特殊な生物なのだ
いつ、どこで、誰が、何を、の修正と細かい改行などを調整(2026/1/16:夕方)
ティータイムに相応しく、晴れ渡る青空!
庭園内にテーブルを設置して、お茶会の開催だ。
今回、料理長に用意してもらったお菓子はクッキーだ。
その中でもサクサクとした食感が売りのラングドシャクッキーである。
味のバリエーションには、クッキーの間に通常のチョコクリームを挟んだものと、ホワイトチョコをクッキーの裏面にコーティングしたものを用意してもらった。
もちろん、チョコなどのこの世界にまだない材料はルシア様のスキル頼りだ。
「んんっ!? 美味しいわね、これ! レシピ教えてよ、ルシア!」
「別にいいけど、たぶんここまでのは再現できないわよ?」
「それは、ルシア様のスキルのおかげ、ということでしょうか……?」
この三人、仲いいよなー。なんというか、バランスがいい。
赤髪のサイドテールを揺らして、レシピを要求しているのがバーバラ嬢だ。
この強気なお嬢さんのもとに、ノイルくんは婿になりに行くんだなー。
でも犬は知ってる。さっき彼女をノイルくんが出迎えたとき、かなりしおらしかったことを。
つまり、ベタ惚れである!
途中で馬車が合流したことで、そのシーンを目撃してしまい、気まずいのがフィンデル子爵家の次女フィーネ嬢だ。
青髪を肩で切り揃え、大きな丸眼鏡から見える瞳は深い海の色をしている。
気弱そうな雰囲気の彼女だが、強かな一面も見せるしっかり者さんだ。
「そうねー……このクッキーだけなら、近いものはできると思うわ。ただ間に挟んでるこのチョコレートと、クッキー自体の甘さは難しいでしょうね」
「やっぱり……以前にもらったサトウキビ?の生育は順調なんですけど……見せてもらった真っ白な粉状の砂糖の大量生産は、技術的にまだ無理そうです……」
フィーネ嬢の住む領地は暖かい、いや暑いと言っていいほどの気温のため、以前サトウキビをプレゼントしてみたのだ。
だが、やはり見本として渡した砂糖の精製は難しかったらしい。
「この黒いクリームとこっちの白いのもチョコレートかしら? これもルシアのスキル産なの?」
「うん。どっちも原料は同じで、これもフィーネの領地で生育できないかお願いしようと思ってたの」
「わかりました……父を説得しようと思います。母もこの味を知れば……きっと力になってくれると思いますので……」
うーん、こっちの世界でも甘いものに対する女性の欲は強い。というよりも、砂糖の甘さが出回ってないから、この有様なんだろうな。
「ふふっ。あっちのお茶会にも出してるから、根回しはバッチリよ? 生育の参考になりそうな資料も用意しておくわね」
「さすがルシア様です。それを見て、土地の検討をつけておきますね」
これでこの子ら七歳なんだぜ?
周囲の人間、育児環境でこんなにも子供って変わるもんなんだな。
ちなみに、ノイルくんは現在五歳です。五歳でその落ち着きと貫禄は、前世ではありえないよ。もしかして、師匠のおかげなのか?
この辺りは少し気になるところだが、小さな頃から「将来は領民を背負う立場になる」という刷り込みと、「魂に刻まれた魔力的な何か」が原因なんじゃないかと俺は考えている。
実際、魔力の強い人間は貴族に多く出やすい傾向にあると、ルシア様の家庭教師が言っていた。
平民である一般庶民な魔力の強い人は、家系を辿ると、やはりどこかしらで貴族に縁があるのだという。
そういうわけで、環境の違いは俺にもわかりやすくあるけれど、そのくらいしか前世との違いはないんだ。
特に「魔力」なんて不思議なものは前世にはなかった。この疑問をすべて解決した人もいない。
だからこそ、今もなお「魔力」の研究は続けられている。
魂に刻まれた何かや、見たことはないが精霊や妖精なども人の成長に大きく関わるのではないかと思う。
「それにしても日が出ているとはいえ、こちらでも少し冷えるわね……」
「私は、これだけ厚着しても寒いです……」
「たしかに少し冷えますね……ダーム、あれをお願い」
おっ、いよいよ俺の出番か。こういうときのために作ってるものがあるんだよなー。
取り出したのは俺のスキルで作ったスライムのひとつで、ホットスライムだ。
「うわ、なにこれ。スライム? あ、ちょうどいい温かさ。いいわね、これ!」
「はわわわ……温かいです。さすがです、ダームくん」
「ふふっ。ダームはこの時期になると、いつもこれを抱いて寝てるのよ?」
うっ、いいじゃん別に……このほどよい温かさが癖になるんだよ。
俺のスキル【創造空間】で作ったこのホットスライムは、その人物の体温やその日の気温を読み取って、自動で適温まで温かくなる機能がついた特殊な生物なのだ。
生物であるため、飲食はするが雑食である。
この時期は枯れ葉や燃え切った灰の一部と煤が大量に出るため、主食はそれらとし、暖炉のお掃除係としても働く有能スライムくんなのだ。
南東の辺境カリバーは、温暖期と寒冷期のふたつの季節で安定した気候の土地で、どちらの季節も暑すぎず、寒すぎずといった具合で俺としては過ごしやすい。
今は年末に近く、寒冷期のこの季節だとホットスライムは手放せないのよなー。
俺も毎日抱き枕にして寝ている。おかげで寝床はいつでもポッカポカだ。
「ダームぅ、ウチに来ない~? 雪が見れるわよ、雪! それも真っ白でふわふわの!」
「ダームくん、このスライムで冷たいのも作れませんか?」
「ええっと、バーバラ様。雪はいいのですが、寒すぎるのはちょっと……ホットスライムが気に入ったのならお土産でいくつか作ってあげますので、それを持って行ってください。次にフィーネ様、可能ですよ。クールスライムをすでに作ってあるので、お帰りの際にお渡ししますね」
俺の言葉にバーバラ嬢はやや不満そうだが、ホットスライムがもらえるならそれでいいかと納得してもらえたようだ。
フィーネ嬢の土地はかなり暑い土地だから、それでさっきの要望なんだろうな。数は十分あるが、少し作り足しておかないといけないかもしれない。
ちなみに、この世界の気候は魔力のせいなのか、その土地それぞれでかなりバラバラだ。
カリバーと隣接しているのに、バーバラ嬢が住む領地ルーデルは常に雪が積もっているほどの寒冷地帯だし、先ほどの要望があったようにフィーネ嬢の領地カルーンはほぼ毎日熱帯夜が続くほどの酷暑な土地である。
ちょっと北と西にずれるだけで、ここまで気候に差があるのはあまりにも不思議すぎる。
魔力の有無でこんなにも世界は違うのだ。個人的な意見ではあるが、こういう事象があるからこそ、異世界はとても面白いと思っている。
「バーバラ? ダームを勧誘するなら出禁にするわよ? それとダーム、安請け合いはしないの。製作依頼は飼い主の私を通して、お父様に意見を聞かなきゃダメよ? 今回はお土産程度だからいいけど、『作れませんか?』だから、これは製作依頼と同じ意味よ」
「ご、ごめんルシア! どうか出禁だけはお許しを!」
「あわわわ、私もごめんなさいです!」
「ルシア様、申し訳ありません! もっと言動には気をつけようと思います!」
「はい、謝罪を受け入れます。今後も気をつけてね?」
さすがは我が主。ちゃんと落としどころを用意している。このダーム、感服いたします!
実際注意だけで済ませるのだから、お優しいまである。
本来の貴族のやり取りだと、かなーり面倒なことになってるからねこれ!
子供の内にこういうのを経験していくのは大事だ。
それにこれで許しあえる仲だからこそ、この三人の友情が続くんだろうな。
お嬢様の優しさにほっこりするお茶会だった。
あ、しまった! どうせならこの光景を配信すればよかった……
ホットスライム……お布団の中に湯たんぽが欲しい季節ですね……
ここからは1週間以内に1話ずつでも更新できたらいいなのペースで書こうと思います。




