泥船に乗ったつもりでいてください
更新です! お楽しみください!
ルシアお嬢様方に数字当てゲーム「ヌメロン」のルールを教えて、ノイルくんと俺は領主であり、父君でもあるクロイツ様の執務室に移動する。
「ほお、海水から塩を抽出するスライムか」
「まだ製作してはいませんが、理論的には可能だと思いますよ。どーん!と、私手製の泥船に乗ったつもりでいてください!」
「う、うむ……泥船はさすがに不安なのだが、ダーム手製と言われるとな……」
執務室のソファでクロイツ様と対面になって座る俺とノイルくん。
さすがに泥船は冗談だが、漁船くらいの気持ちでいてほしい。
実際に作るつもりでいる塩スライムの設計というか、イメージはすでにできているんだ。
まず、海水からゴミなどの不純物を塩スライムが体内でろ過する。その後、水分を取り除いて塩だけを抽出してスライムの柔らかボディで包み込む。
これで手のひらサイズの球体に入った塩の完成だ。この球体の膜は柔らかなスライムボディでできているため、指で抓めば簡単に破れるようにするつもりでいる。
そして、この作業にかかる人件費などのコストは恐ろしく低い。
せいぜい塩を保管する場所の用意とスライム一匹あたりに一人か二人つけるくらいだろうか?
スライムの維持費は、海水からの不純物を食事とさせればいいと思うし、作業速度を見てからスライムの数を考えようかな。
あまりに塩を作るペースが早いと保管にも困るだろう。
「なるほど。もうそこまで考えていたのか。こちらで用意するのは作業場と保管所だけでいいかね?」
「どうせなら、塩を積荷として載せている姿も見られないようにしたいですね」
「それはまた何故?」
「相手に情報を与えないため、ですか?」
「正解です、ノイル様!」
ノイルくんが言ったように、相手にはできる限り、この手法をしばらくの間は知らせたくない。
スライムというモンスターを使っているため、そこが漏洩すると、これが弱みに繋がる可能性がある。
最弱のモンスターだとはいえ、忌避感のある人は当然いるだろうし、安全が確認できている証明を手に入れるまでの時間稼ぎをしたい。
というわけで、安全のためにサンプルを提出して、その証明をもらおうという話となる。
「年末の間に王都にサンプルを届けて、寒冷期が明ける頃までには証明をもらい、大々的に売りに出すか。陛下に協力を要請せねばならない案件だな」
「この領地で売る分にはいいと思います。もちろん説明や販売方法に注意は必要だとは思いますが……」
「今の高すぎる塩には平民たちも困っていると聞く。こちらもすぐに動けるように手配しておこう。そうなると、信用のおける商会は……チドリ商会あたりだな」
「師匠を呼んでくれた商会ですね。真摯な対応で、相手が貴族でも方針を曲げないと聞いています」
「ああ。新興商会ではあるが、評判のよさは私の耳にも入ってくるほどだからな。事情を話せば、きっと協力してくれるだろう」
ノイルくんが言う師匠とは、彼を見てくれた武術の家庭教師のことだ。
その師匠を呼んでくれたのが、チドリ商会である。
それにしても、ノイルくんが頼もしい。
生まれたときに立ち会っているから、ここまで成長したのかという親戚のオジサン目線になってしまう。
あのときはそう、俺がこの世界に転生しようとした時だったか――
「あっ、こら! そんなもの食べちゃダメだって! ぺっしなさい、ぺっ! ああ、もうダメだ。拾い食いした魂と融合し始めてる……おーい、聞こえてるかな?」
んん? なんだ? 俺、どうなってるんだ?
「意識はあるようだね。君は今、僕のペットと融合してしまい、実体を持とうとしています。ほら、君の記憶を覗いて姿が変わるよ。おおっ、モフモフで可愛いね! 君も見てごらんよ?」
「は? なんじゃ、こりゃあ!?」
目を開くと真っ白な世界で、視線がかなり低い。そこに何者かが出してくれた鏡に映った姿に俺は驚く。
白地の毛並みに茶色がマーブル状に混ざっている。耳の先は黒い。そして、何より毛量が多く、モッフモフだ。鼻はつぶれてるようで、目はこぼれ落ちそうなくらい大きい。
って、どこからどう見てもシーズーじゃんか!? 俺、人間やめちゃった!?
あまりに驚きすぎて、自分のふっさふさの尻尾を追いかけてしまい、その場でグルグルと回ってしまう。やばい、俺マジで犬になってる!?
「うんうん。わかるよ、その混乱。僕もちょっと戸惑ってるからね。さて、実体を持ってしまったからには時間はなさそうだ。今から説明することをよーく聞いておくれ?」
うぐっ、視線が固定される。何かされたのか、この人?の説明を聞かないとまずそうだ。
仕方なく、大人しく話を聞く体勢となる。
「ふむ、よろしい。まず、君の身体は僕のペットのもので、そのペットが記憶を浄化中だった君の魂を食べてしまったために実体化を始めてしまった。浄化中だったから、中途半端にしか記憶はないはずだ。自分のこと思い出せる?」
「いえ、思い出せないっす……」
「だろうね。だけど、自分がどんな生活をしていたか。どんな文化圏でどう生活していたかはぼんやりとは思い出せるはずだよ」
あー、たしかに。俺は日本で暮らしていたような? 親戚が犬のシーズーを飼っていて可愛がっていたような気がする。その犬の名前は……なんだっけ?
「よしよし、記憶は安定したようだね。思い出せないこともあるだろうけど、何かのきっかけがあれば思い出すこともあると思うよ。おっと、もう時間がないな!」
「え? 俺、これからどうなるんですか!?」
「どこかいい場所は……よし、ここがいいね。さて、これから僕の世界で暮らすことになるから、そのための力を授けようか。君の記憶からよさそうなものを見繕っておくね。では、よき旅路を。僕のペットの身体を大事にしてくれよ?」
「ちょっと、待ってくれ! いや、待って、くだ、さ、い……」
意識が落ちていく。暗転していく視界。
次に感じたのは、絨毯らしき敷物の感触とそれなりの寒さだった。
中々ストックを増やせない、ぐぬぬ……
ルビ振ったり、セリフ部分に改行を挟んだりしましたが、読みにくかったりしないでしょうか?
ちょっとだけ不安に思ったり……では、また来週会いましょう!




