祝福を与えよう
今週分です!
俺が意識を取り戻して真っ先に見たのは、暗い部屋の中で神様の像?っぽいのに必死に祈りを捧げる小さな女の子の姿だった。
この子は何を必死に祈っているんだろう?
って、うぉ!? いきなり神様の像が光り始めた! な、なんだ!?
「きゃっ!?」
『心優しき少女の祈りのもとに来たが……なるほど、母親が出産中か』
「か、神様……?」
『ふむ、このままでは母親の身が少し危険だな。これから、この子が世話になるのだ。仕方ない、少しばかりの祝福を与えよう。……よし、これで母子ともに健康だろう』
よくわからないが、この声はさっきの人だな。
って、え? 神様って、マジで?
いやまあ、さっきまでのことを冷静に考えれば神様か。
さっきまでと口調が違うから、ちょっと混乱したわ。
そんなあまりにも遅すぎる発覚をよそに、少女が光り輝く像に向かって感謝を続ける。
「ありがとうございます、神様!」
『うむ。祝福の代わりにこの子を預ける。私のペットだ、面倒を見てやってくれ。名前はないゆえ、君が名付けるのだ』
神様が女の子に俺を紹介してくれる。彼女の視線がようやく俺に向いた。
ビクッと全身で驚いた後に、俺を見た小さな彼女が笑顔になって小声で「可愛い」と呟いたのが聞こえた気がする。
「は、はい! えっと……それじゃ、あなたはダーム。天使ダーム様にちなんだ名前よ」
と、そこでドタドタ足音が聞こえて、部屋に入ってくる人たち。
おそらく、この家の人かな? 「ルシア!?」って叫んでたから、たぶんこの子の父親と親戚にしては身なりが執事っぽいおじさんやメイドさんっぽい人たちもいるな。
神様はそんな人たちのことは無視して、ルシアちゃんに注意する。
『娘よ、天使に名前はない。仮に名前があったとしても、それは悪魔か堕天使に近いものだろう。気をつけることだ』
「は、はい!」
『いい返事だ、気に入った。私の加護と面白いスキルを与えよう。加護とスキルは信頼のおける者にしか見えないようにしておいた。安心するがいい』
後半の言葉は、ルシアちゃんのお父さんに向けた言葉かな?
俺と同じようにスキルが与えられたんだと思うんだけど、たぶんすごいことっぽい?
『では、さらばだ。ダーム、何かあればまたここで祈りを捧げるといい』
「お、ぉうよ」
像から光が消えていき、シンとした静寂な空気だけが残る。
てか、去り際に笑った気配があったな。俺の返事、なにかおかしかったか?
「る、ルシア。いったい何が……それに、それは……?」
「神様に祈りが通じ、お母様と赤ちゃんを助けてくれたんです。代わりに、神様のペットを預かることになりました、ダームと名付けました」
「神獣ということか!? それに加護とスキルも与えられたとか……」
「そちらは私の方では確認できません。鑑定をお願いします」
「わかった。今日はもう遅い、明日用意させよう。ルシアはお休み」
「いえ、もう少しだけ……お母様の出産を待ちます」
「あ、あのぅ……」
こんな雰囲気の中で話しかけるのは正直、かなり躊躇われたが話が進まないので勇気を出してみた。
「俺はこれからどうしたらいいでしょうか? あと、鑑定というものを俺も受けることはできますか?」
俺が不安そうにしているとルシアちゃんがトコトコと近づいてきて、「よいしょっ」と小さな掛け声とともに俺を抱き上げる。
「お父様、ダーム様のこともよろしくお願いします」
「あ、ああ。わかった、君の鑑定もしよう。というか、しゃべれるのだな?」
「はい、しゃべれます。犬なのにいったいどうやって発声してるんでしょうね? まあ、できるものはできますとしか俺には言えないですけど」
そんな会話をしていたら、遠くから泣き声が聞こえてきた。
これって、もしかしなくても赤ちゃんの産声では!?
「お父様!」
「ああっ、ルシア! 行こう!」
そこからはてんやわんやだった。
父親らしき人が号泣してるし、ルシアちゃんは気が抜けたのか寝ちゃってメイドさんに抱っこされて部屋に移動する。
俺もそれについていき、一緒の部屋で休ませてもらった。メイドさんに監視されてちょっと寝づらかったが、ちゃんと寝床を用意してもらえたのは助かった。
温かい毛布?っぽいので眠れて最高だぜ!
朝かな? まだ眠いんだけど、ものすごい近くに人の気配があって気になってしゃあない。
な、なんだろ。ちょっと目を開けるのが怖いんだけど……
「……」
薄目を開けてみたら、昨日の女の子――たしかルシアちゃんだったかな。
ウズウズしてるように見えるけど、いったいどうしたんだろ?
起き上がって声をかけるべきかな? ど、どうしよう!? さすがに女の子(しかも、幼女)の扱いなんて慣れてないぞ!?
俺が目をつぶったまま悩んでると、そーっと何かが近づいてくる気配がする。
こ、怖い! 怖いけど、今、目を開けるのも怖い!
ナデナデ……ナデナデ……
な、なーんだ! なでたかっただけか!
うんうん、そうだよね。今の俺ってば、超モフモフのシーズーなんだよ。それはモフりたいよね、なでたいよねえ!
もう一度薄目を開けてみる。
視線がバッチリとあってしまう俺……何も見てないよー、寝てるよーと目を閉じて現実逃避してみた。
「ダーム、さま? 起きてるんですか?」
うっ、声をかけられてしまった。無視するわけにはいかないので起き上がるしかないか。
首を振って身体全体を震わせる。うむ、実に犬っぽい動きだ。ふふっ、犬らしさが身についてきたか。
さて、先に訂正しておくべきことを伝えておかないとかな。
「ルシアちゃん? いや、名付け親だからご主人様なわけだし、ルシア様……がいいかな? それでですね。あの人、あの神様は偉いかもですけど、俺自体は偉くないので、俺に敬称も敬語はいらないです」
「は、はい! じゃなくて……うん、わかったわ。だ、ダーム……」
ほわあ……か、可愛い……俺のご主人様、超可愛い!
と、そんな時期もあったんですよ?
今ももちろん可愛いですけど、あの頃の初々しさのあった可愛さはまた別の可愛さがありましたね。
こう、名前を呼ぶのひとつとっても探り探りで、しゃがみこんでおねだりするように名前を呼ぶ姿なんて、もう! イッツ、ソーキュート!
すみません、慣れない英語が口からポロリと飛び出しました。
とまあ、あれから塩スライムが作った塩の取扱店に挨拶に出向いたり、生産工場かつ保管場所の確認などをノイルくんやお嬢様方と回りました。
こう、皆さん社会見学的な? ルシア様は将来的には女領主となる可能性もあるため、ノイルくんは自領のことくらいは知っておかないとまずいからね。
塩の生産はほぼカリバー家が担っているため隠すこともない。バーバラ嬢もフィーネ嬢も気兼ねなく見学していた。モノがどうやってできるかを見るのも勉強だよなー。
さて、各設備を見回ったわけだが……
俺が見た限りではどれも問題なさそうに見えた。スライムフィルムに入った状態の塩は、木箱にひとつひとつ丁寧に扱われて収められていた。
長年塩の生産に携わっていた親方たちは、今のやり方に反対することなく、「これも時代なのかもしれないな」と前世と似たような言葉を呟いていたのが印象的だ。
あとで、お茶とおせんべいを届けてもらうようにルシア様にお願いしよう。
お疲れ様でしたと労ってあげないとね……
とは言っても、彼らの仕事が失くなるわけではない。新たに「ミックス塩」を作るため、その味の研究員となっている。
スライム塩にハーブや香辛料といったものを加えて、新商品を生み出す役目を担ってもらっているのだ。
今は昆布塩とハーブ塩、スパイス塩の三部門に分かれて開発中で、売れ行きも悪くない。
親方連中は主に昆布塩で、残りの若い女性がハーブ塩に、男性がスパイス塩とバランスよく分かれて担当し、互いに切磋琢磨するように熱心に味の研究をしている。
俺も味見してみたが、前世とまったく同じとは言わないけれど、その味は洗練されていた。使い分け次第では、どんな料理にも合うと思えるほどの出来ばえだ。
さて一方で、塩の独占を企んでいた商会は、こちらの安定した品質の塩と供給に加え、低価格販売についてこれずに自滅した。
なんでも労働者を無理に働かせて、そのため品質は下がり続け、誰も買わなくなったそうだ。
文句を言って解雇されたり、無茶な労働をさせられていた従業員たちをみんな保護できたのは救いだろう。
彼らには今、塩スライムや街に放っている掃除スライムたちの面倒を見てもらっている。
掃除スライムはその名の通り、街で掃除をしているのだが、子供やよそから来た人の手によって退治されてしまうことが多発していたんだ。
イチイチ作り直すのも面倒だったから、自警団としての見回りついでに、街の美化にも取り組んでくれたまえ。ナッハッハ!
のちに、王都に送ったサンプルの塩に毒性なしと証明をもらえ、国内に安価な塩を販売して、この塩独占事件は終息したのだった。
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