表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/15

接近遭遇(前)

地表人編 ep20・https://syosetu.com/usernoveldatamanage/top/ncode/2273746/noveldataid/24766750/ ep21・https://syosetu.com/usernoveldatamanage/top/ncode/2273746/noveldataid/24766754/ と連動パートになります

 ポイントに着いた私たちは、その時を今か今かと待っていました。



 かつて海岸段丘だったシャイヤー川が湾になったため疑似海岸段丘と呼べばいいのでしょうか、サピエンスとミアキスヒューマン達がその段丘面に排水機構を備えた舗装道路を設置したのは、渓谷のアシルから砂漠と密林に集団が移り住み始めた頃でした。

 段丘を全面を舗装し、その脇に即席の集落を構えて徐々に延伸して、最終的に湾の出口に広がる丘陵、高台に大集落を築きました。

 サピエンスが図面を出して指示を与えると、籠手のような装具を着けたウルズス系、穴掘りが上手なアナグマなどが路面を掘り下げ、砂利、礫、敷石をグリズリーが運んできて手先の器用なアライグマが敷石を綺麗に揃えて並べるといった工程を実に手際よく行っていました。幅2キュビト、長さ厚さ1キュビトもあるような敷石をまるで紙の束みたいに揃えるなんて、マナなしでは説明が付きません。この時は、掘り出した土砂と、砂利、礫の運搬にも、マナが使われていたはずです。


 この時点では私たちが至近距離で観察を行っても特に誰も気にすることなく作業に没頭していたものです。


 道が敷かれて12年経過したときに彗星ニアミスが起きました。エクウス大陸に接するバルバリ山脈からシャイヤー湾に抜けるコースを大量のダストが降り注いだのです。

 当時の集落は河岸段丘の舗装道に近い海沿いに集まっていましたから、相当な数のサピエンス、ミアキスヒューマンが隕石衝突の衝撃波や海水の蒸気爆発に巻き込まれたらしく、大幅に頭数を減らしました。災害に巻き込まれての痛ましい犠牲です。

 らしく、というのは、この彗星ニアミスを我々は直に観測できていないのです。同時期に起きた恒星フレアの影響です。恒星の磁気リコネクションから生じたプラズモイドの直撃を受けたのです。

 この惑星エデンの主恒星のサイズは、私たちの疑似恒星ヘリオスの約十倍と、比べ物にならない大きさです。そして、惑星エデンは、ヘリオスの十分の一、観測船ヴィマーナはエデンの四分の一と更に極小です。そんな小さな物に巨大恒星からのフレア直撃が吹き付けたのです。

 ダメージは深刻でした。恒星風を遮り、バン・アレン帯を生成する十六枚の巨大なパネル、ロータスの花弁が無かったらヴィマーナは完全に機能停止していたでしょう。

 恒星フレアはその後も断続的に続きました。我々は長い間観測を続けていますが、なんの前触れもなく恒星フレアが発生し、惑星エデンを直撃したのはこの一度だけでした。

 一方、予測通り彗星はヴィマーナの軌道内側の距離まで接近し、正午にシャイヤー湾上空を通過しました。

 磁気嵐が収まるまでは目視での観測しかできません。観測窓から見えるエデンは極地は勿論、低緯度までオーロラが吹き荒れ、彗星のダストによる被害状況の把握が難しい状態でした。その有様を見た仲間が何人も卒倒し、医療班がフル稼働し、ヴィマーナの船内もかなりごたつきました。

 各種センサーを再起動させ、地表のデータを取ろうにも、地表はノイズだらけで状態が全く分かりません。


 機器の復旧にはヴィナーマのエデン半公転まで時間がかかりました。


 どうにかセンサー機器が復旧し、地表の様子がモニターに映し出された瞬間、ヴィマーナのブリッジの空気は嗚咽と啜り泣きと慟哭に満ち溢れました。

 綺麗なV字が美しい景勝だったシャイヤー湾は、両岸が大小クレーターに抉られ、見るも無残な様相を呈していました。海岸沿いの集落もほとんどが爆風、衝撃波で吹き飛び蒸発し、跡形もなくなっていました。


 居住区イムドゥグドのセレブロも「元の環境に戻るまで最低1000~5000年かかる」と算出しました。万年がつかなかっただけマシです。

 それに、惑星エデンはハフリンガー大陸だけが観察対象ではないのです。エクウス大陸の鳥竜や、海洋生物、極地の観測、気象観測、植生調査、沢山あります。

 彗星の直撃で大陸全体が原型をとどめない状態にまで破壊されたわけではないです。そう気力を起こしてわたしたちは観測の継続に入りました。


 そして私たちは見たのです。

 わずか20年で地表を低木、下草が覆い、灌木が、50年で樹木が枝を伸ばし、花をつけ実を結び、虫が飛び虫を餌とする小動物が這い、それらを捕食する純ミアキスが生息域を拡げ、彗星の甚大な塵芥で被害を受けたハフリンガー大陸の自然が100年足らずで再生したのです。

 信じられない光景でした。この惑星エデンは、本当に驚きに満ちた星です。



 観察対象の一行が観察ポイントに到着したようです。

 このクレーターの縁にかかって綺麗に削れてしまっている舗装道を、どう渡るのでしょうか。


 ヴルペスのギンギツネが掌に乗せている、内側からボコボコと噴き出してるような見た目の艶々した黒い結晶、、あれはネソ珪酸塩鉱物、ガーネットの一種メラナイトでしょうか?よく使われる無色透明の二酸化ケイ素ではありませんね。

 隣でリールタイプの撮影機材を構える仲間がどうなっているだこれはと呻いています。恐らく撮影に成功したものと思われます。

 原理はまだ解明されていませんが、マナの光は磁気テープの方が撮れる確率が高いのです。

 我々はマナの全てを理解しているわけではありません。ですので最新鋭の光学カメラ機材も併用しています。

 今回はサーモグラフ赤外線紫外線撮影機材を全員搭載して上下左右、全体を俯瞰する遠距離、至近距離ドローンでの超近接あらゆる角度から撮影しています。

 マナを視る技術が確立されればこのエデンの地表もまた違う景観に見えてくるはずです。

「見て、隊列が」

 並んだまま宙に浮きました。まるで、ガラスの台座に乗って滑空しているかのようです。

 これは間近で見るしかありません。

「皆さん、行きましょう」

 私たちはステルス迷彩コートを着用、飛行ブースターを起動させて、一行の許に向かいました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ