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紗奈と安心の物語  作者: たい


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25/63

はじめての実感


第二十五話では、莉奈が自分で選んだ安心を初めて試してみます。


小さな経験ですが、莉奈にとっては大きな一歩です。



第二十四話の夜。


莉奈は自分の部屋にいた。


机の上には、今日ドラッグストアで買ったばかりの袋が置かれている。


自分で選んだもの。


紗奈たちに相談しながら決めたもの。


不思議な気持ちだった。



「本当に買っちゃったんだな……」


莉奈は小さく呟く。


少し緊張する。


少し恥ずかしい。


けれど興味もあった。


今日一日、紗奈たちの言葉が頭から離れなかった。



しばらく迷った後、莉奈は決心する。


「せっかくだし……試してみようかな」


誰に言うでもなく呟いた。


初めてだから少しぎこちない。


それでも慌てずに準備する。



数分後。


莉奈は鏡の前に立っていた。


変な感じがする。


今まで経験したことのない感覚だった。


思わず苦笑する。


「なんだか不思議……」


けれど嫌な気持ちはしなかった。



旅行の待合室を思い出す。


あの日の自分は不安でいっぱいだった。


どうしていいのか分からなかった。


一人だった。


何も準備がなかった。


でも今は違う。



莉奈はゆっくり息を吐いた。


肩の力を抜く。


そして――


じゅわぁっ……


静かな部屋。


聞こえるのは時計の音だけだった。



莉奈は少し驚いた。


けれど慌てなかった。


不安もなかった。


ただ不思議な感覚だった。


「……そっか」


小さく呟く。


「こういうことなんだ」



もちろん恥ずかしさはある。


まだ慣れない。


でも、あの日の待合室で感じたような強い不安はなかった。


備えがある。


そのことが思った以上に心を落ち着かせていた。



ベッドに腰掛ける。


窓の外には夕暮れの空が広がっている。


スマートフォンを見ると、四人のグループチャットに新しいメッセージが届いていた。


美咲だった。


「次のお出かけ楽しみ!」


思わず笑う。


悠斗も返信している。


紗奈もスタンプを送っていた。



莉奈は画面を見ながら思う。


少し前の自分なら、出かける前から不安ばかり考えていた。


けれど今は違う。


楽しみだと思える。


それが嬉しかった。



「まだ慣れないけど……」


莉奈は小さく笑う。


「少しだけ分かった気がする」


安心とは、不安がなくなることではない。


前を向くための準備なのかもしれない。



しばらくして、莉奈は着替える。


今日は試してみただけ。


それでも十分だった。


初めて自分で選び、


初めて自分で確かめた。


その経験は、莉奈の中に小さな自信として残った。



部屋の灯りが優しく照らしている。


莉奈は静かに窓の外を見つめた。


今日踏み出した小さな一歩。


それは誰にも気付かれないほど小さいかもしれない。


それでも確かに前へ進んだ一歩だった。


そして次のお出かけの日は、少しだけ楽しみの方が大きくなっていた。



第二十五話のテーマは「実感」です。


知ることと、経験することは違います。


莉奈は初めて、自分なりの安心を少しだけ実感することができました。


その小さな一歩は、これからの成長につながっていくのでした。

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