「奨学金」という借金を返し、そこそこ蓄えもできた。


二十代も終わりを迎えようというかという時、俺は「我に返った」。

このまま危ない仕事をしていても、そう遠くないうちに死んじまうだろう。


だいたい、「30代」入ると、体力が著しく落ちるらしいじゃないか。

だったら、「俺」みたいなのがオッサンになったら……


そこで大学でとっていた「教員免許」を思い出す。


人に物を教えるなんて芸当、向いているなんて思っちゃいない。

けれど、持っている「資格」なんて、「運転免許」と「冒険者ライセンス」以外はこれしかないんだ。


背に腹は代えられない。

腹をくくった俺は、「教師」となった。



◇


ザワザワザワ―――――


喧騒が室内に満ちている。


俺は教室に入る。


「みなさん、席についてください」


時間前、きっかり「3分前」。

なかなかに良心的だろ?準備だってできるし、それなりに「休み時間」もとっているんだ。


「んだよ!チャイムなってないだろ」

文句を言うクソガキ。


おい、授業開始の「チャイム」鳴ってから入る教師がどこにいる?


「今、いいところなのによぉ」


って、「学校」が貸与している「タブレット」で動画観てんじゃねぇよ!

音漏れしてるじゃねぇかっ!


《 Sランククラン【反逆者の集い(リベリオン・ギャザリング)】はいつでも君たちを待っているぞ! 》


タブレットから「募集」のCMが流れてくる。


―――――コイツら、まだ活動してたのか。


「カッケェェ!」

「この『尖った』感がたまんねぇなぁ」

「トップの『剣持桜華』さんって、『Sランク』の【聖騎士(パラディン)】なんだろ?」


―――――は?アイツが【聖騎士】?なんの冗談だ?


っと、いかんいかん。

「授業」をしないと。

お仕事、お仕事……


「『桜』がつくとはいえ、コイツはえらい違いだなぁ?オイ」


そう言ってクソガキの一人が、窓際で「分厚い魔導書」を読んでいる生徒を見る。


「なぁ『桜木実篤』くぅん」


からかうその声に、「実篤」少年は反応しない。


「無視するなよぉ、『チェリー』!」


その言葉に、教室中の「クソガキ」どもが笑い声を上げた。


「おい、いいかげんにしないかっ!人をそんな呼び方をしてっ」

俺は、少しきつめに言った。


「は?何ですか先生?」

「きんもぉ~」

「僕ら、フツーにニックネームで呼んでいるだけですけど?」

「桜の木の実だから『さくらんぼ』のチェリーって呼んでるだけですぅ」


そう言ってにやにやと笑う。


「ほら、『ヅラ先』ってモテないから」

「ああ、自分のことだと思ったの?」

「痛いとこ突かれたと思った?」


そう囁き合って笑う「クソガキ」ども。


――――――ムリッ


俺のコメカミに血管が浮き出る。


つぅか、俺、別に「チェリー」じゃねぇし!


イラついているところで始業の「チャイム」が鳴る。


はぁ、やれやれ。

まともに相手するのもバカらしい。


この「不思議生物」たち、なんなの?

テメェの都合のいい「妄想」を仲間内で作り上げて誰かを攻撃するとか。


「幼稚」よりも「承認欲求」というか「捌け口」探して喜んでいるだけの「クズ」だな。



◇


俺は「授業」という名前の「クソガキのお相手」をして職員室に戻る。


あ~、疲れた。

次の「授業」の時間まで「一コマ」だけ空いている。

この貴重な時間、「雑務処理」でもしますか。


あてがわれた「デスク」に座り、PCを開く。


うっわぁ……「報告書」まだ上げてねぇ「バカ」がいやがる。


締め切りは先週の水曜日に設定していた。

ちゃんと「朝礼」で都度伝えている。


そして、今は締め切りから一週間たった「木曜」。

「コイツ」一週間何やってたんだ?


俺は席を立つ。

職員室のデスクで、隣の教員と談笑している「女性教員」へと歩み寄った。


「すんません、『キララ先生』」


俺はなるべく穏やかに声をかける。

声をかけた「女性教員」……「キララ」というキラキラネームの「雌オーク」は、俺を見てあからさまに「嫌そうな顔」をした。


「え?なんですか?」


そう言いながらも、小声で「きもぉ」とか呟いている。

「オメェに言われたかねぇ」と喉元まで出かかったが堪えた。


図体がデカく「メイク」で飾っているけれど、その「贅肉」なんとかしろよ。

「幕内力士」並みだぜ?

その「贅肉」はメイクじゃ消せないだろ?


「先週締め切りの『実習報告』。先生のクラスだけ提出がないんですけれど?」


「ええ~、そんなの知りませぇ~ん」

雌オークはワザとらしく言った。


「そうですか?でも、あそこにちゃんと書いていますよ?」

そう言って俺は、職員室のボードを示した。


職員室には「月間スケジュール」が書き込める「ボード」が用意されている。

そこにデカデカと「水曜。ダンジョン実習報告書締切日。厳守」と記されていた。

しかも、それは俺の字ではなく、「教頭」のもの。


「……でもっ!締め切りすぎてから言うのって――――」


「何度もお話ししましたが?いらっしゃらない時は『メモ』も置いていましたし」

そう言って、奴のPCのモニターに貼ってある「ポストイット」を示す。


再三にわたる「勧告」を無視したのはオマエだ。

しかも、一回や二回のことじゃねぇ。

だいいち、この「実習報告」は毎月のものだよな?

忘れる方がどうかしてるっつーの。


「さすがに、ちょっと『ない』っすね。実習の報告は『国』から『義務付け』られているんですよ?この学校の教員なら初任者研修で必ず教えられる内容です」


「う……」


この雌オークは唸った。

ハッキリ言って「不細工」。

同情の余地もない。


「とにかく、リスケしますんで、今からでも可能な限り――――」


俺が言いかけた時だった。


バンッ!


勢いよく席を立った男性教員がいる。


「葛城先生!」

肩を怒らして俺に歩み寄る。


「それは、『パワハラ』じゃないですか!?」

唾を飛ばして俺に詰め寄って来る。


「は?」

俺はこの見当違いな指摘に唖然とした。


「職員室の……みんなの前で『吊し上げる』だなんてっ!」


なんだ「コイツ」。

正義の味方かなにか気取ってんの?

俺より背の高い「ゴブリンロード」みたいな男性教諭が糾弾してくる。


ソイツの表情は「俺は絶対的に正しい」という正義に満ち満ちていた。

しかも、後ろには「正義の御旗」とてもいうべきものを背負っている感じまである。


確かに、俺より「デカい」。

俺よりも筋骨隆々で鍛えているって感じ。

【ステータス】もきっと「筋力(STR)」は上回っているだろうな。

だが、動きに無駄がある。

脇が甘い。今は感情的で挙動に「ムラ」がありすぎる。

なによりその肩を揺らす歩き方は、「体重移動」がバレバレ。

挙動の予測、「ザコモンスター」ですらできるだろう。


「周りを見てくださいっ!みんなの『顔』をっ!職員室の空気が悪くなっているっ!」


両手を広げて周囲を示した。


――――――コイツ、「バカ」なのか?


「空気」って俺は別に「毒ガス」散布してねぇ。

そんなに嫌なら、窓開けて換気でもしろや。

「雰囲気」ってんなら、そんな「主観だより」のもの、どうとでも言えるだろ?


「ああ、なんか今日は調子が悪いな」「アイツがいるせいだ」とか言うクソガキとなんら変わらない「クズの理論」。

あからさまな「難癖」。


「あのよ」

俺は思わず、「素」の声が出てしまった。

途端にその「ゴブリンロード」くんはビクリと身を震わせた。

俺より「デカく」て「強い」んだよな?

「正義の味方」の「フェミニスト」くんよ。


「私は『仕事』の話をしているんだ。『事実』として『締め切りを超過』していることを指摘しただけ。さらに、これは『義務』として、国に期限付きで報告しなければならないもの」

俺は下から見上げるようにして「正義の味方」くんを諭した。


「この学校が『国』から『運営の認可』を得るために毎月の提出を『義務付けられた』ものなんだ」

俺は、スッと距離を詰めた。


「周知の事実であり、さらに私が再三にわたる通達をした証拠まである。それを指摘したまでのこと。いつ提出してくれるのか、この『ロス』をどうリカバリーするか話す前に、しゃしゃり出てこないでほしいのだが」


「でも、彼女が――――」


声に俺はチラリと「キラキラ雌オーク」先生を見る。

頬を赤らめ、キラキラした目で「ゴブリンロード」くんを見ている。


は?コイツら、もしかして「付き合ってる」?

そういうこと?「彼女」のピンチに「彼氏」が助けに入った??


なんだ、この「茶番」!?

勝手に「土俵」で「どすこい」と相撲取ってろよっ、くっだらねぇええええ!!


俺の視線を受けて、「キラキラ雌オーク」先生はワザと涙ぐむふりをする。


ぶっ殺していいかな?


「女性を泣かせるだなんてっ!セクハラだっ!弱い立場の人を苛めるだなんてっ、教育者として恥を知るべきだ!」

ゴブリンロードくんが喚く。

あのさぁ、「正論」というか、話通じないって君ら「モンスター」並みの知性なの?

それでよく「教育者」とかのたまえるな。

お国の「義務」すらまともに果たさないのに?


どうにもこうにも「イライラ」してきた。


「こっちは、『実習報告』を提出してもらえればいいだけなんですが?」

俺は呟く。


「あなたが発言を遮ったので、言い直しますけれど、期限過ぎでもリスケして『俺』のほうでフォローしますよ?でも、まったくの『丸投げ』じゃあ、済ませれませんよね?」

俺は「眼光」を強くして「ゴブリンロード」くんに迫った。


「あんたさぁホント、『都合がいい』なぁ……」

俺は、無意識に「本音」が漏れ出ていた。


「人気があって、人を『スケープゴート(生贄)』にしてもいいってんだから」


ほんの数ミリ。

ほんの数センチ。

俺は足を前に進めてしまった。


「ひぃい!?」

正義のゴブリンロードくんが引きつった声を上げた。


「オマエ、ちょっと『調子に乗りすぎ』―――――」

言いかけた時だ。


「あ~あ~、『葛城先生』?」

教頭がワザとらしく声を上げる。


「はい」

俺は教頭を振り返る。


教頭は、時計を指さした。


―――――やべ。空き時間が……


「非生産的でしょう?『若手教育』は別の方に頼んで、今は『業務』を進めてください」

バーコード禿の小男「教頭」が俺に言う。


「そうっすね」

俺は引き下がった。


しまった。少しばかり、「ムカついて」しまった。


俺が視線を切ったあと、「生徒指導」の主任(元・Bランクの【タンク】)が慌てて割り込んできた。


「ちょっ、アイツ―――――」

ゴブリンロードくんが負け犬の遠吠えをしようとした。

生徒指導主任は、咄嗟に口を押えてひっぱって行った。


(バカヤロウ!下手な口きくなっ)

(な!?たかだか「Fランク」の―――――)

(オマエは、どこまでバカなんだっ!今ので理解できなかったかっ)

なんか揉めてるなぁ……

ホント、「うるせぇ」。


俺は舌打ちして、「キラキラ雌オーク」先生を一瞥した。

その「ブス」は視線を逸らす。


俺は黙って「職員室」を後にした。



◇



ああ、胃が痛い……


俺は「ぎゅぅぅ」と痛む胃袋を押さえて「保健室」に行く。


「サァセン、『胃薬』ください」

俺は保健室のドアを開けて言う。


「はぁ?またァ?」

白衣の下にぴったりとボディラインを強調する服を着た女性が言う。


イスをくるりとこちらに向けて呆れたような顔を見せた。


セクシーな体つき。

声も「色っぽい」。

性格も姉御肌で「イイ女」。


でも、顔は「パグ」そっくり。


……うむ。これは「冷静」になれる。


「すみません、お願いします」

俺は生徒がいないことを確認して頼む。


「ほれ」

保健の教諭「マチ子」先生は、「胃薬」を渡してくれる。


これ、めっちゃ苦い「粉薬」じゃないか。


「多めの水で飲むんだよ」

そう言って、シンクを指で示す。

「コップ」が掛かっている。


「はぁい。ありがとうございまぁす」

俺はお礼を言ってコップに水を入れ、シンクで「胃薬」を口に入れる。


うげっ、やっぱり「苦い」。


ゴクゴクと喉を鳴らして水で流し込む。


「すみません。『胃薬』ください」


扉があき、「教頭」が入ってくる。


『あ……』


俺と教頭は同時に声を上げた。


そして、互いに深々とため息をついた。


「気をつけてください」

「はい。すみません」


俺たちの間では、これで事が済む。


「葛城先生は、あくまでも『元・Fランク』なんですから」


「あ~、いやぁ、それは『事実』なんですけれどねぇ」

俺は頭を掻いた。


「ギルドの『査定』がそうなだけでしょ?Sランククラン【反逆者の集い(リベリオン・ギャザリング)】の元幹部がっ!」

教頭が唾を飛ばして言う。


「ちょっ、声が大きい!」


俺とマチ子先生が教頭を抑える。


「なんで、ウチが【逃げの悟朗】を……」

教頭は頭を抱える。


「え?面接でちゃんと言ったでしょう。履歴書にも【職歴欄】に明記――――」

「そういうことじゃないんですよぅ!」


教頭は叫ぶ。


「アンタ、自分がどんなか理解できてます?人類唯一の『魔王ぶっちぎった男』なんですよ!?」


「あ~、あ~、そんなこともぉ、ありましたねぇ」


俺は記憶の片隅にある出来事を思い出した。

そんな「思い出深い話」なんかじゃない。


俺の【ステータス】は「速さ」と「持久力」はカンストしている。

ようは、「ただ」速く、延々と走れるだけの【ステータス】。


攻撃スキル【貫徹】ですら、【筋力(STR)】が並だから、魔物を倒すのもひと苦労。

そんなだから、「レベル」も上がらない。

討伐の成果も微々たるものだから、ギルドが査定する「ランク」も上がらない。

だから、俺自身は「Fランク」なんだ。


だから開き直って「救助」をメインとして働いていた。

気づいたら【逃げの悟朗】なんて二つ名がついていた。

そして、メインパーティが「魔王」と呼ばれるボスと交戦。

壊滅寸前のところで、救助要請を受けた俺が救出という名の「逃走」をしただけのこと。


「え?あ……ちょっと、ちょっと待てよぉ」

魔王がどこかの「イケメン俳優」みたいなこと言っていたけれど無視して逃げた。


これが、「俺」。【逃げの悟朗】の正体だ。


「教頭」は痛む胃を抑え、前かがみになる。


悪いことしたなぁ……


「すんません。気をつけます」

俺は素直に謝ることにした。


頭を下げる俺に、教頭は手を差し出して制した。

「頭を上げてください」と。


教頭はマチ子先生から「胃薬」をもらって、俺の横に並び、胃薬を口に含む。

俺は、未使用のカップに水を入れて差し出した。


「どぞ」

「うん」


教頭は受け取って「水」で「胃薬」を流し込んだ。


「にがぁぁぁい」


「バーコード」教頭は渋い顔をした。



◇



ん……なんだ、あれ。


廊下を歩く俺は、校舎裏にいる複数人の「男子生徒」を見かける。


ひとりの生徒を、複数人で囲んでいる構図。


あ~、なんだかメンドクセェことになっているなぁ。



―――――数分後。


俺は、その生徒たちのところへと歩いて行った。


「へっきしっ!」


ワザとらしく、くしゃみをする。


ソイツらはいっせいにこちらを見た。


お~お~、そろいもそろって「汚い」顔つきしてるなぁ。

弱い者イジメして「マウント」とってるだけの下品な顔だ。

こんなの、「動物」というより「モンスター」と同じ顔だぜ。


奴らは舌打ちをした。


「んで、こんなところにいるんだよ」

「空気読めよ」

「クソむかつくな」


口々に文句を言う。

いや、そっくりそのままオマエらに返すぞ、そのセリフ。


「やっちまうか?」

「やめとけ。チクられるとメンドウだ」

「言えないくらいビビらせれば?」

「Fランだろ?どうせ」


おうおう、なんだか「面白い」こと抜かしているなぁ。

俺でも「秒」殺できる「ゴブリン」以下の「クソガキ」ども。


その中で「ひとり」、舌打ちした「ガキ」がいた。


「萎えた。帰ぇるぞ」

そう言って歩き出す。


ん~?アイツも確か「D組」だよな。

いっつもムッツリ黙って、後ろからギラギラした目で周りを観察してる「ムッツリ」くん。


確かに「場慣れ」した感あるなぁ。

あの「ゴブリンロード」くんよりも、重心の使い方とかなってるし。


「ムッツリ」くんの後を追って、男子生徒たちが去っていく。


その後に残された「俺」と「男子生徒」。


「……なんですか」

地面に伏せていた男子生徒が顔を上げて言った。


「いや、別に」

そういって俺はその「男子生徒」を見下ろす。


近くに分厚い「本」が落ちている。

俺は、それを拾いあげた。


(お……おい!?マジかよ?)


拾い上げた「本」を見て俺は驚いた。

だって、これは「難解」な「魔導書」だ。

魔導師でも、「Bランク以上」の【知力】がなければ解読できない。

仮に理論を理解できても、「膨大な魔力」を発動のために消費する。


俺なんかじゃ到底手が届かない。

俺はせいぜい「概論」で広く浅い知識を身に着けた程度だ。


「これ、内容わかるのか?」


俺は思わず「素」で聞いてしまった。

男子生徒は起き上がりながら、「うん」と頷いた。


(はぁぁ?こんな「才能」、勿体なさすぎるだろっ!)

俺は驚愕と共に、拾い集めた「魔導書」をその「男子生徒」へと渡した。


「凄いな……君は」


正直な感想。

そして、わずかばかり「教師」としての体面を取り繕っての言葉。


「別に……『Fラン』に褒められてもうれしくない」

ソイツは呟いた。


可愛くねぇなぁぁぁ。

確かコイツ、「チェリー」とか言われていた「桜木実篤」だろ?


「僕は、いつか『大賢者』になるんだ。そのためには、『35歳まで純潔』という試練さえも甘んじて受け入れる――――」


な、なに言ってるんだ?

「レジェンド級」の「チェリー」になろうっていうのか?

青春を棒に振る気か?「桜木実篤」くん!?



◇



今日は何事もなく、退勤。


帰りがけ「定時で帰れるなんていいご身分」とか抜かしていた有象無象は無視。

「挨拶ないな」「キモぉ」とか上から目線の「ゴミ」も無視。


ウルセェなぁ。


他人のことなんかどうでもいいだろ?

こちとら言われた「お仕事」こなしているんだからよぉ。


んで、その「お仕事」のために、俺はやらなきゃならないことがある。



―――――数時間後。


俺は日課の「ロードワーク」を終える。

ちゃんと「重り」つきでのトレーニングだ。

装備だけじゃない。

ちゃんと「要救助者」まで想定している。


半分は「コレ」でご飯を食べてますからねぇ。


(とりあえず、その「飯」を買うか)


俺は手近なコンビニへと足を運んだ。

最近できたというコンビニ。


全国どこにでもあるから「ラインナップ」は変わらないからな。


(お、ラッキー。値引きしてるじゃん)

俺は「いつもの」ものを買い物かごに入れてレジへと持って行く。


「え?」


若い店員が声を上げた。


は?誰?


店員は小柄。

「ちょいポチャ」で「むっちり系」。

メガネをかけているし、前髪が長くて顔がよくわからない。


全体的に「地味子」だけれど、お育ちになるところはじつにご立派。


「プロファイリング」それだけなんだけれど。

興味ないなぁ。どなた様ですか?


「せ、先生……」


その「地味子」さんは慌てだした。

「あ、あのっ!これは、ナイショにお願いしますぅ……」


え?生徒なの?誰コイツ。


といううかさ、「雉も鳴かねば撃たれまい」という言葉知ってる?

変に騒いだり、リアクションしたりしなければ、「オマエら」なんか知りましぇ~ん。


「え~、ここでバイトしてるんだね」


俺は当たり障りない感じで言った。

途端に、「コイツ」は身を震わせた。


「ナイショにしてください!『許可なし』でバイトしてるって」


なんと、不憫な子なんだろう。

「正直」すぎる。

自分からベラベラと言うものじゃないよね。


まあ……その他大勢の「クソガキ」よりかは好感をもてるけれどな。


「ウチ『低所得』で。姉弟も多いし……学費とかちょっとしたお小遣いとかは自分で何とかしないと」


いや、そういう苦労話をさっ、「レジ」で言うなよ!

他にお客さんいないからいいけれどさっ。


「担任の『キララ先生』は受け付けてくれないし、私……」


またかよ。あの「雌オーク」。

どんだけ、「脳なし」なんだ?

お勉強を教えるのはお上手なんだろうけどさ。


つーか、「メンドクセェ」。


俺はコイツらの「人生」に関与していい人間じゃない。

そういうのは「有名どころ」の「カリスマ」の仕事だ。


「できること」といったら―――――――


「あのさ、店員さん?」

俺は言った。


「早くレジ打ちしてくれないかな?知り合いと勘違いしてない?俺、アンタのこと知らないんだけれど」


この「地味子」は驚いた顔をした。


「す、すみません」

謝ってから急いでレジ打ちを始める。


「あ~、高校生なんだぁ」

俺はワザとらしく呟いた。


「確かさぁ、俺の元いた高校って、『担任』じゃなくても『生徒指導の先生』とかバイトの窓口やってたなぁ。『生徒指導主任』とか。……知らんけどさ」


俺はそう言って、代金を支払う。

それから、「釣銭」を無慈悲に放り出した会計機から取り出す。


釣銭トレイから取り出した「4円」を見る。


「……」


レジのすぐそこにある「冒険者孤児」用の募金箱が目に入る。


俺は黙って「そこ」に「4円」を投じた。

そして、「地味子」から「商品」を受け取る。


「じゃあ、また明日」


そう言って俺はコンビニを出た。



◇



「た、大変だっ!」


悲鳴のようなものが聞こえる。

廊下が妙にうるさい。


職員室にいた教員は一斉に廊下へ出た。俺を除いて。


「葛城先生」

教頭が声をかけてくる。


俺は渋々席を立って廊下を見た。


ボロ雑巾みたいになった「ゴブリンロード」先生がいる。


「スタンピードだ!実習用のダンジョンで【モンスターの狂乱】が起きたんだっ」


喚きたてている。


ああ、そういえば本日「D組」さんは実習の日でしたね。

引率は「ゴブリンロード」先生と「雌オークキララ」先生でしたか。


って、なんで「生徒」と「雌オーク」先生がいないの?


「生徒たちが取り残されてっ、キララ先生は足止めにっ」


うっわぁ、最低~、コイツ。

真っ先に逃げてきたんじゃねぇか。


一応、ボロボロってことは「戦った」のか?



〈 葛城先生。葛城先生。校長室へお越しください 〉


校内放送が聞こえる。


〈 葛城先生。至急、校長室へお越しください 〉


……はぁ、「お仕事」の時間ですか。



◇



俺は、他の人間とすれ違わないように隠れながら「実習用ダンジョン」へ向かった。


今の俺は、ヘルメットにゴーグル。

酸素マスクを装備した「山岳救助隊」のような恰好。


俺は「特任教員」として雇われている。

俺の「仕事」ってのは、こうやって「帰還困難」になった生徒たちを「下校指導」することだ。


とはいえ、公にはできないから素顔を隠してこっそり活動してるというわけだ。

ん~、ボロボロになっているけれど、ほとんどが「ダンジョン外」に避難できているな。


今日登校している生徒数は「26人」。

そして、「2人」足りない。


つまりは、要救助対象者は「2人」の生徒か。


え?「雌オーク」先生?

「生徒」じゃないだろ。なら、俺の知ったこっちゃない。



◇



――――数十分後。


俺は、ダンジョンの中層に来ていた。

といっても、入り口から数階ほど下りただけの「中層入り口」だけれどな。


で、目の前では―――――

「いやぁぁぁぁぁぁ、来ないでェェェ」


「雌オーク」先生こと「キララ」先生が鼻水垂らしながら泣きわめいている。

周りには「ゴブリン」たち。


オイオイ、あの「ゴブリンロード」先生っ、まさか「ゴブリンの群れ」に襲われたのを「スタンピード」って騒いだの?

確かに油断はできないが、落ち着いて対処すれば俺でも「秒」で倒せるぞ?

コイツら相手に「ボロクソ」やられたって、「ハリボテ」なの?あの体。


ちなみに、「ゴブリン」たちは「キララ」先生に襲い掛かってなどいない。

ただ周囲で笑いながら何かを話しかけている。


「『オーク』ノ、雌。オマエ、ツカマエヨウトシテタ、ニンゲン、逃シタ。ゴメン」


ゴブリンが「キララ」先生に謝ってるっ!

スゲェ、モンスターに詫びられる人間初めて見たっ!

しかも、「本物のオーク」と間違われているし。


ああ~、「キララ」先生が「生徒たち」を襲おうとしていたとゴブリンは思ってるんだな?


んで、自分たちがいいところで邪魔して逃がしてしまった。


そんでもって、「キララオーク」先生がそのことに怒っていると勘違い。


なんなのっ!?この奇跡的な状況。


「デモ、ニンゲン、二匹ノコッテル。オス、ト、メス」


んん?ありゃぁ「桜木」くんと「地味子」さんじゃないか。


「捕マエテ、半分コ。メス、ハ、クレ。オス、アゲルカラ」


マジかっ!?ゴブリンに交渉されてるぞ。


「サァ、イッショニ、狩リシヨウ」


ゴブリンたちに促される「キララ」先生。

どうすんだ、コレ。


「う、うう……うわぁぁぁぁぁ!」

「キララ」先生は声を上げた。


おおっ、今回ばかりは生徒を庇ってゴブリンどもを倒し――――――


……ませんでした。


なんと、「キララオーク」先生、武器を持って「生徒」へと立ち向かっていった!

ヒデェ!?追い詰められた人間の「自己保身」って。


まあ、普段の言動見ていればわかるけれど。

何、トチ狂ってんだ、アイツはっ。


その行動が口火をきったのか、ゴブリンどもも一斉に「桜木」くんと「地味子」さんへ向かって行く。


「危ないっ!」

地味子さんが「魔法」を使う。


「【聖なる領域(ホーリーフィールド)】!」

魔法で「シェルター」を形成した。

へぇ、地味子さんって「プリースト」なんだ。


でも、これじゃあ、ジリ貧だな。


「あ、あなた達が悪いんだからねっ」


オイオイオイ、冗談じゃねぇ!

キララ先生よ、フリでも何でも、生徒に「剣」向けるなよっって、「シェルター」に斬りかかっているしっ!?


「先生っ、やめてください!」

地味子さんの悲痛な叫び。

でも、「キララ」先生はやめない。


……胸糞悪いな。


俺は久しぶりに「本気で腹が立った」。

得物の「十手」を腰から抜く。



「―――――大気を震わす、声よ」

「桜木」くんが詠唱を始めた。


「火と氷と風と。集いて舞え!相克の狂乱」


んん?アレは「中級の雷系魔法」じゃないか?

MP足りるの?


「……ダメだぁ、『魔力』が足りないィィ」

へこたれる桜木くん。

「理論」とか座学メッチャできるのに実技ダメなパターン?


「じゃあ、私の『魔力』を―――――」


「でも、『シェルター』解いたらっ」


「このままじゃ、どのみち共倒れだよ」


うん。揉めてる。

一発逆転を狙うか、どうするか。


まあ、「シェルター」解いたら即袋叩きに遭うよね。

前衛なしの「魔法使い」二人だけだし。


「わかった。発動前まで詠唱をするから、すぐに切り替えられる?」

おお、桜木くん、ナイスな判断。


「うん。私、やってみる」

素晴らしい!地味子さんも。


―――――でも、それは「悪手」だと思う。

桜木くんが詠唱を続ける。

そして……


「今だっ」


合図とともに地味子さんは「シェルター」を解除して「魔力供与」に切り替えた。


「―――その威を示せ!サンダーストー……」


桜木くんが詠唱を終えようとした時だ。

よりにもよって「キララ」先生が斬りかかっていった。


――――――ムリッ


俺のコメカミに「血管」が浮かび上がる。


あのぉぉぉ「クソ豚」ぁぁぁぁぁぁ!


俺は「ダッシュ」した。


そして、一足飛びで駆け抜けた。

すれ違いざまに「雌オークキララ」先生を「十手」で容赦なく張り飛ばした。


「っ!?」


その場にいた連中は、何が起きたかわからなかったろう。

「雌オークキララ」先生は白目を剥いて転がっている。


「早く、詠唱を終えろっ」


俺は叫んでいた。


我に返った「桜木」くんが詠唱を終える。


「その威を示せ!【サンダーストーム】!!!」


「中級」でも「広範囲」を攻撃でき、難度も高い攻撃魔法。


風が吹き荒れ、雷光が舞う。

ゴブリンたちは突風と落雷によってほぼ掃討された。


「――――やった」

桜木くんと地味子さんが安堵の声を上げる。


けれど、その「安心」はすぐに覆される。


奥から新手の「ゴブリン」が湧いてきたからだ。

しかも、本物の「ゴブリンロード」までいる。


「そんな……」

絶望したようなふたりの声。


うん。ここは、「おっさん」が本気出そうかね。



「エネルギーってのは速度の2乗に比例するらしいぞ」


俺は呟いた。


「へ?」

桜木くんが素っ頓狂な声を上げる。


「貧弱な一撃でも、『苔の一念』でおもっクソ叩き込めば、効くってことだ」


俺は走った。

そっからは――――――まあ、いつもの通り走り回るだけ。

そして、「弱連打」を叩き込み続ける。


ってもねぇ「ザコ」もいいところの「ゴブリン」なら、「並」の筋力でも一撃で倒せる。


しかもスキル【貫徹】で、防御「25%」無視だから、確実にダメージを通せる。


それは、「ゴブリンロード」も同じこと。

難易度は「D」クラスとはいえ、俺には関係ない。


相手の攻撃は「当たらない」。

こっちの攻撃は「必中&ダメージが通る」。


どんなに奴らの数が多くて、連携してもだ。

負ける要素がないんだ。


――――十数分後、俺はひとりで「ゴブリンの群れ」を倒した。


シュコー、シュコー


俺は「酸素マスク」の音を立てて立っていた。



「あ、アンタ……一体?」

桜木くんがへたり込んだまま尋ねてきた。


「俺か?俺は……あ~」

マスクのせいでくぐもった声で俺は答える。


「仮面……ランナー―――だ」



◇


あの後、俺は「ダンジョンの出口付近」までふたりを送った。


もう襲われる心配のないところまでだ。


そして、二人は無事に「下校」した。


俺はというと、隠れて学校に戻り、残った「雑務」に忙殺される。

先生ってのは「授業」だけが仕事じゃない。

いや、メインは「授業」なんだけれどさ。


それに付随する諸々とか、それ以外の事務的な諸々とかあるの!


で、翌日からは校内の「空気」とやらが変わった。


まずは「ゴブリンロード」先生。


「空気」云々のご高説を述べ垂れた方だな。

「ザコモンスター」にワンパンでやられた上に、「生徒を置いて逃げた」という話が広まり、非常に肩身の狭い様子。


そして、「桜木」くんと「地味子」さん。


「地味子」さん、メガネ外すと超絶美少女だった。ちょい「ムチ系」というのも、刺さる人には刺さるのだろう。

100均のピンとかで長い前髪を留め、がんばっておしゃれしている。

なんのためって?そりゃ、もちろん―――――


「あ、あのっ、桜木くん。今度、私にお勉強を―――――」

「ま、待てッ!近いっ、近づくなっ僕の『大賢者』への修行を邪魔するなっ、僕を惑わすなっ」


「地味子」さん、「桜木」くんに猛然とアプローチしている。

けれど、「大賢者」になるため「35歳まで純潔である必要がある」という都市伝説を本気で信じている「桜木」くんは逃げ回る。


これも、「青春」なのかねぇ……


あ?「雌オークキララ」先生?


「ダンジョン」から戻ってきてないぞ。


「桜木」くんと「地味子」さんが帰還後、モンスターに協力して「襲ってきた」と報告したから。「人間社会」に居場所はないだろうね。


で、時々「ダンジョン内」で目撃の話がある。


どうやら「オーク」たちに崇め奉られているらしい。

ある意味、「モテ期」なのかもな。


――――めでたし、めでたし……なのか?



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