帰りの道
第三十九話では、紅葉旅行の帰り道を描きます。
楽しい旅行の終わりには、少しだけ寂しさもあります。
紅葉の遊歩道でたくさん歩いた四人は、午後になる頃には少し疲れていた。
それでも表情は明るい。
楽しい時間を過ごした証拠だった。
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「お腹すいたー!」
美咲が元気よく言う。
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「さっき食べたばかりですよ」
悠斗が苦笑する。
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「紅葉は体力使うの!」
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その理屈に全員が笑った。
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旅館へ戻る前に、小さな食事処へ立ち寄る。
窓から紅葉が見える席だった。
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「綺麗ですね」
莉奈は窓の外を見つめる。
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赤。
黄色。
オレンジ。
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今日だけで何度も見た景色なのに、
何度見ても飽きなかった。
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食事を終える頃には夕方が近付いていた。
四人は旅館へ戻り、荷物を受け取る。
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「もう帰るんだね」
莉奈が少し寂しそうに言う。
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「楽しい時間は早いからね」
紗奈が微笑んだ。
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美咲も頷く。
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「また来ればいいよ!」
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その一言にみんなが笑う。
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旅館を出る。
紅葉の並木道を歩く。
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来た時と同じ道なのに、
少しだけ違って見えた。
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思い出が増えたからかもしれない。
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バス停へ到着する。
帰りのバスを待つ人は思ったより多かった。
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「混んでるね」
莉奈が言う。
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「観光シーズンですから」
悠斗が答える。
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やがてバスがやって来た。
四人は乗り込む。
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車内はほぼ満席だった。
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窓の外には紅葉の山々が流れていく。
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しばらくすると会話も少なくなった。
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たくさん歩いた。
たくさん笑った。
たくさん思い出が増えた。
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みんな少し疲れている。
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「眠そうだね」
紗奈が莉奈に言った。
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「少しだけ……」
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莉奈は照れながら笑う。
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バスの揺れは心地よかった。
暖かな車内。
仲間たちの穏やかな空気。
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気付けば莉奈は眠っていた。
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どれくらい時間が経っただろう。
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そして――
じゅわぁっ……
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眠ったまま、
莉奈の肩から力が抜ける。
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やがてバスが停車する。
その振動で莉奈はゆっくり目を覚ました。
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「ん……」
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まだ少し寝ぼけている。
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窓の外を見る。
夕暮れの山々が流れていた。
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数秒後。
状況を理解する。
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「あ……」
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少しだけ照れたように笑った。
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「寝ちゃってました」
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「気持ちよさそうだったよ」
美咲が笑う。
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莉奈はさらに苦笑した。
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「それと……ちょっと」
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その言葉だけで三人には伝わった。
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紗奈は優しく笑う。
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「旅行だもんね」
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悠斗も頷く。
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「たくさん歩きましたから」
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誰も驚かない。
誰も責めない。
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準備はしてある。
だから大丈夫。
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莉奈は窓の外を見つめた。
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以前の自分なら、
きっと慌てていたと思う。
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不安になっていたと思う。
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でも今は違う。
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隣には紗奈がいる。
前には美咲がいる。
そして悠斗もいる。
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安心できる仲間がいる。
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そのことが何より嬉しかった。
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「楽しかったですね」
莉奈が小さく言う。
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「うん」
紗奈が頷く。
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「また行こうね」
美咲が笑う。
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「ぜひ」
悠斗も微笑んだ。
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夕暮れの空が広がる。
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旅は終わりに近付いていた。
けれど思い出は終わらない。
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今日見た景色。
今日聞いた笑い声。
今日感じた安心。
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それらはきっと、
これからも四人の中に残り続ける。
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バスはゆっくりと駅へ向かって走り続ける。
四人の思い出を乗せながら。
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安心できる場所は、
今日も変わらずそこにある。
そんなことを思いながら、
四人は帰りの道を進んでいくのだった。
第三十九話のテーマは「また会える安心」です。
別れが寂しくても、また会える仲間がいる。
それもまた、大切な安心の一つなのでした。




