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転生先は魔王の秘書だった〜魔王城が最高の職場すぎる件〜

作者: 朧月るの

誤字を指摘してくださりありがとうございました。

できるだけ修正しましたが、もしまだ直っていないところがあれば気軽に教えてください!

 俺の名前は山田悠斗(やまだゆうと)、享年二十八歳。死因は過労死。


「うわあああああああ!」


 気がつくと俺は絶叫していた。目の前には巨大な玉座に座る、角の生えた威風堂々とした男性がいる。漆黒のローブを纏い、赤い瞳が俺を見下ろしていた。


「おお、ついに来たか我が秘書よ」


 秘書?俺が?


「あの、すみません。何かの間違いじゃ——」


「間違いなどない。貴様は魔王アルザードの秘書として転生したのだ」


 魔王の名前がアルザードって、なんかカッコいいな。でも待て、俺は経理だったんだ。簿記二級持ってるけど、秘書の経験なんてないぞ。


「ところで秘書殿、今日の予定を教えてくれ」


 いきなりそんなこと言われても困る。俺は慌てて辺りを見回した。すると、玉座の横に立派な机があり、その上には分厚い予定表が置かれていた。


 ぱらぱらとめくってみると——


『午前十時:勇者一行との決戦』

『午後二時:配下の魔物たちとの会議』

『午後四時:地下迷宮の内装工事立ち会い』

『午後六時:魔王様の悠斗康診断』


 健康診断?


「魔王様、午前十時から勇者一行との決戦が予定されておりますが」


「ああ、そうだった。では準備をしよう」


 アルザードは立ち上がり、玉座の後ろから巨大な剣を取り出した。いかにも魔王らしい黒い刃の、禍々しい武器だ。


「あの、魔王様。勇者一行って、何名様でいらっしゃいますか?」


「四名だ。勇者、僧侶、魔法使い、戦士だな」


「承知いたしました。では、お茶とお菓子を四人分ご用意いたします」


「は?」


 アルザードが間の抜けた声を出した。


「いえ、お客様がいらっしゃるのでしたら、おもてなしをしないと失礼かと思いまして」


「おい、秘書よ。勇者一行は我を倒しに来るのだぞ?」


「え、そうなんですか?でも決戦って書いてありますけど、まさか本当に戦うんですか?」


 俺の常識では、「決戦」といえばせいぜい企画の提案合戦くらいのものだ。まさか本当に剣と魔法で殺し合いをするなんて思いもしなかった。


「当たり前だろう!我は魔王だぞ!」


「そ、そうでしたね。申し訳ありません」


 でも待てよ、よく考えてみたら変だ。魔王が勇者と戦うのは分かるけど、なんで予定表に書いてあるんだ?普通、戦いって予告なしに来るものじゃないのか?


「あの、魔王様。勇者の方々とは事前に約束を取られているのでしょうか?」


「当然だ。毎週火曜日の午前十時が決戦の時間だ」


「毎週って……毎週戦ってるんですか?」


「そうだ。もう三か月続けている」


 三か月?それって……


「あの、まさかとは思いますが、今まで一度も決着がついていないということでしょうか?」


 アルザードの顔が赤くなった。


「う、うるさい!戦いとは奥が深いものなのだ!簡単に決着などつくものではない!」


 要するに、毎週茶番劇を繰り返しているということか。俺は何となく状況が理解できてきた。


 午前十時ちょうどに、魔王城の扉が勢いよく開いた。


「魔王アルザード!今日こそ貴様を倒す!」


 声の主は金髪の青年だった。いかにも勇者らしい、正統派美男子である。その後ろに、白い僧侶服の女性、青いローブの魔法使い、重厚な鎧を着た戦士が続いた。


「よく来た、勇者よ」


 アルザードが立ち上がる。俺は予定表を片手に、両者の間に割って入った。


「お疲れ様です。本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます」


「え?」


 勇者一行が一斉に俺を見た。


「私、魔王様の秘書を務めさせていただいております山田と申します。以後お見知りおきを」


 俺は丁寧にお辞儀をした。社会人としての基本だ。


「秘書?魔王に秘書なんていたっけ?」僧侶の女性が首をかしげた。


「今日からです。さて、本日の決戦の件でございますが、予定では一時間となっておりますが、よろしいでしょうか?」


「一時間?」魔法使いが困惑している。


「はい。午後二時から配下の魔物たちとの会議が予定されておりまして」


 勇者が剣を構えた。


「そんなことはどうでもいい!魔王アルザード、勝負だ!」


「おお、来るがいい!」


 アルザードも剣を構える。


「あの、すみません」


 俺は再び割って入る。


「開始前に、怪我をされた場合の保険の件なんですが——」


「保険?」


「はい。先週、戦士の方が腰を痛められたとお聞きしましたので」


 戦士がばつの悪そうな顔をした。


「あ、あれは魔王の攻撃のせいじゃない。朝、靴下を履こうとしてぎっくり腰になっただけだ」


「なるほど。では労働災害ではなく私傷病扱いですね。魔王様にご負担をおかけすることはございません」


「労働災害って何だよ」勇者がツッコんだ。


 俺は当然という顔で答えた。


「お客様の安全管理は当社の責任です」


「当社って……」


「それでは、本日も怪我のないよう、楽しく戦闘していただければと思います。なお、終了時刻は十一時を予定しておりますが、延長をご希望の場合は事前にお申し付けください」


「楽しくって……」


 魔法使いが困惑している間に、俺は手早く戦闘エリアの安全確認を始めた。床に危険な障害物がないか、天井から何か落下物がないか、入念にチェックする。


「よし、安全確認完了しました。それでは、決戦を開始してください」


「お、おう……」


 アルザードも勇者も、なんだか拍子抜けした様子だった。


「魔王アルザード!覚悟しろ!」


「望むところだ、勇者よ!」


 二人が剣を交える。金属音が響く中、俺は予定表を見ながら時間を確認していた。


「あの、魔王様」


 戦闘中にもかかわらず、俺は声をかけた。


「な、何だ?」


「午前十一時から、魔物軍団の朝礼がございます」


「朝礼?」勇者の動きが止まった。「魔物に朝礼?」


「はい。毎日の予定確認と、安全唱和を行っております」


 アルザードが慌てて説明した。


「あー、それは秘書殿が勝手に始めたことで——」


「勝手にではありません」俺は毅然として答えた。「魔物たちのモチベーション向上と、職場環境の改善のために必要な措置です」


「職場環境って……」僧侶が呟いた。


 俺は胸を張って説明する。


「魔王城も一つの組織です。構成員のやる気向上は重要な課題です。それに、朝礼を始めてから魔物たちの遅刻が三割減少しました」


「魔物が遅刻って、どういう状況だよ」戦士がツッコんだ。


「例えば、勇者様方がいらした時に、持ち場にいないとか」


「ああ、確かに最近は必ず魔物がいるな」勇者が納得している。


「以前は、魔王城に侵入しても誰もいなくて、最上階まで誰とも戦わずに来てしまうことがありました。あれでは興醒めでしょう?」


「確かに……」


 勇者一行が頷く。俺は調子に乗って続けた。


「それに、魔物たちの制服も新調しました。以前のぼろぼろの服では、見栄えが悪いですから」


「制服?」


「はい。統一感のある黒いローブに変更しました。魔王様の威厳にふさわしい外見になったと思います」


 俺がそう言うと、勇者が剣を下ろした。


「なあ、なんか戦う気がなくなってきた」


「どうしてです?」俺は不思議そうに聞いた。


「だって、なんか魔王城がすごく健全な職場に見えてきて……」


「当然です。働きやすい環境作りは経営の基本ですから」


 僧侶が首を振った。


「でも魔王は悪者でしょう?世界征服を企んでいるんでしょう?」


 俺はアルザードを見上げた。


「魔王様、世界征服の計画書はどちらにございますか?」


「計画書?」


「はい。目標設定と進捗管理のために必要です」


 アルザードが慌てた。


「い、いや、そんなものは——」


「やはり。魔王様、目標なしに行動しても成果は上がりません。まずは具体的な計画を立てましょう」


 俺は予定表をめくった。


「来週の火曜日、午後三時からお時間をいただけますでしょうか?世界征服の事業計画について打ち合わせをいたしましょう」


「事業計画って……」魔法使いが呆れている。


「もちろんです。世界征服も一つの事業です。市場調査、競合分析、実行手順、予算計画、全て必要です」


 勇者が頭を抱えた。


「もう何が何だか分からない……」


 その時、遠くから太鼓の音が聞こえてきた。


「おお、朝礼の時間だ」アルザードが言った。


「申し訳ございません」俺は勇者一行に向かって深々と頭を下げた。「本日の決戦はここまでとさせていただきます」


「え?まだ一時間経ってないけど」


「はい。しかし魔物たちをお待たせするわけにはいきません。来週も同じ時間にお越しいただけますでしょうか?」


「あ、うん……」勇者が困惑しながら頷いた。


 俺は丁寧にお辞儀をして、魔王城の奥へと向かった。アルザードも慌ててついてくる。広間では、様々な魔物たちが整列していた。オーク、ゴブリン、スケルトン、スライムまでいる。全員が黒いローブを着ており、確かに統一感があった。


「皆さん、おはようございます!」


 俺が声をかけると、魔物たちが一斉に答えた。


「おはようございます!」


 声がばらばらで、スケルトンは口の動きだけ、スライムに至っては音を出しているのかどうかも不明だったが、やる気は感じられた。


「それでは、今日も安全第一で頑張りましょう。安全唱和、お願いします」


 魔物たちが声を揃えた。


「安全第一!今日も一日無事故で!」


 アルザードが俺の袖を引っ張った。


「おい、安全唱和って何だ?」


「労働安全のためです」俺は誇らしげに答えた。「魔王城は階段が多くて、スケルトンがよく転んでいたんです」


「そこで、『階段注意』『足元確認』などの標語を作りました」


 俺は壁を指差した。そこには『今日も一日、魔物らしく』『挨拶は魔王城の基本です』『整理整頓、魔物の心得』といった標語が貼られていた。


「魔物らしくって何だよ」アルザードがツッコんだ。


「魔物らしく働くということです。つまり、恐ろしく、威厳を持って、しかし安全に」


 朝礼が終わり、午後二時からの会議が始まった。長いテーブルの周りに、様々な魔物たちが座っている。皆、真面目な顔をしていた。


「それでは、定刻になりましたので会議を開始いたします」


 俺が司会進行を務めた。


「本日の議題は『地下迷宮の効率化について』です。オーク課長、報告をお願いします」


 オークが立ち上がった。体は大きいが、黒いローブを着ているとなんだか紳士的に見える。


「グルル、グルルル、グルー」


「はい。通訳いたします」俺がオーク語を日本語に変換した。「『現在の迷宮は複雑すぎて、勇者が迷子になりすぎる』とのことです」


「ゴブゴブ、ゴブリン」今度はゴブリンが発言した。


「『先月は勇者が三日も出てこなくて、僧侶さんが心配して差し入れを持ってきた』そうです」


 アルザードが苦笑いした。


「あの時は大変だったな……」


 俺は資料を取り出した。


「そこで、地下迷宮に案内板を設置することを提案いたします」


「案内板って……」


「『魔王の間まで500メートル』『宝物庫は右』『出口はこちら』といった感じです」


「それじゃあ迷宮の意味がないだろう」


「いえいえ。適度な迷いは冒険の醍醐味です。しかし、遭難レベルの迷いは問題です」


 俺は資料を取り出した。


「データを見てください。迷宮滞在時間と勇者の満足度は反比例しています」


「満足度って何を調査したんだ?」


「毎回、戦闘終了後に簡単なアンケートをお願いしているんです」


 アルザードが絶句した。


「アンケート……?」


「はい。『本日の魔王城はいかがでしたか?』『改善点があれば教えてください』といった内容です」


「で、結果は?」


「全体的に高評価です。特に『魔物の制服が統一されて見栄えが良い』『朝礼の声が元気で良い』というご意見をいただきました」


 会議は一時間で終了し、続いて午後四時からは地下迷宮の工事立ち会いだった。


 工事現場では、オークやゴブリンが土木作業をしていた。ヘルメットを被り、安全ベストを着用している。


「おお、安全装備もばっちりですね」


 俺は満足そうに頷いた。


「工事現場の安全管理は重要です。労働災害防止は会社の責任ですから」


 工事現場では、新しい部屋の建設が進んでいた。


「こちらが休憩室になります」俺が説明した。「勇者様方が疲れた時に利用できます」


「休憩室?魔王城に?」


「はい。自動販売機と椅子を設置します。長時間の冒険は疲れますから」


 その時、工事現場の奥から大きな音がした。


「おや、何の音でしょう?」


 俺たちが音のする方に向かうと、そこには巨大な穴が開いていた。


「グルルル!」オークが慌てて俺に報告してきた。


「なんと、温泉が湧き出したそうです」


「温泉?」


 アルザードと俺は穴を覗き込んだ。確かに、湯気の立つお湯が湧き出している。


「これは素晴らしい!」俺は手を叩いた。「魔王城温泉の完成です!」


「魔王城温泉って……」


「冒険で疲れた勇者様方に、温泉でゆっくりしていただくんです。最高のサービスじゃありませんか」


 俺はすでに頭の中で計画を立てていた。


「『魔王討伐の後は温泉でほっこり』というキャッチフレーズはどうでしょう?」


「もう魔王討伐が前提になってるじゃないか」


「当然です。お客様の満足度を最優先に考えなければなりません」


 午後六時、魔王様の健康診断の時間になった。


「魔王様、健康診断のお時間です」


「健康診断って、なんで俺が健康診断を受けるんだ?」


「魔王様の健康管理は重要な業務です。体調を崩されては困ります」


 診断の結果、アルザードの健康状態は良好だったが、運動不足の傾向があることが判明した。


「そこで提案があります。魔王様専用のトレーニングルームを作りましょう」


「トレーニングルーム?」


「はい。毎日一時間のトレーニングメニューを組みました」


「ちょっと待て」アルザードが慌てた。「俺は魔王だぞ?トレーニングって……」


「魔王だからこそ、体力維持は重要です。勇者との戦いで息切れしては格好がつきません」


「確かに、先週は途中で息が上がった……」


 悠斗康診断が終わると、もう午後七時を回っていた。


「魔王様、本日の予定は全て終了いたしました。お疲れ様でした」


 その時、魔王城の入り口から声が聞こえた。


「魔王アルザード、今日の決戦の時間に遅刻したぞ!」


 勇者の声だった。俺は慌てて時計を見た。


「あ、申し訳ございません。本日は会議が長引いてしまって……」


 勇者一行が玉座の間にやってきた。


「なんか、魔王城から太鼓の音とか、工事の音とか聞こえてたけど、何してるんだ?」


「業務改善です」俺が説明した。「より良いサービス提供のために」


 僧侶が首をかしげた。


「サービスって……私たち、お客さんなの?」


「もちろんです。勇者様方は大切なお客様です」


 俺は胸を張って説明した。


「魔王討伐体験、地下迷宮探索、魔物との戦闘、温泉入浴、全てセットで提供いたします」


「温泉?」魔法使いが驚いた。


「はい。工事で偶然温泉が湧き出ました。冒険の後の疲れを癒していただけます」


 勇者一行が顔を見合わせた。


「なんか、魔王討伐っていうより、温泉旅行みたいだな……」


「それです!」俺は手を叩いた。「『魔王討伐温泉ツアー』というのはどうでしょう?」


「ツアーって……」


 俺は興奮してまくし立てた。


「一泊二日のプランです。初日に魔王討伐、夜は温泉でゆっくり、翌日は魔王城見学ツアー」


「ツアーって……」


「一泊二日のプランです。初日に魔王討伐、夜は温泉でゆっくり、翌日は魔王城見学ツアー」


 アルザードが慌てた。


「見学ツアーって何を見学するんだ?」


「魔王様の私室、魔物たちの生活エリア、地下迷宮の製作現場など」


 俺は興奮してまくし立てた。


「『魔王の一日に密着』『魔物たちの素顔』『知られざる魔王城の秘密』などのコンテンツを用意します」


 勇者が頭を抱えた。


「もう魔王討伐じゃなくて、完全に観光だろ、それ」


「観光も立派な文化交流です。勇者と魔王の相互理解が深まります」


 俺はアルザードを指差した。


「実は魔王様も、普段はとても優しい方なんです。魔物たちの健康を気遣い、職場環境の改善に努め、お客様の満足度向上のために日夜努力されています」


「お客様って俺たちのことか……」戦士が呟いた。


「そうです。魔王様は、勇者の皆様に楽しんでいただくために頑張っていらっしゃるんです」


 アルザードが赤くなった。


「そ、そんなことは……」


「謙遜なさらないでください」俺は続けた。「先日も、『勇者たちが迷子にならないよう、地下迷宮に案内板を設置しよう』とおっしゃっていました」


 勇者一行が驚いた。


「なんか、魔王って思ってたより優しいのね」僧侶が微笑んだ。


「優しいですよ」俺は力説した。「魔物たちの労働環境改善、安全管理の徹底、お客様サービスの向上。全て魔王様のお考えです」


 勇者が剣を下ろした。


「なんか、戦う気がしなくなってきた……」


「どうしてです?」


「だって、こんな優しい魔王を倒すのは気が引けるよ」


 俺は慌てた。


「いえいえ、それでは困ります。魔王討伐は重要なサービスです」


「それでは、今日は時間も遅いので、温泉を試していただくのはどうでしょう?」


「温泉?」


「はい。工事で湧き出た天然温泉です。魔力を含んでいて、疲労回復効果があります」


 勇者一行が顔を見合わせた。


「まあ、せっかくだし……」


「では、こちらへどうぞ」


 俺は一行を地下の温泉に案内した。湯気の立つお湯が、岩風呂になっている。


「おお、本格的な温泉だ」戦士が感心した。


「魔物たちが頑張って整備しました」


「では、ごゆっくりどうぞ。タオルはこちらに用意してあります」


 俺は男女別の脱衣所を指差した。


「脱衣所まで……本当に温泉施設だな」魔法使いが呆れた。


 一時間後、勇者一行が温泉から上がってきた。皆、顔が赤くなっていて、気持ちよさそうだった。


「いい湯だった……」勇者がほっとした表情だった。


「ありがとうございます。魔王様がお客様のためにと」


 勇者一行がアルザードを見た。


「魔王、ありがとう」


「い、いや……」アルザードが照れている。


 僧侶が言った。


「なんか、魔王討伐に来たのに、温泉旅行みたいになっちゃった」


「それが狙いです」俺は満足そうに答えた。「戦いだけでなく、心の交流も大切です」


 勇者が立ち上がった。


「それじゃあ、今日はこの辺で帰るか」


「ありがとうございました」俺は深々とお辞儀をした。「来週もお待ちしております」


「来週も来るの?」僧侶が聞いた。


「はい。来週は新しい地下迷宮をご用意いたします。初級、中級、上級の三コースです。お好みの難易度をお選びください」


 勇者一行が目を輝かせた。


「それ、面白そう!」


「では、来週は中級コースに挑戦してみます」勇者が言った。


「承知いたしました。ご予約を承ります」


 俺は予約台帳を取り出した。


「来週火曜日、午前十時から、中級コース、四名様ですね」


「なんか本当に予約してる……」戦士が苦笑いした。


 勇者一行が帰った後、俺は今日の業務報告をまとめていた。


「魔王様、本日もお疲れ様でした」


「ああ、疲れたが……」アルザードが振り返った。「なんか充実していた」


「そうでしょう。やりがいのある仕事は疲れても気持ちがいいものです」


 俺は企画書を見せた。


「来月から『魔王城アドベンチャーパーク』として正式オープンします。入場料は大人一人一日千ゴールド、年間パスポートも販売予定です」


 アルザードがため息をついた。


「もう完全にテーマパークじゃないか」


「はい。魔王様は当パークの看板スターです」


 俺は真剣な顔で言った。


「魔王様なくして魔王城アドベンチャーパークは成り立ちません」


「看板スターか……」


 アルザードがしみじみと呟いた。


「悪くないな、それも」


「でしょう?やりがいがあります」


 こうして、俺の魔王秘書ライフが始まった。毎日忙しいが、やりがいのある日々だった。転生して良かったと心から思う。


 だって、ブラック企業の経理から、魔王城のホワイト企業秘書だぞ。給料はゴールド貨で支給されるし、残業はないし、福利厚生も充実している。


 何より、魔王様も魔物たちも、勇者の皆様も、みんな笑顔で働いている。


 これぞ理想の職場だ。転生万歳!

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!!

面白かったら☆評価してもらえると、作者が喜びの舞を踊ります。

それにしても、ホワイトな職場いいな……

今の仕事やめて魔王城に再就職しようかな?

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― 新着の感想 ―
もしかして主人公の名前を健から悠斗に置き換えました? 悠斗康診断、悠斗全といった巻き添えにされたと思われる言葉が気になって、物語にいまいち入り込めませんでした。
この魔王城に就職したいです!!! 登場人物が全員可愛くて大好きです 魔王様…特に可愛い…!(スキ…)
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