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紗奈と安心の物語  作者: たい


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予定外の足止め


第十七話では、山の天気の急変によって三人が足止めされます。


予定外の出来事の中で、三人は改めて「一人ではない安心」を感じます。


そして物語の終盤では、新しい出会いの予感も描かれます。



二泊三日の旅行、一日目の午後。


三人は山の展望エリアを歩いていた。


空は青く晴れている。


遠くまで続く山並み。


澄んだ空気。


都会では見られない景色だった。


「すごいね……」


美咲が思わず立ち止まる。


紗奈も同じ気持ちだった。


悠斗は景色の写真を撮っている。


三人とも自然と笑顔になっていた。



展望台へ到着する。


高台から見える景色は圧巻だった。


風が心地よい。


鳥の鳴き声も聞こえる。


しばらく三人は景色を眺めていた。


「来てよかったね」


美咲が言う。


「うん」


紗奈も頷く。


悠斗も笑顔だった。


「本当にそうですね」


穏やかな時間だった。



ところが、その後だった。


山の天気が少しずつ変わり始める。


遠くに雲が見えた。


風も強くなってくる。


「なんか曇ってきた?」


美咲が空を見上げる。


「そうですね」


悠斗も頷く。


そして数十分後。


空は灰色の雲で覆われていた。


雨が降り始める。


さらに霧も出てきた。


視界が悪くなる。


観光客たちも少しずつ移動を始めた。


その時だった。


施設のアナウンスが流れる。


「悪天候のため、シャトルバスの運行を一時見合わせます」


三人は顔を見合わせる。


予定していた帰りの移動手段だった。


「えっ」


美咲が目を丸くする。


「足止めですね」


悠斗が苦笑した。



待合室へ移動する。


外では雨が強く降り続いている。


しかし案内図を見た美咲が驚いた。


「この待合室、トイレないみたい」


「本当だ……」


紗奈も案内図を見る。


最寄りの設備は離れた場所にある。


だが悪天候のため立ち入りが制限されていた。


悠斗も苦笑する。


「これは予定外ですね」


少しだけ沈黙が流れた。


以前なら紗奈は不安でいっぱいになっていただろう。


けれど今は違う。


三人とも落ち着いていた。



時間が過ぎていく。


雨は弱まらない。


再開の案内もない。


三人は温かい飲み物を飲みながら待っていた。


しかし待ち時間は思った以上に長くなった。


会話も少しずつ減っていく。


「まだかな……」


美咲が時計を見る。


悠斗も苦笑した。


「長いですね」


紗奈も小さく頷く。


三人とも同じことを考えていた。


それでも誰も焦らない。


誰も責めない。


ただ静かに再開を待っていた。



待ち時間はさらに続いた。


雨は弱まらない。


時計だけが進んでいく。


三人とも落ち着いていた。


けれど、長時間の足止めは想像以上だった。


美咲は小さく息を吐く。


紗奈も窓の外を見る。


悠斗も静かに目を閉じた。


そして――


じゅわぁっ……


誰も何も言わない。


ただ静かに時間が流れる。


しばらくして、


じゅわぁっ……


そして、


じゅわぁっ……


三人は顔を見合わせた。


恥ずかしさはあった。


予定外の出来事だった。


けれど誰も笑わない。


誰も責めない。


美咲が小さく笑う。


「本当に長かったね」


「うん」


紗奈も頷く。


悠斗も苦笑した。


「これは仕方なかったですね」


その言葉に三人とも少しだけ肩の力が抜けた。



その時だった。


近くのベンチに座っていた若い女性が小さくうつむく。


年齢は自分たちより少し下くらいだろうか。


一人旅らしい。


長い足止め。


終わりの見えない待ち時間。


不安そうな表情を浮かべていた。


そして――


じゅわぁっ……


女性はぎゅっと目を閉じた。


恥ずかしそうに顔を伏せる。


状況は誰の目にも明らかだった。


けれど待合室の誰も笑わない。


誰も責めない。


ただ静かに見守っていた。


美咲は小さく息を吐く。


紗奈も視線を落とした。


悠斗も何も言わない。


困った時はお互い様。


そんな空気が待合室には流れていた。


しばらくして女性が顔を上げる。


その表情には恥ずかしさが残っていた。


けれど周囲の穏やかな空気に、少しだけ安心したようにも見えた。


その時、女性と紗奈の目が合う。


女性は小さく会釈した。


紗奈も会釈を返す。


それだけだった。


けれど不思議と印象に残る出会いだった。



夕方。


待合室にアナウンスが流れる。


「シャトルバスの運行を再開します」


待合室の空気が一気に明るくなった。


「やった!」


美咲が立ち上がる。


紗奈も笑顔になる。


悠斗もほっとした表情だった。


三人は列へ並ぶ。


その時だった。


先ほどの若い女性と再び目が合う。


女性は少し照れたように微笑み、小さく頭を下げた。


紗奈も微笑み返す。



バスが動き出す。


窓の外には雨上がりの山々が広がっていた。


霧の向こうには夕陽が見える。


とても綺麗だった。


紗奈は窓の外を見つめる。


予定どおりにはいかなかった。


けれど楽しかった。


それはきっと、一人ではなかったから。


安心とは何も起きないことではない。


何か起きても大丈夫だと思えること。


そう思える仲間がいること。


それが今の紗奈には何より嬉しかった。


そして――。


今日出会ったあの女性とも、またどこかで会うような気がした。


旅はまだ続く。


新しい出会いも、きっとこれから待っているのだった。



第十七話のテーマは「予定どおりじゃなくても大丈夫」です。


旅では予想外の出来事が起こります。


しかし仲間がいれば、その時間さえ思い出になります。


そして時には、思いがけない出会いが新しい物語の始まりになるのかもしれません。


次回、第十八話では、待合室で出会った18歳の莉奈との再会が待っています。

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