落ち込んだ日
第五十六話では、仕事で落ち込んだ莉奈と、それを支える仲間たちを描きます。
失敗は苦しいものですが、一人で抱え込まなくてもいいのです。
看護師として働き始めて二週間。
少しずつ職場には慣れてきた。
病棟の場所も覚えた。
先輩たちの名前も覚えた。
患者さんとの会話にも慣れてきた。
だからこそ、
その日の出来事は莉奈にとって大きかった。
午前中。
先輩に頼まれた仕事があった。
確認したつもりだった。
ちゃんとできていると思った。
けれど確認不足があった。
大きな問題にはならなかった。
先輩がすぐに気付いてくれたからだ。
「次から気を付けようね」
優しく言われた。
怒られたわけではない。
責められたわけでもない。
それでも莉奈は落ち込んだ。
帰り道。
足取りは重かった。
夕焼けも今日はあまり目に入らない。
部屋へ帰る。
制服を脱ぐ。
鞄を置く。
そしてそのままソファへ座り込んだ。
「はぁ……」
大きなため息が漏れる。
失敗した。
迷惑をかけた。
そんな言葉ばかりが頭の中を回る。
本当に看護師としてやっていけるのだろうか。
不安が膨らんでいく。
スマートフォンを見る。
グループチャットには新しいメッセージが届いていた。
美咲だった。
『今週どうー?』
普段ならすぐ返事をする。
でも今日は指が止まった。
すると電話が鳴った。
紗奈だった。
「もしもし?」
莉奈は少し元気のない声で出た。
『何かあった?』
その一言で、
莉奈は驚いた。
「どうして分かったんですか?」
『声かな』
紗奈は優しく笑った。
莉奈は少し迷った。
でも話してみようと思った。
今日の出来事。
落ち込んでいること。
不安なこと。
一つずつ話していく。
紗奈は最後まで黙って聞いてくれた。
『それで?』
「それで……」
莉奈は言葉を探す。
『先輩は何て言ったの?』
「次から気を付けようねって」
『怒られた?』
「いいえ」
『じゃあ大丈夫』
その言葉に莉奈は黙った。
『失敗しない新人なんていないよ』
『むしろ気付けたことの方が大事』
紗奈の声は落ち着いていた。
そこへ美咲からメッセージが届く。
『今から通話参加していい?』
思わず笑ってしまう。
少しして悠斗も加わった。
四人で話す。
仕事のこと。
失敗のこと。
最近のこと。
気が付けば一時間近く経っていた。
さっきまで重かった気持ちが、
少し軽くなっている。
「ありがとうございます」
莉奈は素直に言った。
『また明日頑張ればいいんだよ』
美咲が言う。
『今日の経験は無駄になりません』
悠斗も続けた。
『一人で抱え込まないこと』
最後に紗奈が言った。
通話が終わる。
静かな部屋に戻る。
でもさっきまでとは違った。
一人暮らしをしていても、
一人ではない。
困った時に頼れる人がいる。
それだけで安心できる。
莉奈は窓の外を見る。
夜空には星が見えていた。
明日も仕事だ。
不安が消えたわけではない。
でも少しだけ前を向ける。
そんな気がした。
第五十六話のテーマは「支えてくれる人」です。
落ち込んだ時に話を聞いてくれる人がいる。
それだけで心は少し軽くなるのでした。




