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紗奈と安心の物語  作者: たい


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桜並木


第六十一話では、桜並木をゆっくり散策する四人を描きます。


大きな出来事はなくても、心に残る時間があります。



翌朝。


窓から差し込む朝日で、


莉奈は目を覚ました。


カーテンを開ける。


そこには桜色の景色が広がっていた。


「綺麗……」


思わず声が漏れる。


昨日見た桜も美しかった。


けれど朝の桜はまた違う表情を見せていた。


静かで、


穏やかで、


どこか優しい。


朝食を終えると、


四人は再び町へ出た。


今日の目的は桜並木の散策だった。


「今日はゆっくり歩こう」


紗奈が言う。


全員が賛成した。


急ぐ旅ではない。


景色を楽しむ旅だった。


川沿いの桜並木を歩く。


昨日より人は少ない。


その分、


ゆっくり景色を楽しめた。


風が吹く。


花びらが舞う。


桜のトンネルが続いている。


「すごいね」


美咲が見上げる。


スマートフォンを取り出そうとして、


少し考える。


そしてポケットへ戻した。


「撮らないの?」


莉奈が聞く。


「今日は目で見る」


美咲が笑った。


少し意外だった。


けれど、


その気持ちは分かる気がした。


写真も大切。


でも、


今しか見られない景色を、


自分の目で見ておきたい。


そんな気分だった。


途中のベンチで休憩する。


川のせせらぎが聞こえる。


穏やかな時間だった。


「社会人生活どう?」


紗奈が聞いた。


莉奈は少し考える。


「大変です」


即答だった。


全員が笑う。


「でも楽しいです」


莉奈は続けた。


「まだ全然できないことばかりですけど」


「最初はみんなそうだよ」


紗奈が言う。


悠斗も頷いた。


「焦らなくて大丈夫です」


その言葉が嬉しかった。


旅行へ来る前より、


少しだけ自信が持てている気がする。


仕事も。


生活も。


まだ始まったばかりだ。


それでも前へ進めている。


「莉奈、変わったね」


美咲が言った。


「そうかな?」


「うん」


美咲は笑う。


「社会人の顔になってきた」


その言葉に、


莉奈は照れくさそうに笑った。


川沿いをさらに歩く。


遠くには橋が見える。


その向こうにも桜並木が続いていた。


どこまでも春だった。


四人は並んで歩く。


特別なことは起きない。


でも、


こういう時間が好きだった。


安心できる人たちと、


安心できる時間を過ごす。


それだけで十分だった。


春の風が吹く。


桜の花びらが舞い上がる。


四人はゆっくりと歩き続けた。


この景色を忘れないように。


第六十一話のテーマは「今を楽しむ」です。


写真に残すことも大切ですが、その瞬間を味わうこともまた大切なのでした。

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